119.奇襲
※戦闘シーンがあります。苦手な方はご注意くださいませ。
翌夕刻、出発時間まで間もなくだ。今日は不死鳥に会っていないなと思っていた矢先、まるで挨拶に来てくれたかのように顔を出してくれた。また木の上から様子を伺っている。
「行ってくるね。皆の無事を祈っていて」
私は小声で挨拶をすると、お供えをするかのように昼に少しだけ残しておいた携行食を昨日と同じ場所に乗せた。不死鳥は私と餌を交互に見てじっとしている。
「アリサ、行くぞ」
「うん」
遺跡までは歩いて20分程度だ。到着すると遺跡の広場はまだ西日があったけれど、森は既に暗い状態だった。
「作戦取り、レオンとエリスは先にオーガを狙ってくれ、ギルとオークリーは数減らしを頼む」
「「「「了解」」」」
「アリサは俺から絶対に離れないで」
「分かった」
カイトは私を護衛しつつ数を減らすらしい。ちなみにやはり目の届かないところにいないと怖いという理由からお留守番ではなく私も同行している。
ギルバートさんとオークリーさんが広場に出て行って、何体か倒して引き付けてから森に戻って来た。突然の襲撃に敵は慌てていたが、オーガが何か発声すると落ち着きを取り戻し、ゴブリンおよそ20体とオーガ1体が森の中に入ってきた。きっとこれで1小隊なのだろう。
皆は木の陰や茂みを上手く利用し、各個撃破をしたり、死角から切り込んだりと数の劣性を覆しているようだ。私はというと茂みに隠れてただじっとしている。カイトが近くで大立ち回りを演じて私の存在を気取られないようにしていた。
(そう言えば今回私、あんまり狙われていない?)
この島の魔物は魔法が使えないから魔力量の多い私にあまり反応を示さないのかもしれない。
「オーガ1体打ち取ったぞ!」
レオンさんの大声がこだました。森におびき出してからそう時間は経っていない。あっという間の出来事だった。
1小隊を殲滅したところで、レオンさんが討ち取ったオーガの首を広場に投げ入れた。これは最も煽情的な挑発だと思う。次は2小隊が釣れたようだった。これも要領は同じで、皆どんどんと敵を屠っているのが分かる。肉を断つ音、足さばきの音、息遣い、魔法が使えない分そういうものをいつもよりも生々しく感じる気がした。
すぐ後ろでカイトとは違う、軽い足音が聞こえた。急に鼓動が早くなる。私は口元を押さえて懸命に息を殺した。
(姿を見られる!)
そう思った瞬間、物凄い気迫のカイトがその敵を後ろから切り倒していた。
「ごめん、大丈夫?」
「う、うん、大丈夫。ありがとう」
殺気が駄々洩れで思わず気圧されてしまった。いつもよりずっと集中しているのか、無表情で冷たいとさえ感じる。まるで別人の雰囲気だ。
(何か私、変にドキドキしてる?)
これが世にいうギャップ萌えというやつだろうか。普段の優しくて柔らかなカイトとは違う面を垣間見た気がした。
オーガ2体も討ち取ったと報告が上がり、残党狩りも終了したところで一旦集合した。
「あと2小隊なら広場の方がやりやすいか」
「ああ、問題ないだろう」
カイトとオークリーさんが手短に話す。皆もそれに同意したように頷いた。
「アリサはここから離れないで」
「分かった」
先ほどから少し移動して、森の端の茂み待機だった。この間と同じようにピラミッドを横側から眺めるような位置だ。
皆一度散開してから広場に突っ込んで、多方向から敵を攻め上げている。敵は何か陣形を組んで対応しているみたいだが、きっと皆の戦闘能力であれば瓦解は早いだろう。
その時、異音がした。
カン、カン、カン、カン…
(何だろう、この音?)
鐘の音ともまた違う聞いたこともない金属音だった。皆は戦いに集中していて聞こえていないようだ。私は音の位置を探るために周囲を見回す。するとピラミッドの一番上の神殿の小窓から先日はなかった切っ先が顔を出していた。
(バリスタだ!)
「カイ…」
警告しようとした時、ちょうどカイトはオーガの1体と対峙していた。これで呼びかけたら隙ができてしまうかもしれないと逡巡したら声が出なかった。しかしあのバリスタは方向的にカイトを狙っている。
(あれは一体いま、どれくらい引き絞られているの?)
それを考えた瞬間、身体は自然と前に出ていた。居ても立っても居られなかった。何かを考えていたようにも思うし、何も考えられていなかったようにも思う。ただ間に合えとそればかりを願っていた。
そこからは何故かスローモーションで見えていた。私が直線上に来た時、ちょうど矢が発射された。矢というよりは最早槍に矢羽をつけたような武器が飛んできている。私は身体を矢の正面に向けた。カキン!と1回お守りが発動したようにも感じたけれど、そのままその切っ先は私の右腹部に食い込んだ。
「ぐっ!」
物凄い衝撃で身体が仰向けに倒れる。それから激しい痛みに襲われた。身体は痺れたように動かない。自然と呼吸が浅くなる。変な汗が噴き出して止まらなかった。
「アリサ!!!!」
倒れた音で気が付いたのかカイトが駆け寄って来た。苦渋に満ちた顔をしている。
「遺跡の1番上の建物…」
「分かった、もう喋らなくて良い!…レオン!弓兵を頼む!遺跡の1番上だ!ギルは俺と一緒に来い!…ごめん、少し痛むかも」
カイトはそう言うと長い矢を腹部の近くで切り落とした。すぐに私を担ぐと拠点の方に走り出す。
「酷い出血です」
ギルバートさんも近くに来ていたようだ。気付かなかった。
「ここで応急処置をしても間に合わない!海に出て治癒魔法を施すしか」
「露払いは私が」
「頼む」
(ああ、寒いな)
冬だからか身体の芯まで冷えてきたなと思った。
(早く温まりたい。焚火の前で、皆と一緒に)
「アリサ、起きて!意識を失ったら駄目だ!お願いだから目を開けて!目を開けろ、アリサ!!」
カイトが必死に叫んでいる。何かあったのだろうか。私は眠たかったけれど目を開けた。ぼんやりとカイトの顔が見える。
「良かった…そのまま、そのまま起きていてくれ!」
「眠たい…」
「今はまだ駄目だ!」
「履修登録、してない」
「は?」
「卒業、できないかも」
「何の話をしているんだ?」
(あれ、私いま何の話しているの?)
「アリサ、気を保つんだ!お願いだから、死なないで!!」
(私、死ぬの?)
カイトの顔はベールを覆ったように見えない。視界の隅に赤い何かが過った気がした。
私の意識はそこで途絶えた。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




