第二章『散策』Ⅱ
また、ちょこちょこ投稿していきます。
ちなみに投稿済みEpisodeですが、色々と改稿してたりいたします。よろしければそちらもお読みいただけると嬉しいです!
「それで。何処行こっか、おネエさん――」
大衆食堂《止まり木》を出て少し――。
ポプラに渡された朝食を食しつつ、《止まり木》からほど近い大通り――《グリマール》通りをゆっくりと歩く双子とシエル。
周囲には《グリマール》通りを行き交う数多くの人々。手に三人と同じよう簡単に食べられる朝食を持ち食しながら歩く者や、朝の新鮮な食材を手に買い物に勤しむ者と、三者三様の行き交う人々が数多く目につく。
そんな眼前に伸びる大通りを歩きつつ、視線をちらりと周囲へ向けシエルに言葉を掛け尋ねるリィン。
実の所張り切って出て来たはいいが、シエルの気分転換という西区画探索の目的地などはまだ決まっておらず、道すがら何気なく歩いている状況の三人である。
(それにしても、すごい活気のある大通りだなぁ――)
周囲を少しばかりそわそわと見遣りつつ、シエルの返答を待つリィン。
視線を向けた先にはテントを張った露天商や、地面にシートを敷いて商品を並べる露天商。
香ばしい香り漂う、食欲唆るあの料理は一体何だろう。
今まさに盛大に音を立て焼かれる名前の知らない肉料理に、ポプラから渡された玉子のホットサンドを片手に早くも別の食べ物が気になるリィンであった。
次いで視線は野菜や果物を数多く取り扱う露天商にゆき、さらには自作の工芸品を取り扱う店だろうか。木材を加工研磨し精巧に仕上げられたアクセサリーは美しく、職人の腕の良さが見て取れる。
そして他には他には――と。彼女の気分転換の散策だというのを忘れきょろきょろ。
次に目についたのは、直ぐ近くでテントを張った露天商。そこで売られている品物に目が止まり、
(あれは、壊れた“古代遺物”――?)
簡易的に設置されたテーブルの上。そこに並ぶ一見ガラクタにしか見えないその商品に目を留め、小首を傾げ見る。
(んー。どう見ても壊れた“古代遺物”だよね? アレ――。売り物になるのかな?)
所々欠け割れる使用出来ない鏡や、何かの部品のような物は既に力が失われた“死んだ”古代遺物で、はっきりと言って鑑賞用の骨董品にすらなるかどうか分からない形をしている。
(あそこは――うん。怪しすぎる。変なの買ったりしたらネーヴェに叱られる)
他にもそれなりに古代遺物らしい物が並んでは居るものの、何とも怪しい露天商には関わらないよう違う露天商へ視線を移すリィン。
すると――
「もし目的地などが無ければ、シエルさんのオススメの場所などお伺いしてもよろしいですか?」
と、まだ食べかけの朝食である玉子のホットサンドを両手で持ち尋ねるネーヴェの声に、視線が二人へと戻る。
しかしそんなネーヴェの言葉を耳にした途端シエルは、先程までほんのり赤く染めていた頬の色を一転。その色を引っ込め、どこかそわそわとした挙動で額に汗を浮かべ沈黙。
「……ぁ」
「…………」
何かを察するネーヴェと、すぅーと視線を逸らすシエル。
そんな二人を見てリィンは首を傾げ口を開く。
そして、聞いてはいけない事を口にした――。
「……もしかしておネエさん、《セーレム》のこと、何も知らない――?」
「!!!」
トサリ――。
シエルの手からこぼれ落ちる食べかけのホットサンド。
それは無惨にも、サンドされていた絶妙な半熟たまごが地面に溢れ出るという、何とも言えない哀愁漂う様を醸し出していて――。
「………………ちゃ、ちゃんと存じてますよ。はい、勿論ですよ。大丈夫ですよリィンさん――」
(うん。コレ、知らないやつだ)
若干声が震え、しどろもどろに答えるシエルを見て確信するリィン。
しかし、彼女がこの地の事を何も知らないなんてことがあるのだろうか。
確か彼女のお兄さんが音信不通になったのが約三ヵ月前。
音信不通になり一月待って、やはり手紙が来ないからと《セーレム》へ来たと言っていたのが今から約一月半前。
だったら――
そんな事をリィンが思っていると徐ろに、言葉を紡ぎ始めるシエル。
「《遺跡都市セーレム》――。そこは、今だ数多くの“生きた”古代の叡智眠る楽園の都市。
その広さは超広大。都市の周辺上空には庇のように存在する隆起した断崖があり、その断崖周辺にはラーデン山脈が聳える。そうした超広大で、自然の窪地に隠された場所に遺跡都市は存在している。
そして、都市は大まかに分けて五区画――。
東の《ベナン》保養地区、西の《ニムル》研究地区、南の《ファルム》商業地区、北の《ラタトア》学術地区、最後に中央の《ヴェルナード》聖堂地区で五地区に分類――。
えっと、ここは西区画ですので《ニムル》研究地区ですね。とても頭の良い方達が住まわれています。はい」
「「………………」」
一気に《セーレム》について語ったシエル。
その手には数枚の紙。
恐らく数多くある、彼女の兄の手紙の一部だろう。それを要所要所に読み上げ、自分達に説明――。
この地のことを知っている、と彼女は言いたかったのだろう、が。
(あー、でもなんか違うよおネエさん。ネーヴェが聞いてたのは――)
ちらりと隣にいるネーヴェへ視線を向けると、こくり。
何だか悪い事を聞いたかな、と声には出さず若干苦笑いを浮かべて小さく頷いた。
そして更にシエルは語る。
「えっとですね。《セーレム》の中でもこの《ニムル》研究地区には特に“生きた”古代の遺跡が多く、まだ使用出来る古代の遺物が発見されたり、遺跡そのものの機能を使いこの都市に役立てたりと、何だか凄い地区だそうです。どのような遺跡の機能を使用しているのでしょうね」
オススメの場所を聞いていた筈だったが、いつの間にか《セーレム》の説明になっているシエルの話を聞きつつ、空を見上げるリィン。
(そう言えばあの、この地の空を囲うよう薄っすらと見えた鳥籠のようなのって、その“生きた”遺跡の機能ってやつだったのかな?)
断崖上から見えた、この地を囲むよう存在する半透明の鳥籠のような模様を思い出し、目を凝らして視てみるリィン。
だが、空を視ても地上からはあの時目にした模様は一切見えず、視線の先にはただただ青く澄み渡った空が広がっているだけで――。
「でしたら、このまま私とリィンが目的とする場所までのんびり《ニムル》研究地区を見て回る、というのはいかがですかシエルさん?」
話の方向修正に掛かったネーヴェに対し、視線を地上へと戻し全力で話を合わせる為口を開くリィン。
「そうだね。どうかな、おネエさん――」
シエルへ視線を向け、ネーヴェの提案について彼女に意見を求めてみる。
このまま此処で話し込んでいても彼女の気分転換になど一切なることはないだろうし何より、自分が早くこの付近を探索してみたい。
そう思いながら彼女の言葉を待っていると、少し恥ずかしげにシエルが口を開いた。
「――そ、そうですね。のんびり歩くことに致しましょう。リィンさんも早く見て回りたそうですし」
彼女の視線がこちらに向く。
何故か思っていたことが分かられていて、何とも言えない気分に陥るが仕方がない。
ポプラに渡されていた自分用のホットサンドを全て平らげ、改めて口を開く。
「じゃあ行こう、二人共! ほら早くッ――!」
どんな物が見れるのかうずうずして、二人を急かしリィンは前を歩いた――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
散策し始めてあれから二時間――。
多くの露天商が建ち並ぶ通りを歩きリィンは、この散策がシエルの気分転換の為ということも忘れ今だに目を輝かせていた。
「ネーヴェ、ネーヴェ! アレ何だろう!」
目を爛々とさせ指を差し、好奇心の赴くままにネーヴェへと尋ねはしゃぐリィン。
周囲では何やらくすくすと笑みを零す人達がいるが気にはしない。
何と言ったって初めての大都会――。多少浮かれてしまうくらい許して欲しいというものだ。
「……リィン、自分が楽しんでる――」
「ふふ。リィンさんがああして楽しそうにしているのを見るの、私は楽しいですよ?」
「……ありがとうございます、シエルさん」
微笑みを浮かべネーヴェを見るシエルに対し、眉を垂らし礼を述べるネーヴェ。その後小さくだか仕方がないリィンなんだから、と呟き小走りに駆け寄って来るネーヴェ。
仕方がないではないか。
初めての大都会に、物珍しいものばかり。そんなものに囲まれていれば興味を示さないなんてこと、そうそうにない。
彼女のことを放ったらかしにしてしまっていたことは確かに、申し訳なかったが……。
次第に押し寄せる罪悪感に、眉が垂れてくるリィン。
そうだった。ネーヴェと昨日話し合って決めていた筈なのに、彼女を優先せず自分が楽しんでいた。
こちらへとゆっくり歩んで来るシエルへと今更だが、視線を向け謝意を口にするリィン。
「……ごめんね、おネエさん。オレだけ楽しんじゃってて……」
近くへと来たシエルへしゅんとしながら謝罪をし、改めて西区画である《ニムル》研究地区の町並みをネーヴェ達と共に眺め見る。
本当に、物珍しいものばかりだ。
往来は綺麗に舗装された石畳。周囲には見事な建築物群。瀟洒な街並みにはそこかしこに剥き出しになる過去の遺構や遺物が顔を覗かせ眠り、街と静かに共存している。
それに植物――。
今はもう黄昏色にその身を染める植物が多いい世界で《セーレム》は、まだ深緑植物が数多く残っており人々のオアシス的な役目も担ってくれている。
今、目に映る周辺だけでもこれなのだ。この《グリマール》通り以外の場所には一体、どのようなものが広がっているのか。
うずうずが収まらないリィンだった。
「――お兄ちゃん待って!!」
駆け出したい衝動を抑え込み街並みを観察していると、小さな子供達が駆けて行くのが目に付いた。
お兄ちゃん、と呼んでいたので恐らく兄妹だろうか。
自分達よりもまだ幼い子供達を見遣っていると、先程言葉を発していた少女が躓き転ぶのが見えた。
「大丈夫っ――!?」
共に子供達を見ていたネーヴェが声を上げ、少女のもとへと駆け寄る。
ネーヴェの上げた声に異変を感じたのだろう。
少女の兄と思しき少年も直ぐに少女のもとへと駆け寄り、ネーヴェに頭を下げ妹の怪我具合を心配している。
そっと、子供達に向け飛び出し掛けていたつま先を地面に降ろす。
本当に、こう言う時のネーヴェの行動の速さは凄い。
(あの子達はネーヴェに任せていれば大丈夫だな――)
少女の怪我具合が心配だがふと、同じように駆け寄ろうとしていたシエルに言葉を掛ける。
「――ねぇおネエさん。今日はどうして、出掛けてくれる気になったの?」
少女の怪我を診るネーヴェを優しく眺め、何気なく零れ出る言葉――。
昨日、あれ程迷っていた彼女が一転。
服装を新たに、張り切って《ニムル》研究地区の説明をしたりと、まだ散策し始めて間もないが何処か昨日とは違う様子に言葉が零れた。
唐突に投げ掛けられたリィンの言葉を静かに聞くシエル。
彼女もまたリィン同様その琥珀色の瞳を、子供達に優しく微笑むネーヴェへと向けている。
「……ふふ、どうしてでしょうね」
優しい眼差しをネーヴェへと向け、ころころと笑い声をこぼすシエル。
何となく、彼女は答えないだろうと予想はしていた。
しかし、今の彼女の反応でネーヴェが何かを話したくらいは察しがついた。
(それにしても、何言ったんだろうなぁネーヴェ――)
少女の治療が済み、笑顔で手を振り子供達を見送るネーヴェを眺め、少しばかり詮索してしまうリィン――。
だが直ぐに少しだが口角を上げ詮索するなど野暮だな、と思いとどまる。
そして少女の治療を終えたネーヴェのもとへ行こうと思い、シエルに声を掛け足を踏み出そうとすると、今度はシエルに言葉を掛けられた。
「リィンさん――。よろしければ、名前で呼んで頂いてもよろしいですか?」
「――?」
唐突にお願いされた内容に、疑問符が頭に浮かぶリィン。
名前呼び――。
急に一体どうして――。
足を止めシエルへと向き直り首を傾げていると、すぐに彼女の口から理由が語られた。
「だって、これから一緒に兄の行方を捜して下さるのでしょう? でしたら“おネエさん”呼びは何だか、よそよそしいです――」
「!!」
本当に、妹は一体彼女に何を言ったのか――。
思わぬシエルの話に碧の瞳を大きく見開き、ネーヴェを振り返ってしまうリィン。
確かにずっとおネエさん呼びだったが今は呼び方ではなく、初めに彼女が言葉にした内容に頭がいっぱいとなり二人を交互に見てしまう。
「……駄目、ですか?」
しばし口をつぐみ二人を交互に見ていれば、シエルが少々不安気に確認を取ってきた。
「ッ!! 駄目じゃないッ――!!」
食い気味に返事を返し、そうだ名前呼び――! と彼女が確認を取って来ていたことを思い出し叫ぶ。
リィンの食い気味の返事に琥珀色の瞳を軽く見開き、すぐに花が咲いたよう嬉しそうに微笑むシエル。
「では改めまして、シエル・コーディナーと申しますリィンさん。よろしければシエル、とお呼びください――」
己の名を改めて名乗る彼女を見て、
「――シエル……シエル。うん。オレはリィン。リィン・オルクス――。さん付けはいらないよ。こちらこそ改めてよろしくね、エル――」
自分も笑顔で名を改めて名乗り、シエルと握手をかわすリィン。
そんなリィンへ「エル――?」と少しばかり省略された自身の名を口にし、聞き返すシエル。
そしてその言葉に「うん! よろしく、エル!!」とリィンの溌剌とした声が周囲に響いた――。
お読みいただきありがとうございました!
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