勝ち負け
次の日。
目を覚ますと、全身が痛かった。
「いてて……」
起き上がろうとすると、背中も脚も腕も痛い。
昨日の試合のダメージが残っていた。
この日はジムも休みだった。
エイヤは家でゆっくりすることにした。
スマホを見る。
「あ」
昨日の夜中に三熊チャンネルの新しい動画が上がっていた。
『応援してくださった皆様』
三熊がカメラの前に座っている。
いつもより静かな表情だった。
『張切エイヤさん、そしてその関係者の皆さん』
『この度は本当に申し訳ございませんでした』
三熊が深々と頭を下げた。
「…………」
エイヤが画面を見る。
三熊が顔を上げる。
『なんて言うわけねーじゃん!』
「は?」
『俺が盛り上げてやったんだよ』
『俺のおかげだろ?』
三熊が笑う。
『あいつ、昨日俺の控室に来て、あれは許せないですって』
『動画で言えよ! プロレスだろ?』
『客を楽しませてナンボだろ? なにムキになってんだよ』
「…………」
『今回、私は負けました』
三熊が少し間を置いた。
『でも、プロとしては勝ちました』
『張切さんとは今後もう一切関わりません』
『プロレスが下手だから』
動画が終わった。
エイヤはしばらく画面を見てスマホを伏せた。
しばらくすると、また鳴った。
水刀からだった。
『今日撮影できる?』
エイヤは返信する。
『できるよ』
午後。
水刀の部屋。
「昨日すごかったな」
「ありがとう」
「コメントもめちゃくちゃ来てるよ」
エイヤは少し考えた。
「応援してくれた人に、お礼言いたい」
「それいいね」
水刀がカメラを置く。
「じゃあいくよ」
「うん」
撮影が始まった。
『昨日は応援ありがとうございました』
『会場で応援してくれた人も、動画を見てくれた人も、本当にありがとうございました』
『もっと強くなれるように頑張ります』
『これからもよろしくお願いします』
「はい、オッケー」
「こんな感じでいい?」
「いいと思う」
その日の夜。
動画が公開された。
再生数が伸びていく。
エイヤは昨日の試合動画も何度も見返した。
三熊の組みつき。
自分が倒された場面。
ブリッジで返した場面。
最後の右ストレート。
「…………」
再生数はまだ伸びていた。
コメント欄を開く。
『三熊また動画出してるぞ』
『三熊めちゃくちゃ言ってて草』
『三熊は結局何がしたいんだ』
『エイヤ、もう三熊に関わらない方がいい』
『三熊との再戦ある?』
下へ送る。
また三熊。
その下も三熊。
試合に勝ったのに。
コメントのほとんどは、三熊のことだった。




