116.フェアリーのいない島
濡れ鼠になった私たちは意気消沈しながらも着替えと焚火をし、身体を温めながら魔法を使って足場を岸に漂着させた。着いた頃にはすっかり暗くなっていたので手近なところにテントを立て、夕飯を食べると見張りの1人以外はさっさと眠ることにした。皆寒さで体力を消耗していたのだ。ちなみに今回の探索も有難いことに私は見張りを免除されている。
すぐに寝れると思ったが、寝袋自体がひんやりと冷たく、自分の身体も冷えているので温まらずなかなか寝付けなかった。しかも風が出てきたのかテントが軋み始めたので、私は一度起きて外の様子を伺うことにした。
「起きたのか?」
ギルバートさんとカイトが焚火を囲んで立っていた。ちょうど見張りの交代時間のようだ。
「いや、寒くて寝付けなくて。それに風も出てきたし大丈夫かなって」
「俺たちも思っていた。雲も厚くなってきたし、天候が崩れるかもしれない」
「テントの場所移動する?」
「今場所の検討をしに行こうと思っていたんだ」
カイトはランタンを取り出して火魔法を使おうとしたみたいだったが発動しなかった。
「アリサ、火魔法が全然発動しない」
「火のフェアリー少なかったからなぁ」
そう言いながら代わりにつけようとしたが発動しなかった。
「え?発動しない?」
フェアリーの属性変更加味で魔力を込めて魔法を発動させたつもりだったのに不発だった。というか全然フェアリーが集まって来ない。よく周囲を見回すと焚火で明るくなっている場所にはフェアリーがいなかった。
「この辺りフェアリーが1匹もいないみたい」
「そんなことあるのか?」
「んー、初めてかな。今までは少なくてもいるにはいたから」
「アリサさえ良ければフェアリーのことも含めて少し様子を見に行きたいんだが」
「大丈夫だよ」
カイトは焚火の枝からランタン2つに火をつけた。
「ギル、悪いけどもう少し見張りを頼む」
「お気になさらず、アリサさんも気を付けて行って来てください」
「ありがとうございます」
暗い夜道を2人で連れ立って歩く。しかし行けども行けどもフェアリーは見当たらなかった。
「どうだ?」
「駄目、全然いない。私もしかしてフェアリー見えなくなっちゃったのかな?」
そうだと困る。私は少し焦っていた。
「いや、魔法が発動しないから単にフェアリーがいないだけだと思う」
「ああ、そっか」
それなら良いかと思ったが全然良くなかった。
「え?待って、魔法が使えないの困るんだけど」
「ああ、困る。問題はこれが今歩いてきたところだけなのか、島全体がそうなのかだ」
「確かに」
「明日また明るくなってから調べよう」
「うん」
そう言うとカイトは踵を返した。
「テント移動させる場所は見つけたの?」
「いや、一旦拠点に戻る。君を連れて歩くのは危険だ。魔法が使えない今、万一のことがあったら君を守り切れないかもしれない」
「……」
カイトの声は切迫していた。私も何も返せずに無言になる。
「アリサ」
カイトが足を止めて私を見据える。その顔はいつになく険しかったが、私を見たら少しだけ柔らかく微笑んだ。
「不安にさせてしまっていたら申し訳ない。勿論俺は身を賭して君を守るために戦うつもりだから」
「違うの、ごめん、カイトを疑っているわけじゃない」
「でも、不安そうな顔をしている」
「不安なのは自分自身に対して。もしこの島全体が魔法の使えない場所なら私はただの足手まといだから」
私がそう言うとカイトは慰めるように私の肩に手を置いた。
「アリサは荒地の時、魔法がほとんど使えないギルを足手まといだと思ったか?」
私はブンブンと顔を横に振った。
「そうだろう?だから例えここで魔法が使えなかったとしても、誰も君を足手まといなんて思わない。大体、他のところではいつも助けられてばかりなんだ。皆嬉々として君を守るに決まっている」
「…うん、ありがとう。魔法が使えない場所があるなんて考えもしなかったから弱気になっちゃった」
不安になった時、辛い時、苦しい時、欲しい言葉をくれるカイトはやっぱり凄いと思う。私が安心して笑うと、つられてカイトも笑った。それで先ほどまでのカイトの緊張感も少しは解れていた。
一度拠点に戻りギルバートさんに状況を説明すると、カイト独りで探索に戻るのも危険だという話になり、次の見張りのレオンさんが叩き起こされた。ギルバートさんとカイトはテントの移動先を探すためにまた出かけ、レオンさんは寝惚け眼をこすりながら見張りをしていた。私もどうせ移動するなら今寝付いても仕方がなかったのでレオンさんと一緒に2人の帰りを待った。
しばらくしたらポツポツと雨が降って来た。
「嵐が来るな。きっともうすぐで戻ってくるだろうから2人とも起こしとこうぜ」
レオンさんがそう言ってエリスさんとオークリーさんを起こしにかかる。2人の覚醒は早かった。私は忘れずにこの近辺では魔法が使えないことも話しておいた。
間もなくカイトとギルバートさんが走って戻ってきた。ちょうど良い洞窟があったということなので急いで移動する。途中で雨が本降りになってきて、遠くで雷もなっていた。結局洞窟に着く頃にはまたしてもびしょ濡れだった。
「今回は濡れっぱなしだな」
「本当に」
「ツイてないですね」
「着替えもうないよ」
「魔法が使えないですから、火に当たるしかありません」
どうやら辟易しているのは私だけではないようだ。
「ちなみにこの洞窟、ちゃんと奥まで見たの?」
エリスさんがカイトに質問している。
「見た。恐らく退治したセイレーンの巣窟だ」
「何で分かる?」
「奥に人骨が山と積まれていた」
(…背に腹は代えられない状況とは言え、聞きたくなかったな)
私は独り遠い目をした。
その後は皆で寝袋を羽織りながら焚火を囲んで制服を乾かした。主にローブが濡れたのでそれはテントに引っかけて干しているのだが、制服の前側も濡れたのでそこを乾かす必要があった。皆疲れてうつらうつらしている。私も眠気が襲ってきて気が付いたら隣のカイトにもたれ掛かって眠ってしまっていた。カイトも寝ていたらしく、私が起きたらつられて起きてしまった。
「ごめん、起こしちゃった」
「大丈夫。もう夜明けなのに随分暗いな」
嵐は止んでいない。
「制服乾いた?」
「うん」
「テントで横になって寝て良いよ。どのみち天気が良くならないと探索にもいけないから」
「分かった、そうさせてもらう」
私がテントに入るとカイトは皆のことも叩き起こしてテントに促しているようだった。きっとまた見張りを立てながら、嵐が止むまでは休息を取るのだろう。
結局嵐は夕方頃に止んだ。この日の探索は諦めたものの、フェアリーの件だけでも確認する必要がある。
「ここからざっと見た感じだとやっぱりフェアリーはいないみたい」
「海にフェアリーがいることは間違いない?」
「うん、少し先に。あの船の船尾辺りなら魔法が使えるかもしれない」
「できたら飛んで島の全景を見せてほしい。君もそれでフェアリーの有無が分かるだろうし」
「そうね、分かった」
カイトは横倒しになった船をひょいひょいと登っていく。
(身体能力が違いすぎるわ!)
「アリサ、手を」
どうやって登ろうと思っていたらカイトが上から引き上げてくれたので私も船に登ることができた。予想通り船尾ギリギリにはフェアリーが飛んでおり魔法が使えそうである。
「プティシー―飛行せよ―」
今回はカイトがどうしても譲らなかったので彼のローブで飛んでいる。なお残念なことに私の箒は行方不明中だ。
島は縦長の形をしていた。自分たちが上陸したところからかなり奥に広がっているようだ。意外に大きいと思った。島の周りは砂浜に囲われ、真ん中は森になっている。一見して湖がどこにあるのかは分からない。
「何だろうあれ?」
「恐らく遺跡だろう」
森の奥の方には石造りの建物の上部と思しき人工物が覗いていた。
「フェアリーはやっぱりいなさそう。島の外周に沿って回ってみようか」
「外周にはフェアリーがいるのか?」
カイトが不安そうにしている。
「いる。魔法が切れて途中で落ちるなんてことないようにするから安心して」
私はぐるっと一周島を回ったが私たちが上陸した反対側の方にもフェアリーは飛んでいなかった。
「駄目だ、やっぱりこの島全体で魔法が使えないみたい」
「そうか、それが分かっただけでも収穫だよ。割り切って魔法なしで戦えば良いし、そもそもなるべく戦闘を避けて湖を探索すれば良い」
「うん。それに魔法が使えなくてもお守りはあるから目一杯魔力を詰め込んでおこう」
「そうだな。その通りだ」
島の下調べを終えた私たちは船尾へと戻っていった。
昨日恋愛(現実)ジャンルで短編を投稿しました。また、以前にも純文学ジャンルで恋愛物の短編を執筆しています。ご興味があればぜひご覧ください♪
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




