127.黄金の小鹿探し
「それで、その黄金の小鹿を捕らえたらこうなったと」
エリスさんが欠片を手で弄びながらそう言った。ギルバートさんとオークリーさんが顔を見合わせている。
「俄には信じがたい話ですね」
「ああ、だが3人も目撃しているなら現実に起こったことなのだろう」
「でもよ、これが仮に主の何かだとして、鹿茸と何の関係があるんだよ?」
カイトも私も肩を竦める。誰もこのレオンさんの質問に対して答えを持ち合わせてはいないのだ。
「しかし、これは主に繋がる重要な手がかりと言えるだろう」
プレムさんが代わりにそう答える。
私たちは今、雪洞の近くに焚火を作り、ドラゴンさんたちも交えて全員で今日のことを共有し合っていた。残念ながら他の班は主に関する目ぼしい情報はなく、今のところ有用そうなのは私たちが遭遇した謎の金色に輝く小鹿のみだった。
「ひとまず明日からはこの黄金に輝く小鹿を探してみよう」
「そうだね、それしかなさそう」
エリスさんがカイトに金色の欠片を返した。
「提案なのだが、拠点を雪山の真ん中にある平原に移してはどうだろうか?その方がより探索に時間を割けるのではないか?」
ラフールさんがそう提案する。連峰は盆地のようになっており、ラフールさんの言うように真ん中がちょうどおへそのように窪地になっていた。
「ああ、そうしよう」
後は温泉のことと北側の異様な気配のする土地のことを簡単に皆に共有して打合せは終了した。
翌朝、私たちは拠点を移すと昨日と同じ担当区分をまた探索し始めた。今日からは何を探すという明確なものがあるので心持が楽だ。昨日のうちにあの小鹿を見つけられてラッキーだったと思う。
「とはいえ、全然見つからないわ」
「本当だな。あんなに分かりやすい見た目をしているというのに」
「針葉樹林が結構あるからな。森の奥に潜まれていたらこうやって上空から探すのは難しいかもしれん」
それでもプレムさんはかなり低空飛行で探してくれていた。
鹿は見つからなかったが、別の場所でまた温泉を発見した。私たちが躊躇っているとプレムさんが再びダイブをしてカイトに叱られていた。全く懲りてはいないようだ。
「すぐに入らないお前たちが悪い」
きっと寒さに弱い私たちのことを気遣ってのことなのだろうけれど、肝が冷えるから止めてほしいと思った。ちなみに昨日の段階で他の班も温泉を見つけていたらしく、しかも私たちと同じでドラゴンさんたちが飛び込んで確かめてくれたとのことだった。何かそういう特殊な文化でもあるのだろうか。いずれにしろ、探索途中で凍えたら手近な温泉に浸かるということにしたので凍傷や低体温症のリスクは減りそうだ。
夕方私たちは収穫なしで拠点に帰ったが、オークリーさんとエリスさんが意気揚々と報告をしてくれた。
「金色の小鹿を発見した」
「見て、カイトたちと同じように捕獲したら欠片になった」
エリスさんが欠片をカイトに渡す。カイトが受け取ると手元と懐にあった欠片が急に輝き出した。
「共鳴している?」
カイトが懐から欠片を取り出して近づけると、欠片が眩いばかりの光を放出し始める。何かの反応が終わったかのように光が収束すると2つあった欠片が1つになっていた。
「「「「「「おお!」」」」」」
「凄い!」
「どうなっているんでしょう?」
「人知を超えているが、集めたらきっと何かあるんだろうな」
この光景は私たちの士気を一層高めてくれた。
「一旦日も暮れてきたから夕飯にしよう」
カイトの冷静な一言で私たちは我に返る。薪を作り火起こしをして、夕飯を食べながらまた昨夜同様情報交換をすることになった。
「そっちが見つけた小鹿はどこで何時頃に出没した?」
「地図的にはこの辺りだ。日の入り近かった」
オークリーさんがそう答える。ここでミトゥンさんがカイトに言った。
「探していて思ったけど、これが鹿なら日の入りから夜明けまでの方が活動しているはずだよ。それに光っているなら暗い方が探しやすいんじゃない?」
「確かにそれはそうだが」
「しかし、夜の探索は危険が伴います」
ギルバートさんが反対した。
「ギルの言う通り、夜は気温も下がるし視界も悪い。俺たちにとっては不利なことが多いんだ」
「じゃあ僕たちが夜に狩りに行こうか?」
「ミトゥン、我々だって夜目が利くわけではない。魔物に奇襲を受けて怪我をするのはこの場合得策ではないだろう」
プレムさんがミトゥンさんを諫める。代わりにこう提案してきた。
「日の出と日の入りの探索を少し増やさないか?日が隠れていても少しは明るいだろう」
この提案にカイトは承諾した。そして日中の数時間は休息時間に充てられることとなった。
黄金の小鹿が見つかる場所はバラバラだったが、日の出と日の入りの時間帯がやはり見つけやすかった。
「段々丸くなっているな」
カイトが集まってきた物体を見ながら言う。彼の言う通りそれは手のひらサイズの黄金の球体のようになってきていた。
「あとどれくらいだろうね?」
「この球が完成するくらいだから、あと1、2個じゃないか?」
今のところ良いペースで小鹿が見つかっていた。
そして国を出発してから8日目の夕方、私たちの担当区域でとうとう最後と思しき黄金の小鹿を捕らえた。ちょうど最奥手前のあの川付近だった。
「よし、合わせるぞ」
いつものようにカイトの手の中で物凄い光を放ちながら欠片が1つになる。その全てが終わった時、予想通り黄金の球体となり、フワフワと宙を漂い始めた。まるで黄金のフェアリーのようだ。しかし、それはカイトの手を離れて川の方へ近づいていく。私は途中で捕らえようとしたもののするりと掻い潜られしまった。
「え?ちょ、ちょっと待って!」
「アリサ?」
そしてそのままその黄金の球は川を渡って、プレムさんが危険だと言っていた川の以北へと姿を消してしまった。
「どうしよう、あっちに行っちゃった」
「待って、アリサ。俺には何も見えなくなった」
「我にも何も見えていない」
「え?」
私はきょとんとしてカイトとプレムさんと交互に見るが、2人とも首を横に振っている。
「どこまで見えていたの?」
「欠片を繋ぎ合わせるところまでは重さもあったし見えていた。光が収束した途端、手から重みが消えて見えなくなっていた。アリサには見えていたんだな?」
「うん」
私は見えていた一部始終を伝えると2人の顔が曇った。
「やはりあの土地は避けて通れんということか」
「俺もプレムがそこまで言うなら行きたくなかったんだが」
「行くしかあるまい」
「ひとまず今日はもう暗いから明日出直そう。皆にも説明が必要だ」
「結局あれは何だったんだろう?」
「さぁな。ただあの地に誘われていることは確かだ」
せっかく集めたというのに手元から無くなってしまい、行きたくない危険な場所に向かう羽目になったので、当然皆の士気が下がったのは言うまでもない。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
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