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くるぞ

『赤コーナー、鬼釜悠二選手の入場です!』


 歓声が起こった。

 鬼釜がリングに上がった。

 エイヤとは反対側のコーナーへ向かう。

 リングアナウンサーが中央に立った。


『それでは、オープニングファイト――』


 会場に声が響く。


『青コーナー!』


 エイヤが顔を上げる。


『身長185cm、体重105kg!』


 リングアナウンサーがエイヤへ手を向けた。


『張切エイヤー!』


「うおおおおお!」


 拍手と歓声が起こった。

 エイヤが右手を上げる。

 客席のどこかに、母もいる。

 続いてリングアナウンサーが反対側を向いた。


『赤コーナー!』


 鬼釜が一歩前へ出る。


『身長182cm、体重100kg!』

『鬼釜悠二ー!』


 拍手が起こる。

 鬼釜も右手を上げた。

 エイヤの時より歓声は少ない。

 エイヤは鬼釜を見た。

 鬼釜もエイヤを見ていた。


『両選手、中央へ!』


 二人がリングの中央へ歩いていく。

 レフェリーがルール説明をし終える。


「よろしくお願いします」

「よろしく」


 グローブを合わせて、それぞれのコーナーへ戻る。

 ゴングが鳴った。

 鬼釜が前に出る。

 エイヤも出た。


 バン!


 鬼釜のパンチを腕で受ける。

 エイヤも返すが鬼釜がかわす。


 もう一発。

 今度は鬼釜の拳がエイヤの頬をかすめた。


「速っ……」


 エイヤが距離を取る。

 鬼釜はすぐに追ってくる。


 ジャブからのストレート。

 エイヤも打ち返す。

 簡単には崩れない。


「エイヤ! 落ち着け!」


 黒和田の声が飛ぶ。

 鬼釜が一歩下がった。

 右脚が上がる。


 ハイキック。


 その時だった。


「くるぞ!」


 客席から声が聞こえた。

 聞き覚えのある声だった。

 歓声が途切れた一瞬、その声だけが妙にはっきり聞こえた。


 鬼釜のハイキックをかわす。

 頭に、1通の手紙が浮かんだ。


『鬼釜選手はハイキックの後タックル来るんで狙ってください』


 鬼釜が着地する。

 そのまま身体を低くした。


 タックル。


 エイヤが膝を上げる。


 ドン!


 鬼釜の顔にヒザがクリーンヒットした。

 映像で何度も確認し、何度も練習した光景だった。


「っ!」


 鬼釜がその場に倒れる。


「いけ!」


 エイヤが上から殴る。


 バン!


 もう一発。


 バン!


「ストップ!」


 レフェリーが割って入った。

 試合はあっという間だった。

 エイヤが立ち上がる。


 終わった。


「うおおおおおおお!!」


 会場から歓声が上がった。

 大樹がリングへ入ってくる。


「エイヤ!」


 黒和田。

 田所。

 大樹。

 みんながエイヤに抱きついた。

 客席を見る。

 母が立ち上がって拍手していた。

 レフェリーが右手を上げる。


『勝者、張切エイヤ!』


 会場から割れんばかりの拍手と歓声が起こる。

 そして、新人としては珍しくマイクを渡された。


「えっと……」


 何を話したらいいのか分からない。

 エイヤが客席を見る。


「ファンの皆さん、ジムの関係者、兄貴、母さん、今まで俺のことを信じ続けてくれてありがとうございました」


 拍手が起こる。


「それと」


 エイヤが客席の一角を見る。


「三熊さん、アドバイスありがとうございました」

「え?」


 会場がざわついた。

 大型ビジョンの映像が客席へ切り替わる。

 三熊が映った。


「…………」


 三熊がカメラに気づき両手で顔を隠している。

 周りの観客が笑っている。

 エイヤも涙を拭いながら笑った。


「この後も試合続くんで、楽しんでいってください!」


 マイクを返した。

 無料配信のコメント欄は、一気に流れていた。


『三熊www』

『三熊いたのかよ』

『いたんかい!』

『三熊』

『三熊』

『三熊』


 大会が終わったあとも。

 エイヤの試合動画と、客席に映った三熊の動画は伸び続けていた。

 けれど。

 この日だけは、三熊チャンネルに新しい動画は上がらなかった。

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