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99.初デート

※キスシーンがあります。苦手な方はご注意ください。

 王都に戻って魔術書を国王陛下に献上した。陛下はあれだけ探しても見つからなかったものが見つかるだなんてとひたすら驚いていた。魔術書の魔法は闇属性だったが、陛下は混沌との戦いと天秤にかけた上で使うと判断し、早速探索部隊を結成してそれぞれの地へ派遣するとのことだった。カイトの言う通りその探索部隊に私は入っておらず、出番はなさそうである。


 秋の最終月に入ってからめっきり魔物の襲来が減り、私も時間的に余裕が出来たので、これまで出来ていなかったことや後回しにしていたことをあれこれやろうと思っていた。例えば国王陛下や皆へ献上する料理とか、乗馬や魔法の勉強もまだまだ必要だ。


「アリサ、デートをしよう」


 カイトからデートのお誘いを受けたのはそんな時だった。勿論了承した。仕事では散々会っているが、プライベートで会うのは久しぶりではないだろうか。もしかしたら春のお祭りまで遡る可能性すらある。


 ちょっと良い服を来てくることと指定を受けて、リリアンさんに相談したら満面の笑みで「お任せください」と言われた。ちなみにリリアンさんは私がカイトとお付き合いし始めたことを知っている。デートだと言うことは伝えているので張り切られるかもしれないと思ったが、当日用意されたのは山吹色の大人びた上品なコルセットワンピースに白いボレロだった。リリアンさんにしては控えめである。髪はあれから少し伸びて肩につくかつかないかくらいで、サイドを編み込んで後ろに流すような感じにしてもらった。メイクをして帽子を被ったら準備万端だ。


「凄く良い、綺麗だ」


 衒いもなく言われるから恥ずかしい。そう言うカイトは洒脱な藍色のコートに白いスラックスをさらりと着こなしている。どこの貴族の御曹司なんだと問いたい。


「カイトも格好良いよ」

「ありがとう」


 カイトは嬉しそうに笑っている。もしかしたらカイトも私と同じくらいデートを楽しみにしていてくれたのかもしれない。

 いつも通りに手を繋いで歩く。それでも少し新鮮に感じてしまうのは初デートのマジックだろうか。

 乗合馬車に乗って北と西の外れの方に行く。それなりに時間はかかったけれどゆったりとした時間が流れていて心地良かった。


「ここは植物園?」

「そうだ」

「空から見かけたことあったけど、ここ植物園だったんだ」


 自然豊かな公園でもあるのかと思っていた。案内図を見たら季節で見頃の花が分けられているガーデニングスペースの他、温室やカフェなどもあり色々見て回れそうだ。


「足元悪いところもあるから気を付けて」

「うん」


 遠征の時に自然の花畑や草原などは見かけるし綺麗だと思うが、人の手が加わって整備された場所はそれはそれで別の美しさがあった。


「綺麗ね」

「ああ」


 秋のガーデニングスペースは花の盛りを迎え、馨しい花の香りと共に鮮やかな花々が咲き乱れていた。この間出店で見かけた誕生花によく似た花もあった。案内板にはマムと書いてある。


「その花が好きなのか?」

「そうね、好き。私の世界には誕生花と言って生まれた日にちなんで全ての日に花が割り当てられているんだけど、私の誕生花によく似ていると思って」

「へぇ、確かに綺麗な花だ」

「ちなみに白い花は葬式の時に使われるの」

「え?葬式?」


 カイトがぎょっとしていた。私はその反応が面白くて笑ってしまう。


「元を正せば古くから私の国にあって国花の1つに挙げられているくらいとても愛でられている花なのよ。そんなに綺麗な花だから誰かが別れの餞に供え始めたんだと思う。でもやっぱり葬式に飾られるイメージが定着するとお祝いの場には相応しくないって言われて弾かれることもあるの。全く風評被害も良いところだわ」

「それはちょっと切ないな」

「でしょ?でも最近の葬式だと色とりどりの花を飾るようになってきて、白いこの花だけという葬式は随分古風なものになったと思う」

「ならいつかイメージが払拭されるんじゃないか?」

「そうかもね」


 そんな他愛のない話をしながら色々回って、少し歩き疲れたところでカフェに入ることになった。運良く東屋の席が空いたとのことでそこに通してもらう。

 ハーブティーとアフタヌーンティーセットを楽しみながら穏やかで幸せな時間を噛み締める。


「静かで良いところだわ」

「アリサは意外に人混み苦手だよな」

「え?何で分かったの?」

「何となく、見ていたら?」


 良く観察していると思う。もしかしたら今日ここに連れてきたのも人混みを避けたのかもしれない。


「お、お祭りは別だから」

「そうだな」


 カイトがふっと笑う。その笑みを見ていたら何だか罪悪感が湧いてきた。カイトはきっと私のことをよく見てくれていたけれど、私はカイトへの気持ちを押し殺すことに必死で彼のことをよく見ていなかったのだ。


「…私はカイトのことをよく知らないわ」

「そうなのか?きっとアリサが自分で思っているよりも俺のこと分かっていると思うけど」

「そうかな」

「アリサは几帳面だ。テントの中はいつも整理整頓されているし、この間の探し物の時も丁寧に探すから吃驚した」

「いきなり何?」


 何の脈絡もないと思ったけれど、カイトは続けた。


「他には聞き上手だなと思う。レオンのお喋りにも文句言わずに付き合っているし、皆君と話したがっている」

「そうなの?」

「ああ、後は出されたものは何でも食べるけれど、意外に好き嫌いがある。貝類は全般嫌な顔をしているな」


 当たりだ。貝独特の苦みと磯の香りが苦手である。


「アリサは?何を知っている?」


 カイトはあくまでも楽しそうだ。


「カイトは律儀で細やかだと思う。約束の時間には必ず来るし、他の兵団への挨拶も欠かさない。礼儀を慮っている。それに私だけじゃなくて皆のこと、回りのことをよく見ていて気遣っているし、いつも冷静に振る舞っている。上に立つ人はこういう素質がいるんだなってカイトを見ていると感じるわ」

「…ありがとう」

「でも少し無理をしている時がある。肩の力を抜けば良いのにって思うときもあるかな。あと私が皆で話をしている時はあまり話に入って来ない。食べ物で言うなら加熱したトマトは食べられるけど生のトマトは苦手そうに食べているわね。酒は強いけど酔ったら少しだけ饒舌になる。それから」

「アリサもう良い、十分だ」


 自分で仕掛けてきたのに少し照れているのが可愛かった。いつも余裕のない私の方が優位に立っているのは珍しい。


「ありがとう、こうして挙げてみると確かにカイトのこと全然知らないというわけでは無さそうだわ」

「それは良かった」

「ああ、あとスキンシップも好きよね」

「好きな人に触れるのが嫌いな奴なんているか?」


 追い打ちをかけたつもりだったのだがこれは完全に仇となってしまった。


「まぁでもアリサはスキンシップ好きだけど、恥じらいがあるよなぁ」


 そう言うと対面に座っていたカイトが私のすぐ横に移動してきた。悪い悪戯を思いついた時のような子供の顔をしている。


「ちょっ、近い」

「早く慣れてもらわないと」

「ひ、人目があるから」

「こんな静かな東屋のどこに人目がある」


 あっという間に形勢逆転されてしまう。肩に手をかけられ、もう片方の手では手を握られたかと思うと艶やかに指を絡ませられた。もう完全に逃げられない。頬から唇にかけて伝うようにキスをされる。


(何か両想いになった途端、カイトのスキンシップが激しいんですけど!)


 私はもうどんな顔をしているのか分からなかった。こんなことされ続けたら私の心臓はもたないと思う。


「もう、弄ばないでよ!」

「ごめんごめん、アリサの反応が可愛くてつい」


 カイトは優しくも甘やかに嗜虐的だ。

次回は明日の12時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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