110.蘇生
※キスシーンがあります。苦手な方はご注意ください。
(やっぱり注ぐとしたら口かしら?)
しかし石化しているので口に注いでも体内に入っていかない気もする。まぁ考えていても仕方がないのでとりあえずカイトの口に少しだけ血を注いでみた。
(血が石に浸透していく!)
地面に垂れることなく、すうっと石に染みていった。
それから私はなるべく均等になるようにお茶を入れる要領で皆の口に少しずつ順番に血を注いだ。はじめは何も起こらなかったが、全ての血を注ぎ入れると皆の身体が白い光に包まれ出した。目を開けていられなくて思わず瞑る。少しして光が納まった頃に目を開けると、石化の解けた状態で皆が横たわっていた。胸の部分が上下している。息をしているということだ。
(そ、蘇生した?)
私はその場にへたり込む。待ち望んでいたその光景をしばらく呆然と見つめていた。
やがて皆が目を覚まし始めた。
「アリサ?」
カイトに呼ばれてもう感情が止められなかった。私は子供のように泣きじゃくりながら彼に抱きつく。嗄れた声を治すのを忘れていたなと一瞬思ったけれど、それどころではなかった。
カイトはいきなり私に強く抱きしめられて困惑していた。少し記憶が曖昧になっているようだ。私はそんなカイトの混乱をよそに隣に寝ていたレオンさん、ギルバートさん、エリスさん、オークリーさんも次々と抱きしめていった。
(皆温かくて柔らかい。それに息をしている)
こんなにも嬉しいことはなかった。数日前は狂い死にたいほどどん底だったのに、今は喜びで胸がいっぱいである。
オークリーさんまで終わると、皆大体自分がどういう状況だったのか思い出してきたみたいで、私がこんなにも感涙に喉び泣いている理由を察したらしい。
「アリサ、こっち来て」
言われるがまま、またカイトの元に戻って強く抱き締める。カイトも今度はしっかりと受け止めてくれると、宥めるように背中を優しく叩いてくれた。本当に子供のようだ。
「ギル、起きて早々悪いが魔法使えるか?」
「大丈夫です」
何かと思ったらギルバートさんが治癒魔法で嗄れた喉を治してくれた。
「あ、ありがとう、ございます」
「いえ、アリサさん、私たちのために沢山泣いてくださったのですね」
そのギルバートさんの一言で納まりかけていた感情にまた火が付いてしまう。
「ご、ごめん、と、止まらなくて、いっぱい、話、したいこと、あるのに」
泣いていても仕方がないので必死に嗚喉を止めようとするが全然止められなかった。もどかしいだろうにカイトは嫌な顔一つせず優しく対応してくれる。
「抑えなくて良い。落ち着くまでずっとこうしているから」
カイトは皆にテントを張っているように指示を出した。気が付いたら夕刻前で、今日はもうここで野営するようだ。
「辛い思いをさせてしまって申し訳なかった」
そんなことを言われるとまた感情が昂ってしまって駄目だった。結局私が泣き止んで落ち着きを取り戻すのにかなりの時間がかかったが、その間カイトはずっと優しく傍にいてくれた。
「アリサはどうやって俺たちを蘇生させたんだ?」
私が泣き止んだので皆車座になって話し始めた。カイトに訊ねられ、私はあの魔物のことや血の蘇生薬について説明をした。
「アリサさんは僕たちの命の恩人ですね。全く頭が上がりません」
エリスさんの言葉に皆大きく頷く。
「俺、原初の泉にいたと思う」
「原初の泉?」
レオンさんが不思議なことを言ったので聞き返した。
「死んだら行く場所だよ。泉に還ってまた生まれ変わるんだ」
「へぇ」
臨死体験における三途の川を渡る的なことだろうか。聞いたところどうやらその泉は1人1人に与えられており、5人全員がそれぞれ独りで泉に浸っていたらしい。
ここでギルバートさんが言葉を引き継いだ。
「そこでイヒネイカ様にお会いしました」
「イヒネイカ様に?」
「はい。泉に浸かっているとイヒネイカ様に泉から出るよう促されて」
「その後森の中を歩いたな」
オークリーさんが思い出したように言った。
「そうだった、そして森を歩き切ったら目が覚めた」
エリスさんが締めくくった。私が蘇生した裏側でそのようなことになっていたとは。
「間に合って良かったです。イヒネイカ様にも感謝しないとですね」
「その前に俺たちはアリサに感謝しないとな。感謝し尽せないけど。本当にありがとう」
カイトを皮切りに皆口々にお礼を述べてくれたが、感謝されることなのか分からない。蘇らせたかったのは自分の欲に過ぎないのだから。
「私が皆を蘇らせたかっただけなので」
「俺たちは生き返りたくても自力ではできなかった。今ここにこうしていられるのは君のおかげだ」
「…どういたしまして」
私がそう返すと皆微笑んだ。どうやら受け取るべき感謝のようだった。
「そう言えば、俺たちが石化してどれくらい経った?」
「2晩は越えたから3日目?」
「1度食料を見直そう」
「あ、大丈夫だよ。あれからずっと魔力回復のために寝ていたから」
カイトが怪訝な顔をする。
「大丈夫って、もしかして食べていないのか?」
「うん、ずっと寝ることに専念していた」
「そうは言っても食べないのは身体に毒だろう」
「ごめん、でも食欲もなくて」
私がそう言うとカイトは何も言い返せなかった。代わりに私の頬を撫でる。
「分かった、ごめん。随分と無理をさせたな」
「そう言うんじゃ」
「ご飯だけじゃない。寝るのだって見張りも立てずに寝たんだ。きちんとは寝られていないだろう?2日も独りで気を張って討伐もして、よく見たらとても疲れた顔をしている」
「それは、まぁ」
「少し早いけどご飯にしよう。食べ終わったらアリサはゆっくり休んで」
言われたら途端に空腹や疲労を自覚してきた。
「分かったわ、そうさせてもらう」
その後すぐ皆で夕食を摂った。探索中、ご飯はいつも皆と一緒に食べていた。ありふれた光景だ。それが今は目に沁みた。現実のことなのにまるで夢の中にいるようなフワフワとした心地である。
「アリサさん?大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ、ギルバートさん。喜びを噛み締めているだけです」
(神々よ、ありがとうございます)
またこうして一緒にご飯を食べられることが何よりも嬉しかった。
夕飯を食べ終わるとカイトに促されるままテントに向かった。
「俺たちのことで色々と済まなかった。今日はもうとにかく休んで」
「うん、ありがとう」
「お休み」
「……」
気が付いたら私は、行こうとしていたカイトの袖を引っ張っていた。
「どうした?」
「寝るまでで良いから一緒にいて」
甘え足りなかった。
「分かった、少し待っていて」
しばらくするとカイトは寝袋を持ってテントに入ってきた。
「皆に断ってきた。今日は俺も1晩ここで寝る」
「え、何もそこまでは」
「エリスにはアリサをグズグズに甘やかすようにと言われてきた」
「エリスさん、グズグズって」
「それに今日は俺もアリサの傍にいたいから」
結局お言葉に甘えることにした。
今日はこの間と違って寝袋を2つ並べて横になる。ギリギリまで寄って前回のように腕枕をしてもらった。
「本当に申し訳ない。辛い思いをさせて、無理も沢山させてしまった」
カイトが労し気に私の頭を撫でる。
「カイトは怒っていないの?」
「何を?」
「自分たちを置いて私だけでも先に進むか戻るかすれば良かったのにって言うかなと思っていた」
カイトは苦笑いした。
「それを思わなかったわけじゃないよ。それにそれを聞くってことはアリサだって考えなかったわけじゃないんだろう?」
「うん、危険だってことも分かっていたわ。でも可能性があるなら試したかった。そうじゃないと一生後悔すると思ったの」
「じゃあ君に危険な選択肢を選ばせてしまった責任は俺たちにもある」
「選んだのは私よ」
「それを選ぶのがアリサだ。いつも他人のために一生懸命で、時折自分のことを省みていない」
美化しすぎだ。
「全部自分のためだって。国のことを考えるならもっと慎重に行動していた」
「まぁ確かに、国を思えばそうだろうな。でも、君が自分のためだという行動はやっぱり他人のためにもなっているんだ。今回は俺たちのためになった。何と言うか、それを選ぶ君に惹かれてもいる」
カイトが寝袋越しに強く抱きしめてきた。
「そうは言ってもあんまり危なっかしいことは反対だから」
「うん、分かっている」
そっと口づけを交わす。望んでいた感触にほっとした。
「お休みアリサ。良い夢を」
「お休みなさい」
私はすぐに深い眠りに落ちた。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




