113.お守り
※キスシーンがあります。苦手な方はご注意ください。
「以前に魔法石の鉱山を見学させてもらったでしょ?」
「ああ、あったな」
討伐遠征の帰りに私が気になるからと言ってわざわざ寄って見せてもらったことがある。そして実際に魔法石が採掘されている現場を見た時に私はふとこう思ったのだ。
(魔法石ってフェアリーの化石なのかしら?)
直感だった。明確な根拠はない。強いて言えばその見た目だろうか。採掘の際、必ず桃くらいの大きさの灰色の魔法石が採掘された。ちょうどフェアリーもこれくらいの大きさだ。それを割ると今度は桃の種サイズの色付きの魔法石が出てくるのである。灰色の部分はフェアリーの体表で、色付きの魔法石はまるでフェアリーの核のようだった。ただ何故化石になったら他の人にも見えるようになるかは分からない。
私がそのことをカイトに話すと彼はなるほどと呟いた。
「考えたこともなかったが、言われてみれば合点がいく。魔法石は必ず同じ形と大きさで採掘される。通常の宝石類と違って大小がないんだ。それがフェアリーの化石だというなら説明はつくと思う。それで?」
「まだ化石になる前なら融合して、複合的な属性耐性を持つ魔法石を作れないかなって思って」
もし魔法石がフェアリーの化石だとしたら、通常それらが混じり合うことはない。常に1色1属性である。今までいくつかの宝飾店を見て回ったり他の人に聞いてみたが、1つの石で2属性、3属性の耐性を持つような石は存在しなかったのだ。
カイトは私のその発想に驚いているようだ。
「それはやってみないと分からないだろうが、アリサにしかできないことだ」
「うん、だからやってみようかなって」
「何で急にそんなことを?」
核心を突いてくる質問だった。
「……皆、一度は死んじゃったから」
私は足元に視線を落とす。そこには死んで蘇らないフェアリーの亡骸があった。
虚ろな目でそれを見つめていると、カイトが後ろから私を強く抱き締めた。蘇ったとは言え、一度死んだことに変わりはない。しばらくこの心の傷が癒えないことを、彼はきっと分かっている。
「だから、お守り作れないかなって」
「ごめん…」
少しの間そのまま抱き締められていたが、やがて身体を真正面に向けられた。彼の真剣な眼差しに私は射すくめられる。
「アリサ、好きだ。愛している。君をもっと大事にしたい。憂いを払って、君の心さえ守りたい。俺が死ぬことを憂うならそうならないように最善を尽くすよ。そんな自分でありたいと強く思う」
「カイト…ありがとう」
顎を持ち上げられるとキスをされた。誓いの印なのだろう。それは私の心の傷を幾ばくか癒してくれるものだった。
しばらくしてカイトが離れた。
「冷えるな、早くやってしまおう」
「うん」
「何か手伝えることはあるか?」
「待って、まずは仮説を検証しないと」
私は足元の赤いフェアリー1体を拾い上げ、両手で包み込んだ。
「オリクトピーシ―石化せよ―」
魔法が発動すると手の中にあったフェアリーの亡骸は思惑通り灰色の魔法石の姿へと変貌を遂げた。念のため中を割ってみると、灰色の球の中には赤い魔法石が入っていた。
「凄い。本当に魔法石になったな」
この状態になったらカイトにも見える。けれどどうして見えるようになったのかはやはり不明だ。霊的な存在から物質になったのだろうか。
「今度は2つの属性が混ざるか試してみる」
私はまた近くに落ちている水と風属性のフェアリーを拾い上げて両手に持った。今度はただの石化では対応できない。この2つのフェアリーを融合させるための新しい魔法が必要だ。
(水のように2つのものが融け合って、1つになる)
分解、そして再構築。イメージはできた。
「シーティクシー―融合せよ―」
多分ここでしか使わない魔法が発動した。2つのフェアリーの死体は光に包まれて1つになった。フェアリー1つ分の大きさになったので、質量保存の法則は働かないらしい。そこからさらに石化の魔法をかけて魔法石を作り上げた。
「できたのか?」
「多分」
割って見ると今まで見たこともない、水色と黄緑のマーブル模様の魔法石が出来上がっていた。
「成功したようだ」
カイトが目を見開いている。私も案外すんなりと成功したので拍子抜けだった。
「じゃあ次は全種類混ぜてみるね」
フェアリーは全部で8種類。1人では大変なので私は1種類ずつ拾い上げていき、カイトの両手にフェアリーを乗せていった。
「本当に何か乗っている感じがする…」
目に見えていなくてもフェアリーに触れたら感触がある。魔法習得の際にリリアンさんが教えてくれたことだ。
私は全部集め終わると、そのままカイトの手の上で融合と石化の魔法をかける。8つのフェアリーはまたしても1つ分になった。
「割ってみても良いか?」
「うん、お願い」
「レピダアネモス―風の刃―」
カイトが真っ二つに割ると、灰色の魔法石の中には8色のマーブル模様となった得も言われぬ美しさの魔法石が入っていた。
「君は本当に凄い。こんな物を創造してしまうなんて」
「自分でもこんなにあっさりできるとは思っていなかったからちょっと吃驚している」
でも手放しにカイトに賞賛されるのはとても嬉しい。
「じゃあ早速皆の分のお守り作っていこう」
「これは?」
「魔法石が2つに割れちゃっているから」
「この半分ので充分だ。これ以上だと大きすぎる」
「そう?」
確かに桃の種1つ分の石は少し嵩張りすぎるか。カイトの言葉に納得して融合させた魔法石1つで2人分のお守りにすることにした。今1つ作ったので後2つ分作れば良い。先ほどと同じ要領で作製した。
「アリサ、魔力はまだ残っているか?」
「まだ大丈夫だよ」
「申し訳ないがもう1つ作ってほしい。流石にこれだけの代物だと国王陛下に献上しないといけないから」
「あ、そうか」
陛下に献上する分はこの場では割らなかった。大粒1つを献上するために後で専門の人に割ってもらう算段だ。
「ありがとう。大分冷えてきた、帰ろう」
「そうね」
私は思惑通りに事が運んで満足だった。
馬車に乗って王都に帰ってきた。その足で加工店によって陛下に献上する魔法石の取り出しと、半分に割った魔法石を多少見栄えが良くなるようにカットをしてもらう。ペンダントやブローチなどにしようか迷ったけれど、カイトが装飾品にするには目立ちすぎると言ったのでそのままポケットに入れて持ち歩いてもらうことになった。
「本当にありがとう。これで探索の生存率が格段に上がったよ」
「そうかな。作っておいて何だけれど、正直これがあってもあの魔物の石化は防げなかったよね」
「あんな攻撃早々ないから」
「そうだと良いけど」
「それにこの魔法石は効果だけじゃなくて、アリサの気持ちも沢山詰まっている。もらって嬉しくないわけないだろう?」
「うん」
気持ちが詰まっているのは本当だ。
他の皆の分はカイトに渡してもらうことも考えたがやはり自分の気持ちだったのでまた任務で会った時に手ずから渡すことにした。国王陛下だけはカイトから渡してもらうことになった。
ちなみに幸い天候に恵まれ旅程3日で納まったのだけれど、カイトは少し残念そうにしていたので後日またデートをした。その時はカイトの誕生日を兼ねて私がリードをして王都を巡り、束の間の休息を楽しんだのだった。
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次回は明日の12時台に投稿予定です。
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