128.鬼が出るか蛇が出るか
※バトルシーンがあります。苦手な方はご注意ください。
翌日、私たちは川の手前側に拠点を移した。
「何かあったらここに戻って来ること」
カイトが皆にそう言った。本当は川を渡った先にしようという話になったのだけれど、プレムさんたちが反対した。なんでも川を渡ったらそいつの縄張りなのだという。
「我々には何となくそういうことが分かるのだ」
そう言われてしまっては何も言い返せなかった。
「確かに嫌な感じのする山だ」
「面構えからして気持ちが悪い」
オークリーさんとエリスさんがそんなことを話している。問題の雪山は急峻な断崖絶壁を有しているので、人を拒んでいるような雰囲気がある。エリスさんはそれを面構えが気持ち悪いと言っているのだろう。
「何が起こるか分からないな」
「何とかなるだろ。というか何とかしないと」
ギルバートさんとレオンさんも鋭い視線を送っていた。
「魔法石に魔力は込めたか?準備が整ったら出発するぞ」
(もうきっと何かが起こることは確定なのね)
朝からずっと張りつめていて嫌な緊張の仕方をしていた。できるだけ想像の範囲内で済めば良いのにとそればかりを考えている。
プレムさんの背に乗った。カイトがいつものようにピッタリと私を抱え込む。
「大丈夫、必ず守るから」
そっと囁かれた。私は小さく頷く。彼の言葉は不思議だ。それだけで本当に守られている気がするし、私の中に小さな勇気が灯る。
(大丈夫、魔力も体力も気力も十分にある)
きっと何とかなると自分に言い聞かせた。
川を渡った途端、空気が一変した。プレムさんの言う通り縄張りに入ったのかピリピリする。すぐに何か襲ってくるかと思ったが、怖いほど何も無かった。
「何もないね?」
「気付かれていないだけか誘われているのか」
カイトの表情が固い。私なんかよりずっとこの空気にプレッシャーを感じているのかもしれない。プレムさんもずっと無言だ。
最奥の雪山の麓まで来た時、全ては唐突に始まった。
ギャォオオオオオオオオオオ!!!!
それは、巨大な黒いドラゴンだった。山の頂上に出現したかと思うと、地を轟かすほどの雄叫びを上げ始めたのだ。
(…ラスボスだわ……)
赤い目、ゴツゴツとした肌、禍々しいオーラ、威圧感。言葉も通じそうにないし、何をどう考えても友好的には見えない。
威圧されたせいか、プレムさんが大きく仰け反ったので私たちは振り落とされた。箒で飛ぼうとしたがカイトが制止し、魔法で地面に着地する。周りを見ると他の皆も振り落とされているようだった。
ヴァオオオオオオオオオオ!!!!
「え?」
しかし、何かプレムさんたちの様子がおかしいと思った。まるであのドラゴンに呼応するかのように叫んでいる。
「プレムさん!?」
呼びかけるとこちらを見た。正気を失った目をしている。大きな口が開いたかと思うとそこから冷たいドラゴンブレスが私たちめがけて吐き出された。
「ティコスパゴス!―氷の壁―」
目の前でカイトの防御魔法が発動した。
「操られているんだ!」
向こうを見るとラフールさんもミトゥンさんも皆を襲っているのが見えた。
「あの大きなドラゴンを倒すしかない!?」
「理論上はな!」
グァォオオオオオオオオオオ!!!!
ヴァオオオオオオオオオオオ!!!!
ゴォオオオオオオオオオオオ!!!!
ヴォオオオオオオオオオオオ!!!!
ドラゴン4頭による大合唱は鼓膜が破れるかと思うほどうるさく、耐えられずに耳を塞ぐ。それが終わるとプレムさんの爪と牙による猛撃がやってきた。
「ティコスパゴス!―氷の壁―」
「イレクトロピリクシア!―感電せよ― シングラティシーフォトス!―光の拘束―」
目の前のプレムさんの動きはすぐに封じることができた。今回の探索ではほとんど魔力を使っていないのでほぼ10割残っている。まだまだ余力は十分だ。というかここで一気に叩かなければ後半に縺れ込むにつれ不利になっていくだろう。
「カイト、あのドラゴンのところに行こう!」
私は箒に乗ってそう言う。カイトは逡巡して乗ることに決めたようだが、席順に文句を言ってきた。
「1人で行こうとしなかったことは褒めるけど、君は後ろに乗れ!前は危険すぎる!」
「分かった、前は譲るから急いで!」
正直乗り辛かったけど多分こうしないと彼は折れなかっただろう。私は横から覗き込みつつ箒を操作した。
しばらく飛行して黒いドラゴンにあともう少しというところで急激に視界が悪くなり始めた。気が付いたら猛吹雪に襲われていたのである。
「アミナフォトス!―光の防御―」
突発的な攻撃はこれである程度カバーできるはずだ。完全にホワイトアウトしていたが、幸いにも黒い巨体だったので影のようなものは見えている。
「メガリフローガ!―大業火炎― バリストラフォトス!―光の極太矢―」
火と光の属性の中でも高火力の魔法を複数撃ち込んだ。この極限状態でかなり魔力を持っていかれたが出し惜しみなどしていられない。
しかし、渾身の攻撃は黒い鱗に完全に弾かれてしまった。
(全く効かなかった!)
ちょっと食らっているとかではない。全く手応えがなかったのだ。
その時、黒いドラゴンがこちらを向いてきた。大きな口を開いている。何かを吐こうとしているのが分かったので急いで避けた。箒の枝スレスレで、もう少し遅かったら直撃していたかもしれない。黒いものを吐いていて何の攻撃なのか全く分からなかったが、何かヤバいものであることは本能が告げている。一旦距離を取って吹雪に紛れた。
「あいつの真上に連れていって!」
カイトがそう言うのでドラゴンに勘付かれないよう急上昇して頭上近くまで来た。
「ディノダサエラ―風の付与― 回収頼む」
「何をする気!?」
彼は答える前に箒から飛んでいた。
「ちょっと!」
カイトは落下の勢いそのままにドラゴンの頭めがけて風の大剣を突き刺す。
「噓でしょ!?」
彼が大胆な行動に出たことにも驚いたが、剣が鱗に当たった瞬間ガキン!と凄まじい音を立てて折れてしまったことにも驚愕した。刃先は幸いにも彼とは反対の方向に飛んでいったが、ドラゴンが頭を大きく振ったのでカイトは空中に放り出されていた。
(回収頼むってそういうこと!?)
私は急いで箒を走らせる。
「カイト!」
彼は上手く柄を掴むとその勢いで鉄棒のように1回転して箒に飛び乗った。
「お、重い…」
「ごめん!魔力あとどれくらい?」
「あと半分くらい」
「まずいな、奇襲したのに勝ち筋が見えない。一旦引こう」
「分かった アミナフォトス―光の防御―」
再び吹雪に紛れて逃げることにした。視界からドラゴンの姿が見えなくなって安心したその時だ。あのドラゴンブレスを真横から受けてしまった。
「「ティコスパゴス!―氷の壁―」」
光の防御はあっという間に崩れ去り、咄嗟に張った氷の防御ごと吹っ飛ばされる。カイトが私を庇うように抱き締めていた。ブレス自体には当たっていないのに凄まじい威力である。
「リスミスティス!―緩衝となれ―」
地面に激突こそ免れたが、遠目からも見えていた山の急斜面だったので勢いが止まらず転がっていく。
「エピピレオン!―浮遊せよ―」
奇跡的に原型を留めている箒にそう命じた。腕が引きちぎれるかと思ったけれど、カイトも握ってくれたおかげで無事に転落の勢いを削ぐことに成功した。
「カイト、生きている?」
「何とか助かったよ。それより念のため魔法石に魔力を充填して、早く」
言われるがままポケットに手を突っ込んでお守りに魔力を注ぎ込む。即死効果は発動していないものの、先ほどの転落の際に何かしら軽減作用が働いていたらしく込めた魔力が減っていた。
「カイトのは?」
「大丈夫、今満タンになった」
「じゃあ急いでここから逃げましょう」
そう言った瞬間、私たちは交通事故に遭っていた。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




