バレないで
10月31日が近づいていた。
商店街では、ハロウィンイベントが開かれ、仮装した人たちの写真や動画が、SNSにも流れている。
水刀がスマホを見ながら言った。
「俺たちも行ってみない?」
「俺、バレるだろ」
エイヤが答える。
「最近ちょっと顔知られてるし」
「じゃあ、これ」
水刀が袋を持ち上げた。
「何それ?」
「ジムにあった古いバンテージ」
けい太が袋の中を見る。
「これ巻くの?」
「ミイラ男」
「ダサくない?」
「バレなきゃいいんだよ」
水刀が笑った。
「ついでに企画にしちゃうか」
「企画?」
「『ハロウィンで張切エイヤがミイラ男になったら気付かれるか』」
「それ面白そう」
「じゃあ決まり」
三人でバンテージを巻き始めた。
「ちょっと待って、きつい」
「動くなよ」
「顔どこまで巻くの?」
「目だけ出しとけばいいだろ」
「怖いって」
しばらくして。
鏡の前に、三人のミイラ男が並んでいた。
「誰が誰か分かんないな」
「成功じゃん」
夜。
商店街には仮装した人たちがあふれていた。
魔女。
ゾンビ。
吸血鬼。
その中を、三人のミイラ男が歩いていく。
水刀が少し離れたところからカメラを回していた。
「エイヤ、普通に歩いて」
「普通って何?」
「ミイラっぽくしなくていい」
「じゃあこれ何のためなの?」
「バレないため」
何人かとすれ違う。
振り返る人はいる。
でも、誰もエイヤだとは気づかなかった。
「全然バレないじゃん」
「これならいけるな」
その時。
けい太が急に立ち止まった。
「やべ」
「何?」
けい太の視線の先を見る。
金髪の女の子が歩いていた。
麗花だった。
隣には、知らない男。
楽しそうに話している。
麗花は三人の前を通り過ぎていった。
気づかない。
けい太が少しだけ振り返った。
「あっち行こう」
「うん」
エイヤも何も聞かなかった。
しばらくして撮影は終わった。
「じゃあ編集しとくんで」
水刀が手を上げる。
「よろしく」
「お疲れ」
水刀は駅の方へ歩いていった。
エイヤとけい太はジムへ戻った。
「もうちょっと練習してく?」
エイヤが聞く。
「いいけど」
「今日は俺がミット持つよ」
「お前が?」
「うん」
エイヤがミットをつける。
けい太が構えた。
「いくぞ」
「来い」
バン!
「うわっ!」
エイヤの腕が大きく揺れた。
けい太が笑う。
「何その顔」
「いや、強っ」
「今さら?」
「ちゃんと受けたの初めてだから」
「じゃあもう一発」
けい太が笑った。
エイヤも笑った。
もう一度、ミットを構えた。




