104.束の間の休息
「怪鳥を食べるんですか?」
「魔物を食べるだって?」
「そんな」
「アリサさん、それはあまりにも突拍子がなさすぎます」
「…もう少し寝たらどうだ?」
皆真向から否定にかかってくる。やはりこの世界の人たちは今まで誰も思いつかなかったのだろう。
「でも、私、その怪鳥の死体に黒いフェアリーがたかっているの見たことがないので、多分毒はないと思います。魔物が食べられるなら食料の確保になるから旅も続けられますし、1回試しに味見してみません?」
「でも、そんな、魔物を食べるなんて」
オークリーさんが難色を示している。
「俺は良いぜ、食ってみたい」
レオンさんが手を挙げた。それにエリスさんも続く。
「味見するだけしてみるのは良いかもしれません」
「エリスまで…」
どうやらカイトも渋っているようだ。
「カイト、引き返す選択肢は間違いじゃないよ。だけど結局またここまで来るのにアリサさんを危険に曝すことになる。引き返した分危険に曝す日数が増えるんだ。この鳥が食えて探索を続けられるならその方がアリサさんのためじゃない?」
流石エリスさん、カイトの説得の仕方を分かっていると私は思った。
「念のため浄化魔法もかけましょう」
いつも手堅いギルバートさんが珍しく賛成のようだった。1番ストレスのかかっている彼としては再探索は避けたいところなのかもしれない。正直もっと説得をする必要があるかと身構えていたのだが、やはり過酷な探索である分、引き返すという選択肢は皆の心が折れかけていたのだろう。
4対2になったところでカイトが折れた。
「分かった。じゃあひとまずこの1羽を解体しよう」
皆が手早く解体作業を始めた。私は近くに落ちている伐採した木の枝をいくつか見繕って、肉を刺す串を作っておく。人の大きさほどもある怪鳥は丸焼きにするには時間がかかりすぎる。小さく切ってバーベキューのように串に刺して焼いた方が早く焼けるだろう。
「肉質は本当に鳥みたいだ」
「毒はないということだったが、本当に食べて大丈夫だろうか」
「一応ギルに浄化はしてもらっているから、あとはもう味じゃないか?」
解体が終わるとカイトとオークリーさんはそう話していた。ちなみにギルさんは1日に浄化魔法を2回使ったせいでかなりへばっていたので焚火の近くで休んでもらっている。
そこからは皆で手分けして肉を小さく切って串に刺し、刺したものから順に焚火の縁で焼いていく。塩は持ってきていたので勿論それを振るのも忘れない。焼けてくると鳥皮の油が滴り落ち、ジュッという音と共に何とも良い香りが漂ってきて、思わず腹の虫がなってしまった。
「お腹空いたな」
「…そうね」
カイトにばっちり聞かれていて恥ずかしかった。
言い出したのは私なので最初の毒味役をしようと思ったのだが全員に止められ、代わりにレオンさんが担当することになった。
「全ての者に感謝を込めて、頂きますっ」
レオンさんが思い切り口に頬張る。皆固唾を飲んで見守っていた。レオンさんは皆の熱い視線を一身に浴びながらも咀嚼し飲み下した。
「美味い!間違いなく鳥肉だよ、これ!」
その言葉を皮切りに全員が焼けている串を手に持ち食べ始める。久しぶりに食べる肉は格別だった。皮目のパリッと焼けた香ばしさと食感、弾力のある肉質は噛むほどジューシーな肉汁と旨味が溢れ出てくる。野外だからか極限状態だからか分からないが、今まで食べた串物の中で一番美味しいとさえ感じた。皆口々に美味い美味いと言いながら貪り食っている。
「はじめアリサが魔物を食べると言い出した時はどうしようかと思ったが」
「思ったより美味しかったわね」
「ああ、凄い発見だ」
「固定観念は良くないということが自分もよく分かりました」
反対していたカイトとオークリーさんが美味しそうに肉を頬張りながら言った。
私たちは全員のお腹が満たされるまで肉を焼いた。そして余った分は干し肉にして携行食として持ち歩くという。
「ここは明後日の朝に出発する」
「明日じゃないの?」
「明日の朝じゃアリサの魔力が大して回復していないだろう?本当は3日3晩きちんと寝かせてあげたいところなんだが、その余裕がなくて申し訳ない」
「明日の朝でも渓谷の上に戻る分くらいの魔力は戻っていると思うけど」
「いや、アリサの魔力回復だけじゃなくて、保存食も作らないといけないし寝袋も乾かさないといけないから。食料に余裕ができるなら明後日の朝に出発した方が都合が良いんだ」
「分かった。お言葉に甘えて休むことにする」
「襲撃は全部俺たちに任せて、アリサはとにかく休むことに専念して」
「うん、ありがとう」
2日2晩休息できるだけでも御の字である。
私は食べ終わるとまた眠りについた。
「アリサ、起きられそう?」
名前を呼ばれて意識が浮上してきた。急に起こされて頭がボーっとしている。
「んー」
「アリサー、寝惚けているのか?」
「んー」
「早く起きないとテント開けるぞー」
「それは駄目っ!」
急に覚醒した。外ではカイトが軽やかに笑っている。
「身支度が整ったらテントから出てきて」
「分かった。すぐに支度する」
冗談だとは分かっているけれど入って来られては困るので、私は急いで身支度を整えた。テントから出ると近くの川で顔を洗う。冷たかったがおかげで頭が冴えてきた。
焚火の傍に行くと皆で朝ご飯を食べていたので挨拶をして私も混ぜてもらった。カイトの隣が空いていたのでそこに座る。
「ぐっすり眠れたようで良かった。魔力は回復した?」
「うん、全快とまでは行かないけど7割いかないくらいは回復したわ。襲撃はなかったの?」
「昨日1回だけ」
普段なら必ず起きるのだが、余程疲れていたのか全然起きなかった。
「気付かなかった。それに思ったより少なかったのね」
「どうやら同じ所にいると襲撃回数が減るみたいだ。歩き回らない分、遭遇率が下がるんだろう」
「なるほど」
そして襲撃がなかった分、寝袋も干し肉も魔法を使って早く乾かせたらしい。
話をしていると何だかカイトの機嫌が良いように思えた。
「何か良いことでもあった?」
「1日ぶりにアリサさんの顔が見られて嬉しいんですよ」
「エリス!」
エリスさんの冷やかしにカイトが慌てていた。皆笑っている。そういう冷やかしは私にとっても恥ずかしいのだけれど、この谷底に落ちる前よりも雰囲気が明るい気がした。休息が取れたからかもしれない。
朝ご飯を終え出発の準備も整うと、私は1人ずつ箒に乗せて渓谷の上に運搬した。巨大なサンドワームの死体があったが、それを迂回しながら私たちはまた探索の歩みを再開するのだった。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




