105.ロストテクノロジー
※戦闘シーンがあります。苦手な方はご注意ください。
大渓谷の谷底を抜けた私たちはまた黙々と目的地へ向かって歩みを進めていった。途中何度か襲撃があったものの、数日前よりも皆の動きがよく、私はほとんど攻撃に加わらなかった。しかも魔力だけではなく体力も回復しているので私の足取りも軽い。
大分日が傾いてもうそろそろ今日の探索を終えようとした頃、小規模な遺跡群に辿り着いた。かつての町の名残で、実は今までも同じようなところを何カ所か通過してきていた。多くは土台部分だけが残り、屋根や壁はほとんど瓦解していた。それに町自体もっと大きかったはずなのに小さい遺跡群しか見当たらなかったので恐らくこれらは奇跡的に残ったほんの一握りに過ぎない。ここも例外ではなく、石が敷き詰められた床が所々残っているだけだった。
「今日はここで休もう」
ただの荒地より遺跡群の床の方がテントも立てやすく寝やすい。皆場所を決めるために遺跡群を散開した。
襲撃に遭ったのはその時だった。
ワオーーーーーーン!!!!
狼の魔物の群れだ。あの散々苦しめられた大きな魔狼ではなく、本物の狼くらいの大きさで、徒党を組んで襲撃に来るのもいかにも狼らしかった。この旅で何度か出くわしているが、他の魔物と比べてやや強い。今日はもう終わりと気を抜いた瞬間に襲ってくるのもやはり姑息というか狡賢かった。
それでも皆素早く反応した。重たい背の荷物をかなぐり捨てて剣を抜いて対峙すると、1体、また1体と次々に屠っていく。
「レピダアネモス―風の刃―」
私も魔力の消費が少ない魔法で応戦した。
「うっ!」
誰かの呻き声が聞こえて振り向いたら、隣の遺跡群で戦っていたオークリーさんが魔物の1体に腕を噛まれていた。
「オークリーさん!」
近くにいたエリスさんがすぐに駆け寄って狼の首を刎ねる。私は急いで駆け寄るとオークリーさんに治癒魔法を施した。
「え?」
驚きのあまり思わず声が出てしまった。治癒魔法を発動させたはずなのに、突然床が眩いばかりに光り始めたのだ。見ると魔法陣が浮かび上がっている。
(これは?転移魔法!?)
異変に気付いたカイトが走ってきてギリギリ魔法陣に飛び乗ったところで光は最大に達し、最初の頃に経験した地面に引っ張られる感覚と共に私たちはどこかへワープしてしまった。
私は目を閉じていた。引っ張られる感覚がなくなり、目裏に光を感じなくなったところで目を開けると、そこは似たような遺跡群だった。違うのは魔物がいないこととレオンさんとギルバートさんもいないということだ。私とオークリーさん、エリスさんは何が起きたのか分からず、呆然とお互いの顔を見つめ合った。
「恐らく魔法陣の上で魔法を使ったのが呼び水になって転移したんだ。アリサの魔力が使われたはず」
カイトがそう言った。なるほど、言われてみれば魔力がいつの間にか減っている気がする。
「確かに減っているけど、思ったほど減っていないよ」
転移魔法は100年に1度しか使えないと言っていたから、きっと膨大な魔力が必要なのだろうと勝手に考えていた。
「異世界に行くためには勿論多くの魔力を必要とするが、ここは見た感じ近場のようだからそれほど魔力を必要としなかったんだと思う」
「なるほど」
どうやら転移魔法は距離によって使う魔力量が変わって来るらしい。
ひとまず魔法陣を降りてオークリーさんの治療を施す。それが終わると私はカイトに訊ねた。
「でもなんでこんなところに転移魔法陣なんかあったんだろうね?」
「多分町から町への移動に使っていたんだと思う」
「え?昔の人って転移魔法陣をそんな便利な移動手段として使っていたの?」
カイトが肩を竦める。
「正直こんな使い方があるなんて俺たちも知らなかった。でも、町から町に繋げるとしたらそれくらいしか用途がないだろう」
カイトたちでも知らない技術。ということはこの魔法はロストテクノロジーということか。
「じゃあ仮にこれが移動手段なら100年に1度じゃなくて、もっと頻繁に使っていたということよね?」
「…まぁ、そうなるだろうな」
「それなら異世界への転移もこの転移魔法を活用すれば100年に1度じゃなくなる?」
「…この方法なら魔法陣が2つ敷けるけど、異世界への転移は魔法陣1つで行う点で厳密に言えば同じ転移魔法じゃない」
「あ、そっか」
「アリサ…やっぱり異世界に帰りたい?」
私はハッとした。何の気なしに言った言葉だったがカイトを傷つけてしまったようだ。
「ごめん、そうじゃないの。ただ私の元の世界との行き来が頻繁になったらもっと便利になるかなって、ほら、異文化交流みたいに」
カイトは無言のまま私を見つめてきた。その目は不安そうにしている。私は疑いを晴らしたくて必死に言葉を紡いだ。
「始めの頃は帰りたかったけれど、もう帰る気なんてない。帰るつもりならカイトにこの気持ちを伝えてないよ。私、あなたとずっと一緒にいたい。もう元の世界に戻るつもりなんてないわ」
「アリサ…」
お互いどちらからともなく腰に手が回っていた。
「はいはーい、お楽しみは一旦そこまでにして、早く魔法陣を使って元の場所に戻りましょうねー」
エリスさんが手をパチンと打った。オークリーさんは苦笑いしている。
「ご、ごめんなさい!」
お互いパッと離れた。いつの間にか2人の世界に入っていたようだ。私は恥ずかしくて消え入りそうだった。カイトも手で顔を隠している。
仕切り直して4人で再度魔法陣に乗って魔力を注ぎ込んだ。
「あれ?動かない?」
先ほどと違って魔法陣はうんともすんとも言わなかった。
「…もしかしたら戦闘であちらの魔法陣に傷がついたのかもしれない」
「そんな」
実際の原因は不明だが、現実問題魔法陣が動かないので帰りたくても元の場所に帰ることができなかった。ここに来て徐々にこの不毛の地で分断されてしまったことへの不安が募っていく。
「レオンさんとギルバートさんがあの場に残っていたけど、魔物の討伐も大丈夫かな?」
「魔物はあと2、3体だったから問題ないだろう。合流も何とか手立てを考える。まずは魔法陣を解析して場所を割り出せないかやってみる」
カイトはそう言うと魔法陣とにらめっこを始めた。
「すみません、魔法陣があるなんて気付かなくて」
「アリサさんが気に病む必要はありません。自分にも見えませんでした」
「そうですよ。あんなに砂埃を被っていたんじゃ誰も気付きません」
オーナーさんとエリスさんは慰めてくれるが、合流できなかったどうしようとそればかりを考えてしまう。
「大丈夫ですよ、今カイトが魔法陣を解析中ですし、あっちは頭脳明晰なギルが解析するはずです。自分たちの場所が分かれば何かしらの手立ても考えつくでしょう」
「オークリーの言う通りだ。俺たちがどこに飛ばされたのか場所が分かった」
カイトが地図を広げて説明を始めた。
「先ほどいた場所がここ。処刑場の隣の隣の町に当たるところだ」
処刑場の真西、町の2つ目をカイトが指差す。
「そして俺たちが今いるのはこの処刑場の隣町の真上にある町だ。隣町への距離は同じくらいだから、ひとまず隣町に行ったら合流できると思う。ギルも同じことを考えるはずだ」
「どうして場所が分かったの?」
「この魔法陣にはどこからどこまで行くという場所が記載されていた。町の名前が入っていたからすぐに分かったんだ」
「そっか、合流できそうで良かった」
私はほっと胸を撫で下ろした。他の2人も安心したようだ。
「暗くなってきたからさっさとテントを張りましょうか」
そう言ったエリスさんの動きが止まる。
「ん?あれ、そう言えば荷物…」
またしても問題が発生していた。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




