106.添い寝
※スキンシップ表現があります。苦手な方はご注意ください。
(くっ、何でこんなことに…)
奥歯をぐっと噛み締める。
(このイベントはまだ先だと思っていたのに…)
私は今、向かい合ってカイトに腕枕をされていた。
事は数時間前、私たち4人が転移魔法で飛ばされて来たことに端を発する。
「ん?あれ、そう言えば荷物…」
エリスさんがしまったという顔をした。私は荷物を背負っていたが、他の皆は魔物襲撃の際に背のリュックサックをかなぐり捨てて対応していたため背負っていない。そして魔法陣内には1つだけぽつんとリュックサックが転がっていた。
「多分僕とカイトの分の荷物ないね」
どうやら落ちているのはオークリーさんのもので、エリスさんとカイトの荷物は魔法陣外だったらしい。
3人が沈痛な面持ちになったが、私にはその理由がよく分からなかった。
「レオンさんとギルバートさんのことだから、きっと2人の荷物も運んで来てくれるんじゃない?」
「そうだな」
「食料も一旦私とオークリーさんの分を分け合えば十分間に合うと思うけど」
「仰る通り、全然問題ないと思います」
カイトとエリスさんが順々に答える。私は首を傾げた。
「じゃあなんでそんなに困っているんですか?」
「寝袋が2つしかないからですよ」
答えてくれたのはオークリーさんだった。そしてカイトが説明を引き継ぐ。
「この間寝袋を乾かしている時、5人で3つの寝袋を交代で使い回そうということになったんだが」
日中の間は日も出ているので、2人はそのまま活動をして3人が寝袋で寝るのを数時間おきに交代して行なっていたらしい。ところが夜になり冷え込みが酷くなるとそうもしていられなかった。外の見張りはいつも寝袋を羽織るようにして哨戒に当たっており、見張り1人に寝袋1つは必須だった。そうするとテント内の残りの寝袋は2つ、はじめは2人ずつ交代で使おうと思ったらしいのだが、寒さが厳しく寝袋が当たらない人は凍えてしまい、最終的には2人で1つの寝袋を使って一緒に寝たのだという。何と言うか、とにかく過酷なサバイバルである。
「ごめんなさい。私そんなこと知らないでぐっすり1人で寝てしまって」
「いや、アリサにはしっかり回復してもらわないといけなかったし、俺たちも寝れたには寝れたから全然問題なかったんだ。ただ」
「ただ?」
「今回はそうも言っていられない」
「ああ…」
何故なら寝袋は2つしかないからだ。私1人に寝袋をあてがったら大の男3人で寝袋1つはどう考えても無理がある。
「僕とオークリーは2人で寝袋被って見張りをしてますから、あなたたち2人は寝袋1つでテントで朝まで寝てください」
「不寝番ですか?」
「いいえ、1人ずつ座って寝ます」
「それなら私たちも交代で見張りをしますよ」
「いや、エリスの提案した方法しかありません。アリサさんには少しでも回復してもらわないと自分たちが困ります。それにカイトと見張りを交代するのも現実的ではありませんから」
オークリーさんがぐうの音も出ない正論を述べる。要は今の状況において寝袋で横になれる条件は私の隣に来ることだけだ。しかしそれは流石にカイトがいるので自分たちにはできないと言っている。
(まぁ、それはそうなんだけど)
まだ私としてはカイトと横になるのは時期尚早というか心の準備が必要なのだけれど、きっとそんな我儘は通用しないし、ここでそんなに渋ったらそれはそれでカイトに失礼な気もする。
「…じゃあお言葉に甘えます」
いや、全然甘えていないのだが。そればかりか今日は緊張で寝られないことが確定したのだが。
そして冒頭に至る。
「アリサ、ほらもっと寄って。背中出ている、それじゃ寒いだろう」
「う、うん」
私たちは今、寝袋を掛け布団代わりにして2人で横になっていた。
「足冷たいな」
「ごめん、冷え性で」
「離さないで、温めるから」
離そうとしたら逆に搦めとられてしまった。
(助けて、神様!)
心臓が爆発しそうだ。
(というか何で私だけこんなに緊張してカイトは余裕そうなの!?)
何だかとても楽しそうに笑っている。
「アリサまた照れている」
「だって、近いんだもの」
「じゃあもっと近づこうか」
カイトが私の上半身をぎゅっと抱きしめた。
「…殺す気?」
「まさか」
「降参」
私が後ろに回している手でカイトの背中をタップすると離してくれた。代わりに頬にかかっている髪を耳にかけられる。
「照れている君も可愛いよ」
「…こんなんじゃとてもじゃないけど寝られないわ」
「そうだな」
カイトが忍び笑いを零す。
「眠れないと言えば、アリサはいつも任務中気を張って寝ているよな。襲撃の時は必ず起きているし、他の討伐任務の時は眠れていないような時もある。朝も起きているし」
「任務中は疲れていないと寝付けなくて」
今回の探索は毎日とても疲れているので横になったらすぐに眠っているが、他の討伐任務の時は身体が疲れていないと神経が昂ったまま寝られずに夜を明かすことも多い。仮に寝ても睡眠が浅く、夜が白んでくると起きてしまう。
「そうか。けど、今朝は珍しく寝惚けていただろ?俺アリサが寝惚けているところに初めて居合わせて、前にリリアンが君の寝起きは意外に悪いって言っていた意味が何となく分かって嬉しかったんだ」
「リリアンさん、そんなことまでカイトに報告しているの…?」
気になっていたのだが、ここの報連相は緊密過ぎると思う。
「まぁ色々と。だから、今夜もぐっすり安心して寝てほしい。必ず守るから」
「カイト…」
彼は優しく微笑している。
「お休み、アリサ」
「お休みなさい」
そっと抱き寄せられると額に軽くキスをされた。距離が近くて始めのうちはドキドキしていたけれど、カイトの胸の鼓動を聞くうちに段々と心地良くなってきた。
(ああ、愛しいな)
毎日好きだという気持ちと愛しいという気持ちが積み重なっていく。重くはないだろうかと心配になってくるほどに。
(それに、私は返せているだろうか)
もらってばかりのような気もする。カイトが言うようにきちんと言葉にしなければ伝わらない。恥ずかしがってばかりいないで、もう少し素直に気持ちを表現できれば良いと思う。
(少しずつ、ちゃんと返さなきゃ)
そんなことを考えているうちにいつの間にか眠りについていた。
ふと視線を感じた気がして目が覚めた。カイトと目が合う。私は一瞬横にカイトがいることに吃驚したが、すぐに昨夜のことを思い出した。
「おはよう」
「おはよう、もしかして先に起きていたの?」
「ああ、おかげでアリサの寝顔が見られた」
カイトが私の髪を梳きながら言う。
「じゃあ私はカイトの寝顔を見逃したわ」
私も何となく同じようにカイトの髪を梳いた。彼の髪はサラサラだけれど少し固い。
「昨夜は襲撃なかったのね」
「いや、2回ほどあったはずだ。外の2人があっという間に倒していたよ」
「え?嘘」
またしても全然気付かなかった。カイトは目論み通りと言った感じで嬉しそうにしている。
「…カイトの隣は安心する。おかげでぐっすり寝られた、ありがとう」
そう言うと私は多分初めて自分からカイトにキスをした。案の定彼は目をパチクリさせていた。
「ア、アリサが朝から積極的だ…」
「もう少し自分の行いを正そうと思って」
私はカイトの反応に満足して笑った。
次回は今日の23時台に投稿予定です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




