121.ため池と遺跡の調査
翌朝、私は皆に心配を掛けたことのお詫びをした。皆は無事で良かったと安堵している。やはり相当な心配をさせてしまったようだ。
国を出てから8日目だった。最終日は船の移動をしなければならないので今日か明日中には湖の主を見つけたいところである。船の修理を考えるならタイムリミットはあと1日半くらいだろうか。
私たちは手早く朝食を澄ませると遺跡に向かった。
「広場の方は見ないで。色々生々しい後が残っているから」
ゴブリンやオーガの死体や私の血痕がそのまま残っているのだろう。別にみても平気なのだが、カイトは見せたくないようだったので私も大人しくそれに従った。
緑色のため池はやはり湖という感じはしない。それでも一応主がいるか調べる必要があったので長い木の枝を使って皆で池の中を掻き回してみた。
「魚の跳ねる気配すらありませんね」
無情にもエリスさんがそう宣言する。
「しかしこれでこの島が違うと断定できただろう」
「ああ、問題はじゃあ本当の南の最果ての島がどこかということだな」
オークリーさんとカイトが話し込み始めてしまった。
(やっぱり違う島なのかな)
何となく諦めきれずに私は遺跡の外側だけでも見てみることにした。
「レオンさん、良かったらついてきて」
「どこに行くんだ?」
「あの遺跡を見に」
近くで暇そうにしているレオンさんを誘う。独りで行動したらきっとまたカイトを心配させてしまうからだ。彼と約束をした以上それはきちんと果たさねばならない。
「近くで見ると壮観ね」
「これ魔法なしで建てたのかな?」
「さぁ、昔は魔法が使えたのかもしれないけど、使えなかったら人力じゃない?」
「これ人の力でどうにかできるもんか?」
「私の元の世界では魔法が使えなかったけれど、何千年も昔の人がこういう建物を作っていたわ」
「アリサさんの世界の人って聞く限りタフだよな」
「そうかな」
レオンさんとそんなことを話しながら、池に近い遺跡の後方部分を観察する。このピラミッドは大きく切り出された岩とレンガのような手頃な大きさの石の両方で構成されている。ピラミッド下段は苔や蔦に覆われていたので、何かないか手で取りながら見ていった。
「アリサさん、これ見て」
レオンさんの視線の先には古代の人が残したであろう絵が石に彫られて残っていた。私は目を見開く。
「これ、湖の絵じゃない?」
「だよな」
絵は上の方に小さくピラミッドがあり、その下に縦長の楕円が描かれていた。湖だと思ったのは楕円の中に魚と思しき形がいくつか小さく彫られていたからだ。そしてその湖のほとりには数か所直線が伸びていた。これは何を表しているのかちょっと分からない。
「やっぱりこの島で合ってんのか?」
「少なくとも湖はあったんじゃない?しかもこの絵が正しければ遺跡の近くにあったということよね。干上がって主も死んじゃったのかな?」
「でもこの辺りにはそんな窪んだ地形も無いけどなぁ」
「そうね。それにこの描かれ方だとあのため池ではなさそう」
「だな」
そう言うとレオンさんはこの絵を見てもらうためにため池のほとりで話し込んでいた4人に声をかける。絵の前に集まるとまた話し合いが始まった。
「確かに意味深な絵ですね」
ギルバートさんが興味深そうに眼鏡をくいと上げる。
「どうする?もう1回島をくまなく探す時間は無いよ」
「一旦帰ってまた来るか?」
エリスさんとオークリーさんがカイトの顔を見た。
「島を探し直すならそうなるだろうな。ただもう既にかなり見て回っていると思うんだが」
「また前みたいに魔物食べれば調査時間延ばせるんじゃねぇの?」
「レオンさん、食指の湧く魔物いました?」
私が指摘した。ここで遭遇する魔物は虫型か人型だ。私としては虫食はご遠慮願いたいし、カニバリズムの嗜好もない。
「カイト、この遺跡の中に入ってみない?何か手がかりがあるかも」
「この遺跡に入口なんてあったか?」
「え?入れないの?」
「外観をパッと見た限りではそう言ったものは無かったように思う」
私はカイトにそう切り返されて困惑した。同時に洞察力が鋭いなと内心関心する。
「ごめん、ちゃんと見てなかった。この手の遺跡って全部中に入れるんだと勝手に思っていたわ。あ、でも1番上の建物には小窓があったよね?」
「あそこは遺跡の中に入れるところなんかなかったよ」
何でレオンさんがそんなことを言うのだろうと思ったが、弓兵を倒すように言われていたことを頭の片隅で思い出した。それならこのピラミッドは単なるモニュメントのようなものか。
「まぁでもアリサの言う通り、帰る前に手がかりを求めてこの遺跡を調べるのはやってみる価値があるだろう」
カイトの提案に皆が賛成したので、早速手分けしてピラミッドの調査をすることになった。
「何か見つかると良いんだが」
「本当に」
この島が怪しいことは確かだが、現状湖は見つかっていない。神々の導を疑うわけじゃないけれど、材料が揃わない状態になっているなんてことがあったら骨折り損のくたびれ儲けも良いところだ。
しばらく私たちは黙々と遺跡とにらめっこをしていた。勿論ピラミッドの上段を調べることも忘れない。何かギミックや罠がある可能性もあるので慎重に探していった。
小一時間後、隣にいたカイトが声を上げた。
「ここの石、よく見たら積み方がおかしい」
「え?そうなの?」
そこはレンガくらいの石が積み重なっている部分だった。私が見ても何も分からなかったのだが、彼には何か違和感があったらしい。
「何があるか分からないから、アリサは俺の後ろに隠れていて」
そう言ってカイトは下の方にある少し出ていた小さな石を引っ張った。途端バランスを崩した石たちがガラガラと崩れていく。
「君の言った通りになった」
カイトは驚いた顔でこちらを振り返る。私も唖然とした。瓦解した場所には遺跡の中に入る出入口が出来ていた。そこはちょうどピラミッドの前方中央部分で、出入口があるのも頷ける場所だ。
「何の音だ?」
音に気が付いて皆集まって来る。出入口を見てもらうと吃驚していた。
「これは冒険心に火が付くぜ!ギル、拠点からランタン取って来よう」
レオンさんがワクワクした顔をしながらギルバートさんと一緒に駆け出していた。
機敏な2人はあっという間に全員分の灯りを取って来てくれた。
「中には何があるか分からないから慎重に進むぞ」
カイトを先頭に狭い通路を進む。中は長年開けられていなかったせいで黴臭かった。しかしそれ以外は比較的保存状態が良いと思う。
真っ直ぐ一本道の通路を進むと少し広い場所に出た。部屋は円形で奥には床に大きな穴が開いているようだった。家具類はなく簡素な空間だが、一際目を引くものがある。
「人骨だわ」
夥しいほどの人骨だった。壁に凭れるように座っているか、床に倒れている。小さい人骨も多くあった。
「ここは戦争の際、避難所になっていたのかもしれません。女性や子どもの人骨がほとんどです」
ギルバートさんが人骨を観察しながら言った。カイトもその見立てに頷く。
「普段は集会所の役割を担っていたのかもな」
「突然動き出したりしない?」
「これが魔物ならもう襲ってきているよ」
カイトが笑った。
「そんなこと話している場合じゃねぇ!こっち来てみろよ!」
「レオン、うるさい、響く」
「カイト、こっちの大穴から水の音が聞こえるぞ」
エリスさんが窘め、オークリーさんがカイトを呼んだ。急いで見に行くと、オークリーさんの言う通り地下から水の揺蕩う音が聞こえてくる。
「まさか…」
私たちは逸る気持ちを抑えながら急な階段を降り、ランタンを掲げた。
「地底湖だ」
誰かがそう呟いた。
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次回は明日の12時台に投稿予定です。
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