112.フェアリーの墓場
まとまった休日を頂いたのでとにかく疲労を回復すべく最初の3日間は休むことに専念した。4日目、ようやく動けるようになったので1人で城下町に用を足しに行き、夕方リリアンさんに明日からまたしばらく遠出しようと思っていることを告げた。
「リリアンさん、明日から3、4日ほどしばらく出ようと思います。天候によってはもう少し遅くなるかもしれません」
「3、4日?急な遠征でも入ったのですか?」
リリアンさんが驚いている。
「いえ、私的な用事です」
「そんなに空けるということは王都を出るということですよね?」
「はい、その予定です」
「カイト様はご一緒で?」
「いや、1人です」
私がそう答えると、リリアンさんは怖い顔をした。
「アリサ様、休日ですから場所さえ教えて頂ければ遠出するのは一向に構いませんが、お1人というのは頂けませんわ。何かあっては危険です」
「そうなんですか…?」
魔法が使える今では魔物もいない国内で危険なことなど早々ないと思うのだが。
「でもほら、せっかくの休日ですからカイトにも都合があるでしょうし、私も早く出発したいので…襲われそうになったら魔法を使いますし、危険なんてありませんよ」
近衛兵は多忙だからまとまった休みをもらえることを皆喜んでいたのだ。そのせっかくの休みにカイトを私的な用事に付き合わせるのは本当に忍びない。それに無駄足になる可能性もある旅なので、猶更巻き込みたくなかった。
しかしリリアンさんは引かなかった。そればかりか段々と笑みの怖さが増している。最近リリアンさんがお母さんのように見えることもしばしばだった。
「あ、じゃあどなたか他の方に護衛を」
「専属護衛を差し置いて護衛をつけるおつもりで?」
「…分かりました。ひとまずカイトの予定を伺ってもらえますか?」
納得のいく返答がもらえたらしいリリアンさんがニッコリと笑って部屋を出て行った。
(せめてカイトの予定がみっちり立っていれば良いんだわ。そしたらリリアンさんも諦めてくれるはず)
ところが私の思惑は外れ、カイトは明日からの旅程で了承してきたらしかった。
「本当に予定入ってなかったの?」
翌日、馬車に揺られながら私はカイトに訊ねる。
「なかった。正直急に休みって言われても何すれば良いのか分からないんだよな」
仕事中毒者の回答だった。
「アリサこそ、もっと休んでいれば良かったのに。というかそもそもどこに向かっている?」
「リリアンさんから何も聞いていないの?」
「3、4日かもしかしたらそれ以上でアリサが王都を出るとしか聞いていない」
それで二つ返事に了承するのはどうなんだと思う。
「春に北西の方へ討伐に行った時、綺麗な花畑があったの覚えている?あの手こずった狼の前くらいかな」
「覚えているが、今行っても雪原しかないだろう」
「うん、でも目的は花畑じゃない。あそこで試してみたいことがあって」
「試してみたいこと?」
「上手くいったらこの世界にない物が作れるかもしれない」
「何だそれ?」
カイトが怪訝な表情を見せる。
「うーん、上手く作れたら良いんだけど、自信がないからまだ内緒。でも何と言うか、本当失敗したら無駄足になっちゃうし、付き合わせるの申し訳ないのよね」
「そこは全く問題ない。アリサの目的が何であれ、俺は君と2人きりの旅行を楽しむことしか考えていない」
「旅行なの、これ?」
旅行にしては行先が味気ない気がする。
「2人きりで仕事以外で遠出するならどこだって旅行だろう。本当は休みの後半にどこかに誘おうとは思っていたんだが、リリアンの話は渡りに船だった。アリサを何日も独り占めできる機会なんて早々ないからな」
旅行と考えていなかった私は急に意識して少し緊張してしまったけれど、私の目的がどうであれ気楽に考えてもらえるのは有難かった。
「じゃあ私も、本来の目的が失敗してもカイトとの旅行を楽しむことにするわ」
「うん、そうしてくれると嬉しい」
カイトが爽やかに笑った。
私たちは4人掛けの箱馬車に乗って目的地付近の町を目指していた。外は一気に冬の景色で、辺り一面に雪が積もっているのを見ると故郷を思い出す。やはり夏より冬の方が好きだと思う。寒いことは間違いないが、かなり重ね着をしているし、毛皮付きの厚手のマントも羽織っているので比較的温かい。カイトも似たようなマントを羽織っていた。それでもカイトは寒いと言って対面ではなくわざわざ横に座って身を寄せて来ていた。しかも手袋を外されて両手も握られる。カイトの手は温かかった。
「やっぱり手袋をしていても手先が冷たいんだな」
「ごめん、冷え性だから。でも身体はわりと温かいよ」
きっとカイトは自分が寒いと言いながらも本当は私のことを気遣ってくれているのだと思う。私はそれが嬉しくてカイトの肩にもたれ掛かった。
「私、やっぱり冬好きだな」
「寒いのにか?」
「冬の静謐な雰囲気は神聖な気持ちになって心洗われるし、冷たい空気を吸うと気持ちが晴れる。でも何よりこうして寄り添えるから。夏は暑くて離れたくなるでしょ?」
「夏だって暑いのを我慢して寄り添ってくれば良い」
「我慢できないから夏は嫌いなの」
「じゃあ今のうちにうんと甘えて」
多分今の私たちにとって旅行の行先が味気なくともさほど問題ではない。既に十分カイトも私も旅行を満喫していた。
その日は目的地付近の宿に泊まり、翌朝また馬車に乗って目的地までやってきた。
「この辺りで待っていてください」
「分かりました」
馬車は御者含め1日中借りているのでそのまま待ってもらう。
カイトの言うように誰も足跡をつけていない見事な雪原が広がっていた。
「で、ここで何をするんだ?」
「まずは雪を除けて地面を出す」
私は魔法を使い、積もっていた雪を地面が見えるまで除雪していく。体育館くらいの広さを確保できたところで止めにした。既に雪の下から目当ての物がいくつも見えてきていたからだ。
「雪下野菜でも掘り起こす気か?」
「こんなところに野菜畑はなかったでしょ」
あったのは綺麗な花畑である。
「なら何でわざわざ除雪を?」
「うん、あの時特段言わなかったんだけど、ここね、多分、フェアリーの墓場なんだと思う」
「フェアリーの墓場?」
「何でか分からないけれど、ここだけ亡くなっているフェアリーが沢山転がっているの。勿論他の場所でも死体は見かけるんだけど、ここは特に多い」
あの時も美しい花畑の中で、無数のフェアリーが息絶えていた。飛んでいるフェアリーもいたから、この場所がフェアリーたちにとって危険な場所というわけではなく、単に死体が沢山ある、もしくは集まる場所なのだと思った。そして今も、掘り起こした地面の上には無数のフェアリーが横たわっている。
「そんなものまで見えているのか」
カイトの顔が曇る。死体という言葉はどういう時だってあまり良い響きではない。
「うん」
「わざわざここまで来て、一体何のために墓荒らしをしている?」
「ここで上等な魔法石を作れないかなって」
「上等な魔法石?」
私はカイトに旅の目的を話し始めた。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




