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100.恋人の指輪

※キスシーンがあります。苦手な方はご注意ください。

 植物園を出た後は中心地に戻って何件かお店に立ち寄り、夕食はドレスコードのあるお店に入った。ちょっと良い服はこのためだったらしい。席は半個室のような感じで落ち着いた雰囲気の場所である。食前酒から始まり、小前菜、前菜と一皿ずつ出てくるフルコースを堪能した。本当にこんなゆったりとした時間を過ごすのは久しぶりで楽しかった。

 デザートまで食べ終わってゆっくりしているとカイトがポケットから小さな箱を取り出した。


「アリサ、これ受け取って欲しい」

「え、いいの?」


 こんなに至れり尽くせりだと却って不安になる。


「ああ、開けてみて」


 外観だけでも何となく察しがついたのだけれど、開けてみたら予想通りの物が入っていた。指輪が2つ、大きいのと小さいのが並んでいる。シンプルなデザインのプラチナリングで、前面はきゅっとひねられた形をしており、小さなダイヤもいくつか散りばめられていた。


「綺麗…」

「アリサの世界では分からないけど、こっちの世界では付き合い始めるとそれぞれ全く同じデザインの指輪をする習わしになっている。まぁ相手がいますよって分かりやすくして悪い虫がつかないようにするためだな。今回は申し訳ないが誕生日プレゼントと兼ねさせてもらった」


 これは敢えて兼ねている。その分良い物を買ってくれているのが一目瞭然だったからだ。


「左手を」


 カイトはそう言うと小さい方の指輪を手に取って私の左手の薬指に嵌めた。こういうものを左手の薬指につけるのは同じらしい。サイズはぴったりだった。すっきりとしたデザインなので任務中でもつけていられそうなものを選んでくれたのだと分かる。自然と顔が綻んだ。


「凄く嬉しい、ありがとう」

「喜んでもらえて良かった。…というか誕生日を聞き忘れたのは完全に迂闊だったよ、遅れて本当に済まない」


 心底罰の悪そうな顔をしていた。


「気にしていないわ、祝ってもらえるだけで嬉しい、本当にありがとう。それに私もカイトの誕生日聞きそびれているし、いつなの?」

「夏の2か月目の15日」

「やっぱり過ぎているのね…ごめんなさい。私も今度何か祝わせて」


 私も罰の悪い顔を返したが、カイトは意に介していないようだ。


「楽しみにしている。アリサの誕生日は結局こっちの世界だと定まりそうにないのか?」

「そうねぇ、いちいち端数を数えるのも面倒だわ」

「じゃあいつが良い?」

「そんな感じで良いの?」

「仕方ないだろう」

「じゃあ秋の最初の月の9日」

「分かった」


 きっとカイトのことだから次は当日に祝ってくれるのだろう。


(祝ってくれるのは嬉しいけど、順当に行けば私はカイトよりも先に死ぬのよね)


 カイトの方がずっと長生きだ。でもそれはサリア様も同じだった。フェアリーアイは短命で、85年くらいしか生きられない。カイトはそれでもサリア様を愛すと決めたのだ。きっと私のことも。私が思っているよりもずっと、色々覚悟を決めて彼は告白をしてくれたに違いない。


(一緒にいられる日々を大切にしなくては)


「カイトは指輪つけるの?」

「戦闘職だからな、流石にこのデザインでもちょっと厳しい」


 やはりそうか。きっと剣の持つ感覚が狂ってしまったりするのだろう。


「分かった。ねぇ、最後に寄りたいところがあるんだけど」


 カイトは怪訝な表情を浮かべたが、二つ返事で了承してくれた。

 行ったのは近くの宝飾店だった。カイトにはすぐ終わるからと行って店の外で待ってもらう。私は店内をざっと見回し、1番細身のシンプルなチェーンのみのネックレスを購入した。


「何を買ったんだ?」

「お楽しみ。噴水のところ行こう」


 流石に道端で渡すのは味気ないと思ったのだ。広場につくと夜にも関わらずそこそこ人がいた。王都のど真ん中だし、まだ乗合馬車も運行している時間帯だからこれくらいいて当然か。噴水の縁は腰掛けられるようになっており、今も間隔を開けて何人か座っていた。私は空いている場所にカイトを座らせる。


「カイトの指輪貸して」

「どうするんだ?」

「良いから」


 私はカイトから指輪を受け取ると先ほど買ったネックレスに通す。リングネックレスの出来上がりだ。それをカイトの首につけた。


「凄い、初めてみた」

「そうなの?」


 どうやらこちらの世界では一般的ではなかったらしい。


「これなら任務中もつけていられるでしょ?」

「そうだな、ありがとう」

「カイトが他の女性に狙われたら困るもの」

「野郎ばかりの職場で?」

「あ、確かに」


 いやしかし男色という線も拭えないし。


「冗談だよ。ありがとう、アリサ。凄く嬉しい」


 カイトは私の手を引いて横に座らせた。


「こっち向いて」


 そのまま軽く口づけを交わす。


「…何のキス?」

「感謝のキス。俺がアリサ以外の他の女性に靡くことはないけど、こうやって自分のものだって主張してもらえるのは嬉しいから」


 そう、これは独占欲や所有欲の発露だ。少しでも多く、長く一緒にいたい。他の人に取られるなんて嫌だった。


「全部言わないでよ」

「言葉にしないと心のうちが分からないだろ」


 それはその通りなのだが、恥ずかしいことこの上ない。


(でも、前よりは出せるようになったのかも)


 鏡の中で自分の心の奥底と戦ったからだろうか。前は本当に欲しいものでも欲しいと言えずに諦めていたのだから。


(そうだ、私はカイトを諦めていたんだ)


 こうやって両想いになって付き合ってデートして指輪をもらうなんて夢のまた夢だと思っていた。そう思うと何だかたまらず、私はカイトの肩にしなだれた。


「どうした?」

「幸せを噛み締めているの。…どんなに望んでもあなたのことは手に入らないと思っていたから」

「アリサ…」


 カイトは手で口元を覆った。見たら顔が赤くなっている。


「え?」

「ちょっと待って。あんまり可愛いこと言うから動揺している。完全に不意打ちだ」


 どうやら何かがクリーンヒットしたらしい。私は笑った。今日はカイトの色々な表情が見られる。きっとこれから先ももっと新しいカイトを見られるのだろう。それはとても喜ばしいことだった。



 秋の最終月も終わる頃、陛下から不毛の地に向かわせた探索部隊が恐らく全滅したと報告があった。期日を随分過ぎても戻って来ないのだという。そして私たちに不毛の地探索の命が下った。

ここまでご覧いただきありがとうございます、第4章完です。

怒涛の後半戦スタートします!

少しでも気になった方はブクマ、評価等ぜひよろしくお願いします\(^-^)/

感想、レビューも頂けますと幸いです!

次回は明日の12時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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