125.最後の探索
※敵を倒すシーンがあります。苦手な方はご注意ください。
冬の最終月の5日目。私たちはドラゴンさんの棲家の北山を訪ねていた。というのもここから更に北側に位置する不毛の地は広い雪原の奥に雪山の連峰を有する銀世界だ。余程特殊な訓練を受けた者でない限りは遭難して凍死するのがオチである。近衛兵の皆は多少の心得があるのかもしれないが、私はそんな特殊訓練など受けていないズブの素人なので徒歩での移動は困難だった。そこで先日の日本食パーティーの際、シルヴァさんに協力要請を依頼したところ快諾して頂き、今回はドラゴンさんたち同道の元で北山の主を探すことになったのである。
「本日からよろしくお願いします」
一緒に旅をするのは寒さに強い3人のアイスドラゴンさんたちで、私とカイトを乗せてくれるのはプレムさん、レオンさんとギルバートさんを乗せるのはラフールさん、オークリーさんとエリスさんを乗せるのはミトゥンさんだ。3人の中ではプレムさんがリーダーらしい。ちなみに流石に時期長が確定しているシルヴァさんはアイスドラゴンとはいえ危険な地の探索に連れて行くことはできなかった。同道できないことを悔しそうにしていたシルヴァさんだったが、代わりに屈強で勇猛なドラゴンさんたちをつけてくれたようだ。
「これ、今回一緒に来て頂く皆さんに作ってきました。身を守る大事なお守りです」
そう言って私は3人のドラゴンさんたちの首にペンダント型にしたお守りの魔法石をかけた。今回ドラゴンさんたちの同行が決まった時、私はまたカイトと一緒にフェアリーの墓場に赴いて3人分の魔法石を作っておいたのだ。ペンダントにしたのはドラゴンさんにはポケットがないからである。なお魔法石は国宝になる予定なので、他言無用でお願いした。
「これは常に身に着けておく必要があるのか?」
「はい、効果は先ほど話した通りです」
プレムさんが訊ねてきた。
「何だか身体に当たると痒いのだが」
「それは、我慢してもらうしかありません。身を守る大事な物ですから」
「ふむ」
普段何も身に着けていないドラゴンたちにとってペンダントは少しくすぐったいらしい。
「では、行ってきます」
こうして私たちはそれぞれのドラゴンさんたちの背に乗って最後の不毛の地へと向かったのだった。
ドラゴンさんの背の上は相変わらずの乗り心地だった。しかし今回は前回の反省を活かして手に箒を握っているので心的余裕がある。その他の荷物はドラゴンさんの後ろ脚に引っ掛けて運んでもらっていた。ちなみに今回は食料15日分だ。それまでに終われば良いのだがと毎回思う。
「アリサ、寒くない?」
「顔が冷たいけどそれ以外は大丈夫だよ」
プレムさんの背の上でカイトが訊ねてきた。雪山の探索なので中の服はとにかくできるだけ着込んで温かくし、アウターには毛皮仕様のフード付きのローブを纏っている。マフラーと帽子と手袋も着用し、カイロ代わりの石なども懐に忍ばせており、万全の態勢で雪山に臨んでいた。マフラーに顔を埋めているので、寒いのは肌が露出している目元くらいだ。もっともこれは私に限らず皆も同じような格好をしている。
「休憩の時には必ず手足の先を温めて。アリサは特に末端が冷えていて凍傷になりやすいと思うから」
「うん、分かった」
今回の探索で気を付けるべきは低体温症と凍傷で、雪山自体の標高はそれほど高くないとのことだったので高山病のリスクは低そうだった。一応休み中に雪山の本を借りて読みはしていたので、予防方法や症状、それに治療法は何となく理解しているつもりである。治癒魔法は自然治癒能力を向上させるので、実は低体温症にはあまり効果がない。凍傷は治せても温めないとまたすぐなってしまうので、とにかく暖を取ることが大切だ。末端冷え性の私はカイトの言う通り本当に気を付けなければならない。
「というかカイト、この態勢ずっとは辛くない?」
前に私が落ちる落ちると喚いていたものだから今回もほとんど抱えるようにして乗っていた。
「全然。着込みすぎてアリサの熱を感じないのがちょっと残念なくらい」
「…さてはあの時も楽しんでいたわね?」
「今頃気が付いたのか?」
ふふんとカイトが笑う。
「なんだお前たち、付き合っているのか?」
「ああ。ようやく最近付き合い始めたんだ」
プレムさんに突っ込まれた。そう直球で言われると顔から火が出そうなほどに恥ずかしいが、カイトはそれが何か?とでも言わんばかりだ。
「良かったな。大事にしろよ」
「勿論」
「あ、あの!プレムさんたちの荷物ないですけど本当に大丈夫なんですか?」
私は強引に話題を変えた。
「ああ、俺たちはこのくらいの寒さなら余裕で耐えられるし、食料は現地調達する」
「え?」
「魔物を狩って食うのさ。知らないだろ。意外と美味いんだぞ?」
プレムさんが得意げに笑っている。私とカイトは顔を見合わせた。まさか自分たち以外にも魔物の味を知っている者に出会うとは思っていなかったのだ。
「何で魔物を食べてみたんですか?」
「昔、食糧難の時にこの不毛の地に降りて魔物を食ったら案外美味くてな、それ以来たまに食料が無くなると狩って食っていたんだ」
「へぇ」
ドラゴンさんたちとは今まで隔絶していたので、まさかそんなことをしているとは知らなかった。
「ほら、俺たちの昼飯候補が来たぞ」
何かと思えば荒地の時とはまた少し違う大きな鳥型の魔物が飛来してきていた。プレムさんが合図を出すと他の2人のドラゴンさんたちも迎撃態勢に入り、氷のドラゴンブレスや鋭い牙の咬みつきなどであっという間に片付けてしまった。
「不毛の地での戦い方を知っているんですね」
「ああ、魔法が不安定なのは知っている。ブレスは魔法じゃないから役に立つんだ」
「なるほど」
(こんなことなら他の探索も協力をお願いすれば良かったんじゃない?)
カイトも口には出さないけれど、顔にそう書いてあった。そしてきっと他の皆もそう思っているに違いない。
ドラゴンさんたちは空いているもう一方の後ろ脚の爪で、それぞれ1羽ずつ怪鳥の首を掴むとまた飛び始めた。どうやら本当にお昼ご飯にするらしい。
「そう言えばこの不毛の地のフェアリーの状況は?」
「相変わらず飛んでいるフェアリーの数は少ないけど、水、風、闇は比較的多いかな。火と雷と光は少ないから今回もギルバートさんが1番辛いかも」
「後で休憩の時にでも皆に共有しよう」
そして次の休憩時にギルバートさんに伝えたら諦念の表情を見せた。「まぁ、魔力を多く出せば使えないわけじゃないですし」と嘯いてもいた。本当に可哀想である。
朝からひたすら雪原を飛んでもらい、途中休憩を挟みながらも順調に進み、日の入り前には雪山連峰の麓まで到着した。
「圧巻ね」
私はその光景に息を呑む。夕日に照らされた山々は雪が茜色に染まってまるで燃えているようだった。
「綺麗だな」
「ええ、残酷なほどに。フェアリーがいて良かったわ」
今の私には魔法があるから最悪荷物を紛失したとしても生存のためにある程度のことはできるだろう。しかしもしこれが生身の人間だと思ったらゾッとする。人の命の儚さを感じさせるほど目の前の自然は美しく壮観で、冷酷だった。
「カイト、アリサさん、早く雪洞作ろうぜー」
レオンさんに呼ばれて我に返る。呼び声に促されて皆の集まっている場所へ向かった。ねぐらのためにかまくらのような形の大きな1つの雪洞を皆で手分けして魔法で作製する必要があった。ちなみに私だけ別というのも考えたが、皆で1つの雪洞に入った方が温かいと思ったのだ。有難いことに皆紳士なので今更私が同じ屋根の下で寝たところで何かが起きるはずもないし、余計なことに使う体力もない。
ほどなくして自分たちの雪洞が完成したのでドラゴンさんたちの雪洞に着手しようとしたらプレムさんが驚くべきことを言ってきた。
「俺たちは外でそのまま丸まって寝る」
「本当ですか?」
「ああ、雪はベッドだ。見張りも外の俺たちがやるからお前たちは要らん。何か緊急事態があれば起こそう」
これにはカイトも色々と吃驚していたが、最終的にはお言葉に甘えることにしたようだ。そして夕飯を食べ終わると本当に雪洞の近くを囲うように3人で丸まって床についていた。まるでハスキー犬を彷彿とさせる寝姿だった。
「俺たちも早く寝よう。雪山はとにかく体力と魔力勝負だ」
不毛の地で全員が気を張らずに一緒に寝られたのはこれが初めてだった。本当に何から何までドラゴン様様である。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




