重い
田所は仰向けのまま天井を見ていた。
「……倒した?」
エイヤの顔が一気に明るくなる。
「よっしゃ!」
田所は起き上がりながら、笑った。
「一日でここまでやるかよ」
悔しさよりも、面白がっているような声だった。
黒和田が大声で笑った。
「がっはっはっは! まさかプロレス技のSTOとはな!」
エイヤは嬉しそうに田所を見る。
「兄貴がタックルの防ぎ方をアドバイスくれたんです」
「頼もしいセコンドだな」
黒和田が田所に話しかけた。
「田所、お前何kgだ?」
「70くらいです」
「30kgぐらい違う」
エイヤが首を傾げる。
「体重って関係あるんですか?」
「当たり前だ。だから格闘技には階級があるんだ」
黒和田はエイヤの肩を叩いた。
「同じくらいの技術なら、基本的に重い方が有利だ」
「でも俺、昨日ずっと田所さんに倒されてましたよ」
「それだけ技術差があったってことだよ」
田所が笑った。
「100kgに頭押さえられたら、俺だってキツいよ」
黒和田が拳を構えた。
「次は打撃をやるぞ」
エイヤの顔が少し明るくなる。
黒和田がミットを両手にはめた。
「殴ってみろ」
「こう?」
大樹が横で笑っている。
「笑うなよ」
「ごめんごめん」
黒和田がエイヤの左足を軽く蹴った。
「左足前。顎引け」
「はい」
「まず左、打ってみろ」
「はい」
パシッ。
「腕だけで打つな」
エイヤがもう一度構える。
「身体使え。肩も腰も一緒に回せ」
「こう?」
バン!
大きな音がジムに響いた。
「おっ」
黒和田の身体が、わずかに後ろへ押された。
「ほう」
黒和田が笑った。
黒和田がもう一度ミットを構えた。
「じゃあ次。当ててみろ」
エイヤが右を打つ。
「もう一回」
バン!
「もう一回!」
何度もミットを打つ。
しばらくすると、エイヤの肩が上がり始めた。
「ハァ……ハァ……」
「どうした?」
「力が入らない……」
「最初から力みすぎなんだよ」
練習が終わった。
「疲れた……」
エイヤは壁にもたれたまま座り込んでいる。
大樹が近づいてきた。
「エイヤ」
「何?」
大樹の手には、大きな紙袋があった。
「これ持って帰れ」
「何これ?」
エイヤが中を見る。
「うわっ」
大量のDVDが入っていた。
「総合のDVD」
「めちゃくちゃあるじゃん」
「お前、ルールも選手も何も知らないだろ」
「うん」
「これ見て勉強しろよ」
エイヤは大量のDVDが入った紙袋を抱え、ジムを出た。
駅へ向かって歩く。
「疲れた……」
右肩にスポーツバッグ。
左手にはDVDが詰まった紙袋。
「ん?」
エイヤが足を止めた。
道の向こうに小さな建物がある。
入り口の上に書かれていた。
『BOXING GYM』
「ボクシングジム……」
エイヤは少しだけ興味を持った。
今日初めて本格的にパンチを教わったばかりだった。
「ボクシングか……」
エイヤが立ち止まって見ていると、
ジムのドアが開いた。
一人の男が出てくる。
スポーツバッグを肩にかけている。
金髪。
エイヤの表情が止まった。
向こうもエイヤに気づく。
昨日、エイヤを殴ろうとした男だった。
二人が同時に口を開いた。
「あっ!」




