111.マンドレイク採集
翌朝、私たちは目的地へ向かって出発した。勿論石化した町は視界にいれないように迂回する。不死身の魔物を地の底に沈めたとはいえ、這い上がって来る可能性もある。復讐に来られたら堪らない。メドゥーサ役の魔物がいないから石化しても元に戻せないのだ。
出発してから2時間ほどで処刑場跡地に到着した。建物や物品などは既に壊れ跡形もなかったが、荒地とは思えないほど青々とした草原が広がっていた。恐らく全てマンドレイクの葉っぱである。物凄く群生していて、まるで畑のようだった。
「ここからマンドレイク王を探すの?」
途方もない量だと思った。
「というかそもそもマンドレイクに王がいるの?」
レオンさんが素朴な疑問を口にする。カイトも首を傾げていた。
「ここに来たら何か分かるかと思ったんだが、さっぱりだな」
「普通のやつより大きいとか」
「全部抜く気か、エリス?」
「いや、もう抜く前から分かるくらい大きいマンドレイクだったりしないかな」
大きな蕪みたいなことだろうか。
「あるいは王様の面構えをしているとか」
「やっぱり全部抜く気なんだな」
「最悪全部抜いたら分かるでしょ」
「それは最後の手段だ」
カイトが顔を顰めている。
「とりあえず手分けしてざっと見てみよう。エリスの言う通り大きいものは可能性として高い。葉の大きさや生育状態で目ぼしい物に目印をつけておいてくれ。引き抜くのは後で纏めて行う」
マンドレイクは引き抜くと悲鳴をあげて、それをまともに聞くと正気を失うとか発狂して死ぬと言われている。しかし耳栓をつけながら作業をすると襲撃に気付くのが遅れるため、抜くのは後で纏めて行うつもりなのだろう。
私たちは草原を6等分にしてそれぞれマンドレイク王と思しき個体を探し始めた。地面にはマンドレイクの上部だけが見え、他は埋まっている。正直この頭部の一部分だけでは大きいかどうか全く分からないので、葉の大きさを見た方が良さそうだ。
随分立派な葉を茂らせている個体があったので目印の紐を縛り付けようとした時だった。
「ひっ!」
そのマンドレイクが勝手に地面から這い出してきた。咄嗟に耳を塞ぐがそいつは叫ばなかった。どうやら引き抜かれたわけではなく自ら出てきた個体は叫ばないらしい。全長は地面から私の膝くらいでそれなりに大きく、シワシワの赤ちゃんおじさんのような醜悪な顔つきである。そのマンドレイクは私と目が合った瞬間、ニヤリと下卑た笑みを浮かべた。ここに来た当初の悪漢を彷彿とさせる笑みで、ゾゾゾと鳥肌が立つ。硬直しているとそのマンドレイクは私の足にしがみついてきた。
「うわ!嫌、離れて!セクハラ!気持ち悪い!」
一応このマンドレイクが目的の個体の可能性もあるので無下にも出来ない。私はなるべく丁寧に引き剝がしにかかるが、意外に力が強くて全然離れてくれない。気持ち悪さも相まってパニックを起こしかけていた。
「背中を指でなぞって!」
遠くで異変に気が付いたカイトが大声で叫んでいた。
(そうだ、この世界のマンドレイクは男性なら拳で殴りつけて、女性なら背中をなぞれば大人しくなるんだっけ?)
事前に言われていたことを思い出して私は人差し指で背中をつうっとなぞる。途端にマンドレイクは大人しくなってころんと足を離れた。
「た、助かった…」
「何でマンドレイクに襲われたんだ?」
「分からない。私、抜いていない、勝手に這い出してきたの」
いつの間にか近くまで来ていたカイトに聞かれるが、私も答えを持ち合わせていない。
「成熟しきったマンドレイクは自ら這い出してきて近くを徘徊すると聞いたことがあります」
同じく騒ぎに駆け付けてくれたオークリーさんがそう答えた。確かに想像より大きいと思ったので成熟しきっているのかもしれない。
「それにマンドレイクは、その、性的な部分もありますから、もしかしたら女性のアリサさんが狙われた可能性もあります」
「ああ、なるほど」
ついでに追加情報をくれる。それを聞いて何だか妙に納得してしまった。
「アリサ、抜けた方が」
「いや、大丈夫。多分さっき私が葉っぱを触ったから出てきたんだと思う。だからなるべく触らないように紐をかける。それにもし出てきてもさっきみたいに対処すれば良いし」
精神的ダメージは入るが、そもそもこの広大なマンドレイク畑を5人に任せるわけにもいかない。
カイトは複雑な顔をしていたが、渋々再開することにした。まぁ自分の恋人が植物に性的に興奮されているのだ、微妙な顔つきにもなろう。
その後も自分の持ち場所を探索して大きい個体に目印をつけて行ったが、何度か失敗して這い出て来てしまい、その度に精神を削られた。
(絶対見つけてやる…)
これほど精神的苦痛を味わった上に見つけられず国に帰るなど言語道断である。エリスさんの言うように全てのマンドレイクを抜いてでも探してやると決意を固めた時だった。
「いたーーーーーー!!!!」
かなり端の方を探していたレオンさんから朗報が響き渡る。私たちは急いでレオンさんの元に駆け付けた。
「いた!絶対こいつだよ!!」
レオンさんが大興奮している。指差す先のマンドレイクの頭部は王冠のような形をしていた。確かにそれっぽい。
「耳栓、忘れずにつけて」
集まった皆にカイトが指示を出す。這い出してくるマンドレイクばかり相手にしていたのでうっかり忘れるところだった。全員が装着したところで、レオンさんがそのマンドレイクを抜きにかかる。しかしなかなか抜けないようで、ギルバートさんも手を貸し始めた。しばらくして2人が手を振る。全然抜けないらしい。エリスさんが加わるが抜けず、オークリーさんが加勢しても抜けず、カイトが入っても抜けなかった。念のため私もカイトの腰に腕を回して試してみるが一向に抜ける気がしない。
(抜けないシナリオの大きな蕪ってある?)
一旦皆外れると、カイトが私に耳栓を取るように合図をして来た。
「何?」
「アリサ、申し訳ない。この手は使いたくなかったんだが、あいつの葉っぱに触って起こしてくれないか?」
「ああそっか。分かった、やってみる」
王様も成熟しきったマンドレイクである。物は試しということで早速やってみると、戦闘職の大の男5人の綱引きでびくともしなかったのに、私が葉っぱに触ったらものの数秒で這い出してきた。頭部は王冠の形で、背中はマントを羽織っているような形をしている。風貌は王様のそれだが習性は他のマンドレイクと変わらず、すぐに私の足にしがみついてきた。
(どいつもこいつも…)
これで最後と思いながら背中をすうっとなぞる。しかし全然脱力してくれなかった。
(マントでガードされているんだわ!)
すぐに異変に気付いたカイトがマンドレイクの頭を拳で殴りつけて昏倒させる。
「下衆が」
低い呟きは憎しみに満ちていた。私が精神を削られている間、カイトの心中も穏やかではなかったのかもしれない。
「なぁ、何でアリサさんが触ったらあんなにあっさり抜けたんだ?」
遠くにいて一部始終を知らないレオンさんが聞いてきたこの質問にはオークリーさんが対応していた。
マンドレイク王を麻袋に入れると、今回の任務は達成した。後は帰るだけだ。
この日はまたあの小遺跡群に戻って野営をし、その後は来た道をひたすら戻った。襲撃は何度か遭ったものの、精神的な余裕からか行きよりもずっと楽に思えた。そして探索から18日目の夕方に私たちは国境に辿り着いた。どうやら翌朝にはフェアリーアイ探索のために人員が割かれる予定だったらしく、他の探索隊を危険に曝す前に帰って来られたのは幸いだった。
「大儀であった」
危険な地から任務を達成して戻ってきた私たちは国王陛下から労いの言葉を頂いた。また次の探索は冬の2か月目の初日からということになり、私たちは月の半分ほどお休みをもらうこととなった。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




