118.遺跡とため池
翌日、太陽が真上に来る頃に私たちは拠点の移動を終えた。昼休憩を挟んで今日は半日探索をする予定だ。島の形的には手前よりも奥側の方が細くなっていたので、こちらの方が探索時間が短くて済みそうだった。
「あ、ちょうど良いところに」
お昼ご飯を食べていると不死鳥が飛来してきた。高い木の上に止まり、またこちらをじっと見ている。カイトが不思議そうに見つめ返していた。
「あいつ本当に毎日見かけるな」
「好奇心が強いんじゃない?」
着かず離れずといった距離は野良猫のようである。
私は携行食を少しだけ割ってその木の下にあった石の上に置いた。不死鳥は少し首を傾げただけで近づこうとはしない。
「やっぱり警戒心が強いのね」
あるいは気高いのかもしれなかった。
休憩が終わって私たちは不死鳥に別れを告げて探索に出る。少し歩くと、先日島の全景を見た時に気になっていた遺跡が見えてきた。まるでマヤ文明のピラミッドのようだ。灰色の石が段々になっていて、かなり上まで積まれている。また一番上には小さな神殿のような建物が乗っており、前方には小窓がついていた。今は角度的に遺跡の横側から見ているので中の様子は見えない。遺跡の前方は広場のように開けていた。
私が遺跡に興味を惹かれているのに対して、皆の警戒は強くなっていた。何かと思えばその遺跡はゴブリンとオーガに占拠されていたのだ。
「あの2種が群れを形成しているのは少し厄介だな」
オークリーさんがそんなことを言った。私は皆が何を警戒しているのか分からなくて思わず訊ねていた。
「どうしてですか?」
「それぞれ単体の群れならさして問題ないのですが、合わさるとオーガがゴブリンを統率するようになるんです。知恵もつくようになるのでそれが厄介で」
「なるほど」
人のように社会性を身に着けるということか。
「もしかしたら獣型や鳥型の強個体がいなかったのは奴らが全滅させたのかもしれません」
エリスさんが驚きの発言をした。
「そんなことあるんですか?」
「個々は弱くても数の力が合わされば強敵を討つことができます。人も同じでしょう」
「確かに」
「ここは刺激せずに迂回しよう」
カイトの言葉に皆同意して神殿の後ろ側を大きく迂回する。しかしその道中、私は気になるものを見てしまった。
「待ってカイト、あそこに水たまりがあるよ」
「あれは、ため池じゃないか?」
確かに緑色に濁った水は湖には見えない。
「でも今までああ言う水たまりも見かけなかったでしょ?もしこのまま湖らしきものが見当たらなかったら消去法であれになるんじゃない?」
「あれは流石に違うと思う」
しかしそのまま半日捜し歩いたものの、湖は見つからなかった。
「まさかあれが本当に湖って言うんじゃないだろうな」
「まぁどう考えてもため池にしか見えなかったよね」
島を俯瞰した時に一見して湖がありそうな場所もなかったから、森の中に隠れてしまうほど小さい湖なのだと思っていた。しかし今のところあれしか水が溜まっている場所を見ていないので、このままだと本当に消去法であそこになるだろう。
「ひとまず明日で全部探索できると思うから、明日に期待しよう」
カイトは少し思考を放棄したようだった。
拠点に戻ると石の上に置いてあった餌付用の餌がなくなっていた。あの後不死鳥が食べたのか別の魔物が食べたのかは判然としない。
国を出発してから6日目、今日は島の奥側、昨日見きれなかったところを全て見て回る。
「引き続きあのゴブリンとオーガの集団には注意して進もう」
カイトの指示通り、遺跡は大きく迂回して探索を進めていった。魔物の生態や襲撃は相変わらずで多種多様な魔物を見かける。最早私たちは魔物なのかさえ分からない大きなキノコさえ発見した。
「何あれ?」
皆首を横に振っている。カイトたちも見たことがないようだ。しかし胞子を振り撒いていて危険そうだったので、手で口元を覆いながら迂回した。
丸1日探索したが、残念なことに湖は発見できなかったので、拠点に戻り夕飯を食べ終わると、作戦会議が開かれた。
「やはりアリサさんが仰っていたあのため池が湖なのでしょうか?」
ギルバートさんが俄には信じがたいといった表情をしている。
「そもそもこの島じゃないんじゃね?」
レオンさんが大前提をひっくり返し始めた。カイトが答えるも歯切れが悪い。
「島の全景を見る限りはこの島で間違いないはずなんだが」
「地殻変動か何かで最果ての島の順番が狂ったのかもよ?」
「なくはないな」
やはりカイトもあのため池が湖だとは思っていないようだ。
「一応あの池に主がいるかは確認した方が良いんじゃないか?」
「オークリーの言う通りだよ。ここが違う島だとしても、きちんと全部見てから結論付けるべきだ」
オークリーさんの意見にエリスさんが賛同した。
「ああ、悪い。それはそのつもりだ。先のことを考えてしまっていた」
多分カイトはあの池がやはり違うということを断定した後、では次はどの島に行こうかということを考えていたのだろう。
ギルバートさんが話を先に進める。
「問題はあのゴブリンとオーガでしょうね」
「ざっと見たところ、5体のオーガと100体ほどのゴブリンの集団だったから、1人当たり21体?」
エリスさんは簡単そうに言うが、いくら近衛兵とはいえ魔法のない生身の人間が1対21を引き受けるのはどう考えても現実的ではない。戦いにおける数的有利性というのはそれだけ大きいのだ。
「オーガ5体を先に倒せれば後は有象無象だからどうにでもなるんだけど」
(前言撤回。皆化物だわ…)
私は内心ちょっと引いていた。
「森に誘き出して撹乱しながら数を減らすのが順当だろう」
カイトがそう話す。数的有利を覆すには奇襲、待ち伏せなどのゲリラ戦しかないということだろう。
ちなみに私は飛び道具を考えたが、そもそも魔法が発達しているこの世界では弓兵などは存在しない。概念として弓矢がどういうものは皆知っているが、実物を見たことはないのではないだろうか。他の投石機や火炎瓶、投げナイフなども同様である。それらは魔法が使えなかった大戦争時代の過去の遺物なのだ。要は飛び道具は作るのにも時間がかかる上、仮に作れたとしても使える人がこの場にいないので提案はしなかった。
「明日の夕刻に決行しよう」
闇に乗じるのは奇襲の鉄則である。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
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