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教えてもらったこと

ゴングが鳴った。

 三熊が一気に距離を詰めてくる。


「来た!」


 三熊が身体を低くし、そのまま組みつこうとしてくる。

 エイヤは頭を押さえながら距離を取った。

 三熊が離れる。

 エイヤは三熊の左足を見る。


『練習中に左足首をやっちゃって』


 三熊がジムに来た日の言葉。

 試合が決まってから三熊の試合映像は見ていた。

 映像通りの前重心だった。

 エイヤが左足を蹴る。


 バシッ!


「っ!」


 三熊が少し嫌がった。

 もう一度。

 今度は左のふくらはぎ。


 バシッ!


 三熊の身体が少し揺れる。


「いいぞ!」


 黒和田の声が聞こえた。


「いい距離で戦ってるぞ!」


 三熊が再び組みつこうとする。

 エイヤは頭を押さえる。

 身体を離す。

 三熊がパンチを出す。

 エイヤがかわす。

 三熊の身体がそのまま回った。


「え?」


 バシッ!


「うっ!」


 裏拳がエイヤの顔に当たった。

 身体が一瞬止まる。

 三熊がそのまま組みついた。


「しまった!」


 そのままコーナーまで押し込まれる。

 三熊が身体を密着させる。

 エイヤは身体を押し返そうとするが動かない。

 三熊の左足が目の前にあった。

 エイヤが拳を握る。


 バン!


 左のふくらはぎを殴った。


「っ!」


 もう一発。


 バン!


「何してんだ?」


 客席がざわつく。


「足殴ってるぞ!」


 田所が身を乗り出した。


「効いてる!」


 三熊が身体をずらす。

 その瞬間。

 エイヤのバランスが崩れた。


「うわっ!」


 倒された。

 三熊がすぐに上に乗ろうとする。


「エイヤ!」


 三熊の身体が腹の上に来る。


「…………!」


 三熊がエイヤの右腕を抱えた。

 田所が気づいた。


「十字くるぞ!」


 エイヤが腕を引く。

 三熊がさらに体重をかけてくる。


『まず足で相手のお尻を持ち上げる』


 エイヤが足を動かす。

 三熊の腰が少し浮いた。


『そう。バランス崩してブリッジ!』


 エイヤが一気に腰を上げる。

 三熊の身体が傾く。

 そのまま身体をひねった。


 ゴロン!


「おおっ!」


 客席から声が上がる。

 エイヤが三熊から離れたが、三熊は追ってこなかった。

 マットの上に寝転んだまま。

 エイヤに向かって手招きする。

 エイヤは首を横に振った。

 三熊が笑う。

 エイヤが一気に近づいた。

 三熊の左足をつかむ。


 バン!


 ふくらはぎを殴る。


「っ!」


 三熊が足を引く。

 エイヤはすぐに離れた。


 カーン!


 1R終了のゴングが鳴った。

 観客から拍手が起こった。

 両者コーナーへ戻る。

 大樹が水を渡す。


「いいぞ」


 黒和田がエイヤを見る。


「左足、嫌がってるな」

「はい」


 田所も言った。


「寝技は付き合わなくていいよ」

「はい」


 カーン!


 2R。

 三熊が開始と同時に突っ込んできた。

 エイヤが頭を押さえる。

 三熊が身体を振る。

 組みつこうとする。

 離れる。

 三熊の息が荒い。

 肩が大きく上下していた。


「疲れてる……」


 左足へ蹴りを出す。

 三熊がすぐに足を引く。

 左足に意識がいっている。

 エイヤが蹴るように右足を動かす。

 三熊がすぐに左足を引く。


「やっぱり」


『当たる瞬間にだけ力を入れる』


 けい太の声が頭に浮かんだ。


 もう一度、左足を蹴るように身体を動かす。

 三熊が左足を引いた。

 エイヤは蹴らない。

 踏み込む。

 右ストレート。


 バン!


 三熊の顔に入り後ろへ倒れる。


 ドン!


「うおおおおおおお!!」


 会場が揺れた。


「エイヤ!」


 エイヤが一気に上から殴りかかる。


 バン!


 もう一発。

 その瞬間。


「ストップ!」


 レフェリーがエイヤの身体をつかんだ。


「え?」

「ストップ!」


 エイヤが手を止める。

 三熊を見る。

 マットに倒れたままだった。

 会場から大歓声が上がる。


「うおおおおお!」


 エイヤは立ち上がった。

 自分の拳を見る。

 けい太に教わったパンチだった。

 レフェリーがエイヤの右手を上げる。


『勝者、張切エイヤ!』



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