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応援

12月に入った。

 FIRE GROUNDまで1か月を切り、エイヤの毎日は、4月とはまるで違っていた。


 ジムで働く。

 練習する。

 水刀と動画を撮る。

 家に帰れば、対戦相手の映像を見る。


「忙しいな……」


 エイヤが笑う。

 4月には、こんな毎日になるなんて考えてもいなかった。

 大学に通って。

 いつかはプロレスラーになるつもりだった。

 それが今は。

 大学を辞めて。

 格闘技ジムで働いて。

 国内最大の団体で試合をすることになっている。

 スマホの画面には、鬼釜悠二の試合映像が流れていた。


 パンチ。

 タックル。

 寝技。

 どこでも戦っている。

 黒和田が隣から画面を見る。


「穴がないな」

「はい」

「プロの世界には、こういう選手が普通にいる」


 エイヤはもう一度、画面を見る。


「すごいところに出るんですね」

「がっはっはっは!」


 黒和田が笑った。

 練習が終わったあと。


「エイヤ」


 田所が呼んだ。


「これ」


 両手に封筒を抱えている。


「何ですか?」

「エイヤくん宛て」

「俺?」


 ジムのポストには、エイヤ宛ての手紙が何通も届くようになっていた。


『いつも応援しています』

『逆エビ固めを見てファンになりました』

『チケット買いました』


 応援だけではなかった。


『鬼釜選手はハイキックの後タックル来るんで狙ってください』

『お前じゃまだ早い』

『どうせ負けるんだろ?』


「有名人は大変だな」


 大樹が横から覗く。


「すごいな……」


 エイヤは笑った。


 その日の夜。

 家に帰ると、母が夕飯を作っていた。


「ただいま」

「おかえり」


 エイヤは少し迷ってから声をかけた。


「母さん」

「ん?」

「年末の試合なんだけど」

「うん」

「見に来ない?」


 母の手が止まった。


「12月31日」

「知ってるよ」

「知ってるの?」

「動画見てるもん」


 母は少し考えた。


「前は行かないって言ったけどさ」

「うん」

「息子の晴れ舞台を見れないと、一生後悔しそうだから」


 エイヤが母を見る。


「行こうかな」

「本当?」

「うん」

「チケット用意してよ?」

「うん」

「大樹に迎えにきてもらおっかな」

「言っとくよ」


 母が笑った。

 エイヤも笑った。

 自分が殴られるところを見せるのは嫌だった。

 負けるところも。

 母親の悲しそうな顔は、見たくない。

 それでも。

 今回は来てほしかった。

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