出会い
その女性は、肩くらいまでの銀髪をなびかせて2人に問いかけた。
「こんな時間にこんなところで、いったい何をしているの? 親御さんが心配するわよ」
その言葉に2人は顔を見合わせる。
どう説明したものか。お互いの顔にははっきりとそう書かれていた。
しかしなかなか口を開かない2人を気にも留めず、女性は続ける。
「それに、ホーンラビット……魔物のことを知らないなんて。いったいどこから来たのかしら。よく無事でいられたわね」
「えっと。僕たち、王都から遠く離れた村に住んでるんです。でも、なんか怪しげな影が襲ってきて。気がついたらここにいたんです」
意を決した様子でダスクが口を開く。
それを聞くと、女性は眉をひそめた。
「と、いうことは……うわさに聞く、漂流者ってやつかしら」
「漂流者?」
ダスクの知る限りでは漂流者というのは海でしか使われない言葉かと思ったのだが。
「この空が見える?……この世界ではね、半年くらい前からこんな状態なの。そして、ときどきこれと同じ空が現れた世界から人や物がこの世界に来ることがあるそうよ。これを漂流者っていうの」
「この真っ黒な空?それなら見たぜ! 村の上空だけ暗かったんだ」
「そう。それならあなたたちは、別の世界から来たってことで確定ね。これからどうするつもり?私は使命があって聖都オーブに行く予定だけど、そこまでなら送るわよ」
「どうするダスク?ここにいたって飢え死にするか魔物に襲われて死ぬかだし、送ってってもらうか?」
「そうだね。じゃあすみません、ご厚意に甘えさせていただきます。」
ダスクは深々とお辞儀をする。
その様子を見て、女性は少し困ったように微笑んだ。
「そんなに堅苦しくなくていいわ。これから一緒に旅をするんだからね。私の名前はノッテ。あなたたちは?」
「わかったよ。僕はダスク、見ての通り弓を使うのが得意。よろしく。」
「俺はソワールだ。剣を使って戦うのが得意だな! まぁ戦いといっても、村の近くの森で狩りをするくらいだったんだが」
お互いに自己紹介を済ませたところで、ソワールの腹が鳴る。
思えば、前の世界の朝から何も食べてないのだ。
「あら、お腹が減ったの?それじゃあ、このホーンラビットでも焼いて食べましょうか。」
「え!? 魔物って食べられるのか?」
「まぁ、食べられるものと食べられないものがあるわ。夜食にしても遅いけど、お腹が減ってるなら少しくらいいいでしょう」
ノッテはそういうと、倒れた2羽のホーンラビットをバッグから取り出したナイフで解体していく。
「そういえば、さっきも言ってたけど今って何時くらいなの?」
「あなたたちの世界と時間間隔があってるかはわからないけど、1日を24時間として3時くらいね。」
「えーと? それは普通は活動時間外なのか?」
ダスクとソワールの質問に答えながらも、解体の手が止まることはない。
「そうね、普通の街の人は7時に起きて21時くらいに寝るわ」
「げ、思いっきり寝てる時間じゃねえか。あんたはどうしてこんな時間に歩いてたんだ?」
「魔物がいなさそうなところを探してたのよ」
「なるほど」
そうこうしている間に、完全にホーンラビットは解体され皮と肉に分けられた。
「さて、それじゃあ焼きましょうか」
「……? 火もないのに、どうやって?」
「こうするのよ」
そういうと彼女は不意に何語かわからない言葉を紡ぐ。
そうすると、地面に突如顔ほどの大きさの火の玉が出現した。
「な、なんだこりゃ!?」
「魔法よ。あなたたちの世界にはなかったの?」
ノッテは肉を焼きながら不思議そうに聞いてくる。
「錬金術なら村長から聞いたことがあるけど……実際にはそれも見たことがないからなぁ」
「何分、ずっと小さな村で暮らしてきたもんでね」
「へぇ、いろいろな世界があるものね……ほら、焼けたわよ」
「お。ありがとな」
ソワールは早速肉にかぶりつく。
「うめえ! 魔物だっていうからまずいの想像してたけど、違うんだな。……あ、そういえばさっきからあんたのそばに浮かんでる光も魔法か?」
「ええ、そうよ。魔法ってなかなか便利よ。あなたたちも覚えてみる?」
「え、できるの?」
「私がおぼえてる範囲でよければ教えるわ。できるかどうかはあなたたちしだいだけど。……それより、早く食べないと彼に全部食べられるわよ」
「え!? ちょっとソワール! いただきます!」
ダスクも肉にかぶりつき、そのうまみを味わった。
その後は魔物が来ないかどうか交代で眠りにつき、異世界最初の夜は更けていった。




