第二章『散策』Ⅲ
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「そう言えば、リィン――。お二人が行きたい場所とは一体、何処なのですか?」
子供達を見送り、戻ってきたネーヴェと再び《ニムル》研究地区を散策する中――。
ふと、シエルが昨日双子が行きたい場所があると言っていたのを思い出し疑問を口にする。
「えっと場所は確か……、ん? あれ、何処だったっけネーヴェ――」
ほんの少しだけ頭を悩ませた後、隣にいるネーヴェにすぐさま確認するリィン。
師から渡された封筒と場所の書かれた紙片は失くさないようにとネーヴェが持っている。その為ネーヴェへと視線を向け確認。するが――
「……ネーヴェ?」
先程から黙ったまま何故かにこにこ見詰めてくるネーヴェ。
一体どうしたのだろうか――。
少しむずむずするその視線に若干身を硬くしつつ、ある思いが頭を過ぎる。
こう言う時、いつも感覚で分かる筈のネーヴェの気持ちが何故分からないのか、と――。
たぶん、怒ってはいない。
どちらかというとあの笑顔は――
「――良かった」
何かを小さく呟くネーヴェ。
その言葉が何だったのか気になり
「今、何か言った? ネーヴェ――」
訊いてみるも、
「ふふっ。何でもない」
先程よりも更に笑みをその顔に載せ、はぐらかされた。
「本当だよ、リィン――。私達の目的の場所だったら此処。《ニムル》研究地区アンフィス目抜き通り郊外3501番地――」
背負っていたカバンからネーヴェが一枚の紙片を取り出し、こちらへ見せながら暗唱。
師が、去り際に自分達に残した物のひとつ。その場所の記された紙片に目を通し、首を傾げるリィン。
「……アンフィス目抜き通り、郊外?」
郊外――。
《ニムル》研究地区の郊外に当たる場所とは一体何処なのか。疑問に思いネーヴェへ視線を向けて訊いてみるも、
「うん。歩いて回ってる時に何度かそれとなく訊いてはみたんだけど、皆、郊外の住所の場所を知らないって――」
おぉ、いつの間にそんなことをネーヴェはしていたのか――。そんなことを胸中でこっそり思いつつ、では一体師が書き残したこの紙片の場所は何処なのか――。首をさらに傾げるリィンだった。
「……エルは?」
駄目もとでシエルに確認を取る為彼女へ視線を向け訊いてみるも、
「申し訳ございません、リィン――。昨日ネーヴェさんにも聞かれたのですが、私も存じ上げません」
彼女もやはり紙片に書かれた場所は知らず。
暫し首を傾げる三人――。
「…………でしたら、今から手分けしてここ周辺の方々に訊いて回る、というのはいかがでしょうお二人共――」
「「……………………」」
シエルの話にお互い顔を見合わせる双子。
確かに手分けして訊いて回るのは理に適っているが、これでは当初の目的から逸れてしまうことになる。本末転倒だ。
だから彼女の申し出を断わる為、口を開く。
「駄目だよ、エル。せっかく気分転換に出てきたんだ。今は自分のことを優先にしなきゃ」
師が書き残した場所のことも気にはなるが、今は少しでも彼女の為に時間を割くべきだ。
探すことならネーヴェがしていたように散策の片手間に探すことだって出来る。
「私が。私がしたいことなのです、お二人共。ですからどうか――」
真摯な眼差しで訴えてくるシエル。
どれくらいの時間、彼女のそんな眼差しを受けていただろう。
とうとう彼女の訴えに根負けした双子が、共に小さく一つ息を吐き、こくり――。了承の意を示した。
「じゃあ、お願い。エル――」
「お願いいたします。シエルさん――」
「っ!! はいっ!!」
双子の言葉に満面に笑みをたたえ、シエルは力強く返事を返した――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
シエルの提案に甘え早速、《アンフィス》目抜き通りにある郊外について手分けして訊いて回る三人。
幸いにも《アンフィス》目抜き通りは先程までいた《グリマール》通りから程近く、聴き込みに時間を割くことが出来た。
のだが――。
「……やっぱり誰も知らないな、“郊外”――」
かれこれニ時間――。
通りすがる住民、露天商の店員に客と、かなり広く長い目抜き通りで訊き回るも一向にして有益な情報は手に入らず――。
一体“郊外”とは何処のことを指すのか、少しばかり肩を落とし師の書き間違いを疑ってしまうリィン。
なんせ、《アンフィス》目抜き通りは《ニムル》研究地区の中央部分を走る通り、“西区画のど真ん中”に位置する中央通りなのだ。
そんな、区画のど真ん中に位置する通りなのに何故“郊外”が存在するのか――。首を傾げ何度も頭を悩ませてしまう。
それに何よりも――
(せっかくエルが時間を割いて手伝ってくれているのに――)
何度か二人と合流しつつ成果を共有するも誰も情報を得られないことに、段々と彼女に申し訳なささが込み上げてくる。
何だかんだとしている内に正午は過ぎ、昼食を摂る時間となった。
そろそろ切り上げて二人と合流し、昼食でも食べに行くか――。そう思い最後に一人、声を掛けてから行こうと近くに来る女性に声を掛ける。
「あの、ごめんなさい。この場所どこだか知りませんか――?」
場所の記された紙片を、通りすがる住民の女性に見せ尋ねるリィン。
「どれかしら――」
リィンの持つ紙片を覗き込み、目を通す女性。
すると――
「……《ニムル》研究地区、アンフィス目抜き通り郊外……――。あら、此処ってもしかして……――」
「…………こ、こ?」
眼前に聳える、巨大な鉄柵の門扉を見上げ一言。
手元にある紙片に今一度目を通し、首をぎこちなく動かし辺りを見回す。
今、リィンがいる場所は鬱蒼たる深緑の樹海中――。
周辺には眼前以外の人工物は一切無く、人っ子ひとり居はしない。
居るとすれば木の実を求めて姿を現す小動物や鳥類といった、森を棲み家にする動物達が目に付くだけで。
先程、師が書いた住所の場所を近隣住民の女性に見せ、詳細な場所を地図に書き込んで貰ったのだが、もし“此処”がそうだというのなら――
「………………よし二人共帰ろう今すぐ帰ろう――」
そそくさ逃げるよう門から回れ右。
脂汗を額にかきつつできる限りぎこちくない笑みを浮かべ、この森に来る前合流した二人に一息で帰路へと促し足を踏み出すリィン。
だが――
「……リィン、駄目。帰っちゃ」
と、一蹴するネーヴェの声にぴたりと強制停止。
あまり力が強くない筈のネーヴェに肩を掴まれ微動だに出来ず――。
往生際悪くじたばたするリィンだった。
(何でこう言う時だけ力強いんだよネーヴェ! ……そうだ、エル!)
縋る思いで視線をシエルに向けてみる。
が――
「………………エ、エル?」
「…………………………」
立ったまま、滝のような汗を掻くシエル。顔は青白く、今にも失神して倒れそうだ。
(そっかー、エルもかぁー)
自分よりも重症な彼女を見て、少しばかり気を持ち直すリィン。
だが、恐怖が払拭された訳ではない。
巨大な鉄柵の門扉の奥――。
そこにひっそりと佇む蔦這う洋館に、生唾をごくり。
あれは絶対に“何か”いる――。そう思わずにはいられない外観に足が竦んだ。
「……ネーヴェ。あそこ、どうしても行かなきゃいけない――?」
ネーヴェが、なんと答えるか分かった上で聞いてみるリィン。
分かってはいるのだ。詮無いことだということぐらい、分かっている。分かっているのだが、聞かずにはいられない。
「うん。行かなきゃ駄目。そもそもここに来た目的、忘れちゃったの――?」
ぐうの音も出ず項垂れるリィン。
時間を掛けて見つけた紙片の場所がまさか、こんな幽霊屋敷だなんて誰が思おうか――。
と言うか、何故都市の地区ど真ん中にこんな広大で不気味な樹海が存在しているのか。
そもそも誰が好き好んでこんな薄暗い樹海の中――。周囲に他の民家がなく、人っ子一人いない場所に屋敷を建てたいと思ったのか。まったく理解が出来ない、怖過ぎる――。と自分が住んでいた森のことを棚に上げ、リィンは胸中で一人愚痴をこぼした。
のだが――
(……怖いんだけど、何だろう――。この森なんか、他と空気が違う? 呼吸がしやすいって言うか――)
薄暗く不気味な鳴き声響くこの樹海に何処か、他と違う澄んだ空気を感じていると身体が、動いた。
否、引きずられた。
「――ッ?! えっ?! ちょ、待ってネーヴェ!! 心の準備! 心の準備させてよ!!」
ずるずると、コートの襟首付近を掴んで引きずるネーヴェに、情けなくも懇願し叫ぶ。
本当に待って欲しい。
ネーヴェは自分と違い、こういう怖いもの系――“幽霊”など怖くない人種だから分からないのだ。
まだ出ていなくても、怖いものは怖い。
行きたくないけれど行くにしても、ちゃんと心の準備をしてから是非行かせて欲しい。
だが無慈悲にも巨大な鉄柵の門扉をギィと音を鳴らせて開き、「失礼いたします――」と一言声を掛け、ネーヴェがゆっくりと屋敷方面へ歩を進める。
必然的に、襟首付近を掴まれ強制的に後を追わされ着いて行かざるを得ないリィン。
嫌だ、行きたくないッ――!! そう往生際悪く叫ぶも、屋敷へとゆっくり引きずられ徐々に徐々に近づいていく。
そして、既に再起不能となっているシエルを門扉前に残し、とうとう玄関ポーチへ辿り着いた――。
(………あぁ、来ちゃったよぉ)
恐怖で慄くも、玄関ポーチへとネーヴェの隣に立たされるリィン。
帰りたい、物凄く――。
そう思うも、隣では重厚な玄関扉のドアノックに手を伸ばし、扉を叩くネーヴェ。
静寂な森の屋敷に、人工物である鉄のノック音が響く。
何も出ませんように――。
屋敷周辺の森から聞こえる鳥の鳴き声と、木々のさざ波音を耳に胸中で祈る。
別に信心深い訳ではない。
しかし居るとも分からない神という存在に縋り祈りつつ、きつく瞳を閉じじっと身を竦め待つ。
静かに、ただ静かに時間だけが過ぎていく。
そして――。
ノックからどれくらいの時が経っただろう。
待てども誰か来る気配はせず、ホッと一息。
よし、このままこの扉が開かなければさしもの妹も諦めてくれるだろう――。そう思いそろそろ一旦切り上げて帰ろう、と妹へ言葉を掛けようとしリィンは、絶叫した――。
お読みいただき、ありがとうございました!




