123.解禁
無事に帰国した私たちはまた報奨と労いの長期休暇をもらうことになった。最後の材料はとある理由で冬の最終月の5日目から探索を始めるので、今回は1か月近くの大型連休である。
「国王陛下、1つお願いがございます」
「なんだ?」
謁見が終わろうとした時に私は陛下に奏上した。
「お休みのどこかで夜の時間に王城の食堂を貸し切りにして頂けませんでしょうか?それから王城の料理人の方々もお借りしたく存じます」
「何をするつもりだ?」
「和食調味料の熟成が終わる時期ですので、これを機に日本食パーティーでも開催したいと考えております」
「日本食パーティーだと!?」
国王陛下や一緒に謁見していた近衛兵の皆の顔に衝撃が走っていた。
「はい。味を知ってもらうような会なのでパーティーというほど畏まったものではありませんが、日本食のみの食事で立食形式にして、国王陛下と妃殿下、ここにいる近衛兵の皆さんと王城の料理人の方々に召し上がって頂きたいと存じますが、いかがでしょうか?」
「それなりの規模になるな?」
「はい」
王城の料理人たち全員となるとそれなりの規模になるが、実はそちらからも熱烈なアピールを頂いていたのでこの際パーティーにしてしまった方が楽なのでは?と考えたのだ。
「まず結論から言うと是非ともやってくれ。日程や提供方式の細かい部分は後日打合せよう。ちなみにそのパーティに各種族長と兵団長を呼んでも良いか?」
「構いませんが」
(陛下、さては各種族長と兵団長にも日本食の話をしたわね?)
「参加人数なども含めて追々煮詰めてくれ、ヴォイニッチ頼む」
「承知致しました」
夏以来、いつか、そのうち、また今度、忙しいからと引き延ばしに引き延ばしていた皆との約束を私はいま回収すべく動き始めたのだった。
今回の試食会は私の休息を加味して謁見から4日後の夜に行われることになった。メンバーは前回同様ジョゼフ料理長に中堅のポールさん、若手のジュールさんでレシピは共有済みだ。皆とうとう仕込んでいた調味料を解禁するとあって気合が入っていた。
「では早速始めましょうか」
分担しててきぱきと作業を行なっていくが何せ今日は品数が多い。付け込む時間や煮込む時間が必要な料理は先にこなし、手間のかからない料理は合間に片付けていく。
途中ジョゼフさんから質問があった。
「基本的に醤油、日本酒、砂糖、もしくは味噌、日本酒、砂糖で味を整えるものが多いのだな?」
「そうですね。極論かもしれませんが和食は基本的にそれでほとんど味が整うと私は思っています。後はそこからの派生で、出汁を入れて味に深みを出したり、薬味を入れて味を際立たせたり、酢でさっぱりさせたりします」
そうやって味付けしたものを焼くか煮るか揚げるかの調理方法の違いで料理は様変わりするし、食材によっても違った味になるのだから本当に料理は不思議である。
「ふむ。始めはどのように使えば良いのかと思っていた調味料類だったが、こうやってレシピを見て実際に作っていくと何とも分かりやすいものだ」
「良かったです」
「しかしこれが日本食の全てではないのだろうな」
「そうですね。レシピをあれこれ検討しましたが、作れないものはまだまだ沢山ありました」
日本食の代表的な食材である豆腐や納豆、練り物、麺類系は私が不甲斐ないばかりに作り方が分からないし、野菜、薬味、山菜、きのこなどはこちらの世界では普及していない食材も多いため今後味の似た物を探して代用していくしかないだろう。また残念なことに海藻は全くないし、もち米や小豆がないので甘味類も全滅である。
「でも提供できるものもいっぱいありますから」
「ああ、楽しみだ」
全ての料理が完成した時にはてっぺん間近だったが、後は味見をするだけである。
「まずは前菜代わりの料理から味見していきましょうか」
「ではまずは和え物3種から」
作っていたのはタコの酢味噌和え、ほうれん草の胡麻和え、ラディッシュの酢の物だ。実はこちらの世界のきゅうりはあまり生食に向かない。ピクルスくらい漬け込んだら別なのだが浅漬け程度では美味しくないのである。それに比べラディッシュはこちらの人々にとっては馴染み深いものだし、大根の親戚だから実質なますみたいなものが出来上がった。皆の反応も上々だ。
「サラダのドレッシングも試そう」
サラダは厳密にいえば和食ではないのだが、日本のドレッシングは海外に人気があったのでこちらの世界の人たちにも知ってもらいたかったのだ。今回は3種類、胡麻ドレッシング、玉ねぎ醬油ドレッシング、ポン酢ドレッシングを作ってみた。
「これは絶品だ」
ジョゼフ料理長が絶賛し、ポールさんとジュールさんからも指示を受けたのは胡麻ドレッシングだった。
「美味しいですよね。これをゴマダレにして茹でた野菜や豚肉と食べても美味しいんですよ」
「ジュール、描き込んでおけ」
「はい!」
流石に今から用意する時間は無いのでこういった私の小話で出る派生料理は後日試すつもりなのだろう。
「あと今回は作りませんでしたが味噌マヨネーズドレッシングとかもできます」
「味噌とマヨネーズを合わせるのか?」
「はい、それだけでも試してみましょうか」
私が手早く合わせた味噌マヨネーズを3人が味見した。
「これは意外な組み合わせですが美味しいですよ」
ポールさんは気に入ったようだ。
「どうせならこれも追加してドレッシング4種類で皆の意見を聞こう」
ジョゼフさんがそんなことを言う。今回のパーティーは料理人全員に食べてもらうので後日大型意見交換会みたいなのをやるつもりなのだろう。
「次は副菜です」
作ったのはあさりの酒蒸し、大根の味噌田楽、茄子の煮びたし、かぼちゃの煮物だ。ちなみにこちらの世界には青首大根がない。皮が黒とか赤い大根が普及している。ただ味は変わらないのでそのまま使わせてもらった。
「実に良い!素材の味をそのまま引き立てているという感じがする」
「日本酒や焼酎にも合いますね」
今回のパーティーでは料理は勿論のこと作っていたお酒も提供する。ジョゼフさんとポールさんはペアリングを考慮してそれぞれお酒を片手に料理に舌鼓を打っているが、ジュールさんは早く次に行きたいようだった。
(若いからがっつりしたもの食べたいわよね)
主菜には角煮と煮卵、鯛の煮つけ、鯖の味噌煮、味噌漬け豚ロース、肉味噌野菜炒め、揚げ物には皆大好き唐揚げ、チキン南蛮、それからザ・和食の天ぷらを作っていた。これらは本来おかず枠だが、今回は白米を想定していないので塩分は控えめだ。
「本来はこれをおかずに白米を食べます」
「なるほど」
「唐揚げとチキン南蛮美味しいです!」
ジュールさんがニコニコ笑顔だ。ジョゼフさんとポールさんは天ぷらでまた一杯引っかけようとしている。
(何と言うか試食会というよりただの宴会ね)
私は苦笑した。まぁ料理に於いて苦楽を共にしてきたこの3人が前哨戦でここまで楽しそうにしてくれているなら良いかと思ってしまった。
「〆のご飯ものと汁物いきますよー」
ご飯ものには親子丼と牛丼と炊き込みご飯を子盛で提供するつもりだ。炊き込みご飯と言っても五目の材料は揃わなかったので、こちらの具材でポルチーニとマッシュルーム、そして鶏肉で作ってみた。これが案内美味しかった。汁物は豚汁風の味噌汁とちゃんこ鍋風の汁物にした。豚汁風なのはごぼうがなかったからで、ちゃんこ鍋風なのは鍋のようにつつかずに提供するからだ。どちらもほっこりする味で身体に染み渡る。
「全部採用だ」
「大丈夫ですか?」
「せっかくの機会なのだ。提供も我々が時間交代で回していけば問題ない。アリサさんが教えて下さる未知の料理は我々としても全て吸収して、更なる高みを目指したいと思っている」
やや酔っているふうにも見えたが、この場の3人は燃えていた。
(それならついでにあれもやっちゃおうかな)
「あの、じゃあまだやりたいことあるんですけど」
「おお、なんだ」
私たちは随分と遅くまで日本食パーティーに向けて念入りな打合せをしたのだった。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




