102.大渓谷
不毛の地の探索はやはり過酷だった。まず重たい荷物を背負いながら徒歩で移動し続けなければならず、時には足場の悪いところもあって当然体力は削られていった。
「アリサ、大丈夫か?」
「うん」
心配させないようにそうは言うものの、トレッキングなどの経験がない私としては大変なことである。筋肉痛は甘んじて受けるべき痛みと思っていたが背に腹は代えられなくて時折魔法で治すことにした。
(体力全回復するポーションとかあれば良いのに)
開発される前に私の体力が向上しそうだった。だからいつまでも開発されないのかもしれない。
また魔物も度々襲撃に来た。魔物のほとんどは大した敵ではなく、近衛兵の皆は剣で応戦し、私は魔法で応戦した。しかし、私はまだフェアリーが見えるから良いものの、咄嗟に魔法が思い通りに発動しないというのは思いの外皆のストレスを溜めていっているのが分かる。フェアリーは相変わらず少ないし、いても土、風、闇のフェアリーが多く、光、水、雷のフェアリーはほとんどいなかった。皆の中でもカイトとレオンさんは風、オークリーさんとエリスさんは土属性魔法が使えるからまだ良いが、ギルバートさんは光と雷属性だから魔法が使えずに悔しそうにしている。真面目な人だから多分1番ストレスがかかっていると思う。
「申し訳ございません。後衛の負担が全てアリサさんに回ってしまう」
「気にしないでください。魔力は沢山あるので全然平気です」
攻撃力や防御力向上などの魔法や負傷した際の治癒魔法は全て私が担当することにした。フェアリーの属性を変更させるのはそれなりに魔力が必要で、常人ならすぐに魔力が尽きてしまうからだ。しかしそれなりに負傷もあって、いつもより多くの魔力を消費する。そこでも当然疲労は蓄積していった。
昼は雪こそ降らないものの冷たい空っ風が吹いていて、私含め皆制服の上から厚手のローブを着込んでいる。夜は更にぐっと気温が冷え込んだが、この探索のために組み立てやすいテントと温かい寝袋が1人ずつ支給されているのは有難かった。これがなければ寒さに震えていたかもしれない。夜は数時間交代で1人ずつ見張りについたが、皆の好意により私は免除された。とはいえ襲撃を食らうこともあり、ぐっすり眠れるわけでもないので、日を追うごとに私含め皆の顔に疲れの色が見え始めていた。
「今日もこれかぁ」
レオンさんが携行食に愚痴を零す。6日目の朝だった。大分奥まで進み、予定では後1日か2日で到着予定である。
「飯が食えるだけ良いだろう」
オークリーさんが咀嚼しながら言った。そう返されるとレオンさんは何も言えない。しかしレオンさんがそう愚痴を零したくなる気持ちも分かる。毎食同じものを食べることに抵抗のない私でさえ少し食べ飽きてきたなと感じ始めていたので、食を娯楽にする人にとってはさぞかし辛いだろう。
私たちはもそもそと携行食を食べ終わると進行を開始した。道中では連絡事項以外、もうほとんど会話をしなかった。疲労が蓄積しているので世間話に花を咲かせる体力さえないのだ。
黙々と歩いていると、やがて目の前の地面に大きな亀裂が見えてきた。
「何?」
崖を覗くとかなり下の方に川が見えた。私たちの進行を妨げるように大渓谷が横断していたのである。
「これは…下れそうにありませんね」
「左右に迂回する場所もなさそうだけど」
ギルバートさんとエリスさんが辺りを見回しながら言った。ここはどうやら魔法に頼るしかなさそうである。箒で1人ずつ渡していくという方法も考えたけれど、帰りのことも考えると橋を作った方が魔力の消費が抑えられる気がした。
「魔法で橋をかけるわ」
「できるのか?」
「やる」
カイトは少し不安そうにしていたけれど、ここまで来て引き返すなんて選択肢はない。私は比較的魔力の消費が抑えられるよう土と風属性の魔法で原始的な橋をかけることにした。
「メガロノダス―生育せよ―」
崖の近くに木を生成した。これを倒して丸太を橋にするのだ。そのためにはあの世界樹ほどではないにしろ、この大渓谷を渡れるほど木を成長させる必要があった。私は少ないフェアリーをかき集め、多くの魔力をつぎ込んで大樹を育成した。
「もう倒しても良いと思う?」
「ああ、多分足りるはずだ」
「レピダアネモス―風の刃―」
風の刃で不要な枝を切り落とすと、大渓谷側に倒れるよう角度をつけて倒木した。ドゴン!と凄まじい音を立てて目論み通りに大渓谷に木が横たわった。
「流石アリサさん。ここにきてなお規格外だ」
「本当に」
レオンさんとオークリーさんが驚きを通り越して呆れているように苦笑いをしていた。
「これだけの大魔法だとかなり魔力を持っていかれたんじゃないか?」
「4割は切ったかも」
この頃は魔力の消費量が多いので、1晩で全回復出来ていない。朝起きても7割とか8割スタートがほとんどである。
「朝からすまない。でも助かったよ、ありがとう」
「どういたしまして」
「ただ今日はもう攻撃に回らなくて良い、後方支援だけ頼む」
「分かった」
皆の負担を減らすためにも攻撃に回りたいところではあるが、もしもの時に魔力切れで治癒魔法が使えなかったら大変なので、大人しくカイトの指示に従うことにする。
長い丸太の橋を無事に渡ったところで、ふと疑問に思っていることをカイトに訊ねた。
「ずっと気になっていたんだけど、先に来ていた探索隊の痕跡が全然ないね」
「そうだな、見つけられれば良かったんだが…」
万が一生きていたら救出してあげたかったし、亡くなっているなら埋葬をしてあげたかった。強風のせいか足跡も布切れ1枚さえ見当たらなかった。遺体は全て魔物に食われてしまったのかもしれない。
「少なくともあの大渓谷を越えられてはいないだろうな」
「そっか、そうだよね」
こんなことになるなら初めから探索に行きたいと願い出ていれば良かったと思ってしまう。
「アリサのせいじゃないよ」
「うん」
それでも犠牲者を思わずにはいられない。彼らのためにも何としてでもマンドレイクを採集してこなければ。
大渓谷を渡ってすぐに足場が砂地になっていた。歩きにくくて体力が持っていかれるが気力を振り絞りながら歩いていく。
その時、地鳴りがし始めた。
「何?地震?」
だとしたらこの世界で初めて経験する。始めは小さかった揺れはどんどん大きくなっていき、やがて立っていられなくなってしまった。
「アリサ!」
ふらついた私をカイトが抱きかかえながらしゃがみ込む。その瞬間、足元の砂地が崩落していくのを感じた。
気が付いた時には遅かった。私たちは下から突き上げてくる巨大なサンドワームに呑み込まれてしまっていた。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




