神改造
マニさんを集落に連れて帰るとすでに夕方だった。
太陽は西の空に傾き、冒険者たちはその日の仕事を終えてダンジョンから次々と帰還している。
チーム・ハルカゼもちょうど階段を上がってきたところだった。
俺の姿を認めたメルルが足を引きずるように寄ってきた。
「ユウスケさん……ラムネを……」
「どうした、メルル? 息も絶え絶えだぞ」
「走りすぎで、のどが渇いて……」
メルルたちは地下三階で金の毛をもつ羊に出くわしたそうだ。
「あれは伝説のゴールデンシープよっ!」
ラムネを二本飲んだメルルはゴールデンシープについて熱く語ってくれた。
「ゴールデンシープはただのモンスターじゃないの。金羊毛をドロップすることで有名な、伝説のモンスターなのよっ!」
「まさか、純金製の羊毛?」
「そうじゃないけど、欲しがる金持ちは多いんだよ。噂によると、その羊毛で作ったマントを身に着けているだけで資産が目減りしないんだって」
なるほど、富裕層には魅力的なアイテムだな。
金持ちであればあるほど欲しがるかもしれない。
「でも、逆に言うと貧乏人には関係のなさそうなものでもあるよな」
「そうだけど、都なら下取り価格三百万リムは下らないって代物よ。絶対にゲットして稼いでやるんだからっ!」
ゴールデンシープは足が速く、メルルがどれだけ頑張って追いかけても逃げられてしまったそうだ。
他のチームも頑張ったようだが、迷宮を高速で走る羊に追いつけた者はいなかったらしい。
「はぁ、興奮がおさまらないなあ。誰かとモバフォーの試合でもしよっと。相手になってくれる人はいない?」
元気なものだ。
メルルは自分のレッドショルダーを取り出し、闘技場でウォーミングアップをしだした。
と、不意にメルルのザコを掴みあげる人がいた。
「ホッホッホ、これは面白いのぉ」
なんと、それまで大人しくしていたマニさんだった。
「おじいちゃん、私のザコを返してよ。リンクが切れちゃったじゃない」
「これはすまん。つい、興奮してしまったぞい。ふむふむ、扱いやすそうな機体であるな。消費魔力が低いのも魅力の一つか」
マニさんがそう言うと、メルルの瞳が輝いた。
「おじいちゃん、わかってるぅっ! でも他のモバフォーと比べて出力が低すぎるの
がネックなのよね」
マニさんは顎に手を当てて考え込んでいる。
「フーム……、これでは少し不公平だな。どれ、儂が改造してやろう」
「へっ?」
メルルの返事を聞くこともなくマニさんはザコを顔の高さまで持ち上げる。
するとマニさんの眉間が光り輝き、細い光の糸がザコとつながった。
「できたぞい。さっそく動かしてみるといい」
改造には数秒しかかからなかったけど、ザコの見た目は大きく変わってしまった!
各部装甲は一新され、重厚さが増している。
なんだかずっと強そうになっているぞ。
メルルがさっそく動かしたけど、機動性もよくなっているようだ。
「すごい、出力が大幅に上がっているわ! その分、小回りは利かなくなったけど、これならじゅうぶん許容範囲だよ。おじいちゃん、ありがとう!」
「気に入ったかな? 短時間ではあるがホバー走行も可能になっておるぞ。名付けて『ザコⅡ改』じゃ」
これほどのことをやってしまうとは、やっぱりマニさんは神様で間違いないようだ。
「ヤハギよ、明日からはザコの代わりにザコⅡ改を販売するのじゃ。エルメラ兄ちゃんにも許可はとった」
「俺は別に構いませんが……。すごいですね、改造なんて」
「改造?」
マニさんはわけがわからないという顔をする。
「たった今メルルのザコを改造したじゃないですか」
「儂が? そうだったかのぉ……?」
う~ん、神様というのは間違いないけど、かなり痴呆が進んでいらっしゃるようで、ちょっと心配になってくるほどだ。
「お、なんだかおもしろそうなものを動かしておるな!」
たった今自分が改造をしたザコⅡ改を見てマニさんがはしゃいでいる。
本当に記憶がないようだ。
「なあ、爺さん、俺のググレカスも改造してくれよ!」
ガルムが頼んでいるけど、マニさんは首をかしげている。
「改造? 何のことじゃ?」
とぼけているのではなく、本当に忘れてしまっているらしい。
その後、焼きそばを「美味い、美味い!」と頬張りながら、マニさんは幸せそうにモバフォーの試合を眺めていた、と思ったら寝ていた。
「マルコ、リガール、マニさんを運ぶから手を貸してくれ」
一軒家タイプの店舗を出して座敷に布団を敷いた。
神様とはいえ、老人を屋外に放置するのは忍びない。
しばらくはここで暮らしてもらうのがいいだろう。
「可変型のガンガルフを与えるのはまだ早いのぉ……ムニャムニャ……」
マニさんの寝言にガンガルフ使いのリガールが反応した。
「可変型ってなんでしょう?」
「さあ……」
神様の考えなんて俺にはわからない。
「ひょっとして、新型のガンガルフでしょうか?」
「どうだろうな。寝言とはいえ、それを与えるのはまだ早いって言ってたから、期待しない方がいいと思うぞ」
「そんなぁ……。メルルさんばっかりずるいですよ」
「そういうなって。俺から見てもザコは一番パワー不足だったぜ」
おかげで在庫がいっぱい溜まっているのだ。
本当に明日からはザコⅡ改が入荷するのだろうか?
入ったらエッセル男爵に送ってあげないといけないな。
新型を見れば男爵もきっと喜ぶだろう。
「ぐー……ぐー……」
人々の想いをよそに、機械神マニは気持ちよさそうないびきを立てていた。




