西暦2024年3月 天地動説
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この「黒」がこの宇宙には無数にあって、さらにこの黒がグレートアトラクターを中心に
一時として止まることなく、無数に周り続ける。さらにそのグレートアトラクターという巨大な黒い球もまた無数に存在し、宇宙という垣根をまたいで、さらに大きな力によって回転している。
文字ではこれくらいでしか表せない。
これは、「地」を形作っている全ての原子でも行われている。
我々は回転の世界にいる。
天だけが動いているのではない。
地も動いている。
両方動いている。常に、絶え間なく。
回転は電力を生み、重力を生み、磁力を生む。
「もはや、無限のエネルギーに原子力などいらなかった。」
「キューブたちは2040年代に来る。まだ、地球の人類は文明レベルが低すぎて
キューブ擁護派と殲滅派が分かれるだろうな。ブツブツ」
俺が麗美のことでまだ意気消沈してる中で、あいつは淡々と
新技術を開拓しては、地球よりもはるか遠い周囲の状況も把握して、
まるで預言者のような発言と新たな真理にたどり着いて俺を慰めようとしているのか、
ただ、自分に満足しているのだか。なんなのだろう。
「はあ・・・」
南極施設のESで、騒がしく進むロス平の作業がこのため息でピタッと止まった。
あいつがゆっくりとこちらに向かってくる。
「・・・お前、いつまでそうしてるんだ?」
「さあな。いつまでもこうかもしれない。」
「一つ教えてやろう。説教だと思って聞け。」
俺はとても嫌そうな顔をしただろう。
「はあ?なんだよ。」
「まず、お前の体はペリロイドだよな?」
「あー、それがなんだよ。どうせ俺は、麗美に捨てられた身。いくら体がペリロイドで頑丈だろうが、過去未来を行き来できようが、運命には抗えない不自由な存在に変わりないよ。俺はもうダメかもしれない。」
「お前は今既に体がペリロイドであるということがどういう状況か本当の意味ではまだ分かってない。」
「あ?結局、少しだけ自由を得られただろ。この体を得たからってできることには限りがある。それを知った。もはや麗美を救うことはできない。あの夢を見る様になってから得た真理は所詮そんなもんだ。」
「はぁ。もっと前向きになろうぜ。」
「楽天的だな。じゃあロス平はなんでそんな平気そうなんだよ。お前は俺なのに。何が違うっていうんだ?」
「今日も新たな発見があったわけだけど、俺らがあの夢を見て、周囲の一般人よりも飛躍的に進化した。
そして、その進化は俺たちだけじゃなく実は隠れて神とつながっている大勢が、隠れてひしめいていることを知ったよな?麗美の職場で。蝶名林源を見て。」
「あーね。でもそれが麗美の死の受け入れと何の関係があんだよ。」
「まあそれはそれで麗美を救うことは最終目標としてだよ、兎に角俺たちは飛躍的な技術革新を突き進んでるわけだ。これまでにない技術だぞ。地球の歴史を1年に例えると、ヒトの歴史はたったの4時間程度だ。この進歩の速さは驚異的だ。」
「だーかーらー、それが麗美の死とどう関係があんだよ。」
「結果だけ知りたいようだな。じゃあ端折るけど、俺たちはその中でできることが増えただけでなくいろんな重要な真実を知ったよな?その知識から、彼女を救えるかもしれない。俺らの望む未来にできるかもしれない。そういう話をしているんだ。」
「・・・」
は?もともと運命で決まっている結果からどうやってあの子を救うというんだ?
神は、点を弾いてこの世を作った。今はその延長だろ?
その過程で積み重なった業を消すなどという行動にでるなら、いったいいつの時代まで遡ることになるか。
過去であればあるほど、俺たち人類の歴史は脆く、下手をして過去の根幹が揺らげば最後、
生物自体がそもそも存在できず、この時代には人類など既に滅んで、居なくなるかもしれない。
業や徳というカルマシステムは変に改変しようとすれば最後。何もかもの歴史が変わり、不毛なパラレルワールドがまた新たに生まれ可能性があるだけだ。
分からない。
一体その真理のなかで、彼女をどう救えるというの?
「どう救うっつーんだよ。そんな・・・」
「おい鉄平。何も『死』が悪いこととは言ってないだろ?『救う』『救われる』も同じことだ。
『俺たちが望む未来』も、麗美が生き返ることとは限らない。麗美が今も幸せならそれでいいと俺はそう思う。」
「麗美は死んだんだぞ?今もクソもあるかよ。麗美が居ないこの世界に、俺たちの望む未来なんて想像つかねーよ。。。」
「麗美が生きてないからどうだっていうんだ?それはただ、寂しいというだけじゃないのか?その己の私利私欲の中にある寂しさを無くすことだけがお前の望む将来というなら、そりゃ傲慢というもんだ。」
ロス平が顔の前に詰め寄る。
「おい、目を覚ませ。鉄平。」
・・・確かにそうだ。
麗美は望んで死を選んだ。
それをやめさせることが果たして俺の望みなのか?いや、違う。
麗美の幸せが俺の望みだ。
「・・・そうか。思い出してきた。」
「そうだ。麗美は何を望んでいたのか。俺たちは長い年月を共に過ごして知っているし、麗美は言葉にもしてくれていた。初詣の日のあの言葉。覚えているか?『私はこのままでいい。死ぬときは死ぬんだよ。』」
「ああ、そうだったな・・・」
「麗美はそこまで考えてなかったかもしれないが、その考え方は非常に大事だ。その初詣のちょっと前に、惑星オラムへ行って学んだことがあるだろ?生命は死後も別の形で存続していて、今生の生命も、その形を変えた来世でも、この世の中は関わったあらゆるもの原子や量子に事実が痕跡となっていつまでも染みつく習性がある。すべての行動は監視され、これが業や徳になるんだ。これを忘れるな。麗美の幸せを願うなら、行動の一つ一つ、感謝を向けるべき方向の一つ一つ、欲望を向ける一つ一つを、麗美の望むだろう方向に定めろ。」
「『普通でいい。』って、麗美は言ってたな。人と違うとしても、いかに特殊な能力を持っているとしても、麗美はこのカルマの世界に身を任せ、穏やかに過ごすのに必要と見出したことが『普通』だったんだろうな。」
「そうだ。それを、私利私欲のために掘り返して蘇らせるなんて、ただの暴挙だ。俺らの望む未来じゃないだろ?あと、最後にこうも言ってた。『鉄平でよかった』。俺たちは俺たちらしく生きようぜ。それが多分、麗美の望む幸せだ。今もきっと、そこかしこで俺たちのことを観測している。」
「・・・」
「俺たちが得たのは単にこの体ってだけじゃない。それ以上に得られて感謝すべきは、知識と情報だ。このペリロイドという『体』、『能力』以上に重要な要素は、『情報』なんだよ。」




