ファン
10月18日、試合当日。
目を覚ましたエイヤは、ベッドの横に置いたスマホを手に取った。
電源を入れる。
ピコン。
ピコン。
ピコン。
「うわ……」
通知が一気に届いた。
メッセージ。
動画へのコメント。
知らない人からの応援。
エイヤは自分のチャンネルを開いた。
『逆エビの試合を見てファンになりました!』
『今日の試合頑張ってください!』
『絶対勝ってください!』
『当日は仕事休んで試合見に行きます!』
『三熊に負けるな!』
エイヤが少し笑った。
コメントを下へ送る。
まだ続いている。
『エイヤの試合面白い』
『次は何やるのか楽しみ』
『ずっと応援してます』
今まで数字でしか見ていなかった。
再生回数。
登録者数。
コメント数。
でも。
その一つ一つの向こうに、人がいる。
「俺にファンいるんだ……」
ピコン。
メッセージが届いた。
けい太だった。
『試合頑張れ!絶対勝てよ!』
エイヤはしばらく画面を見る。
すぐに返信した。
『ありがとう!絶対勝つ!』
けい太からは一言だけだった。
それでも。
エイヤは少し安心した。
ホテルを出る。
会場へ向かった。
昨日見た大きな建物が近づいてくる。
昨日とは違って見えた。
会場に入る。
すでに客席から歓声が聞こえていた。
「始まってる……」
控室へ向かう途中。
モニターを見る。
1試合目から激しい攻防が続いていた。
パンチが当たるたびに歓声が上がる。
タックルが決まる。
観客が立ち上がる。
一本が決まる。
会場が揺れる。
試合が進んでいく。
控室で身体を動かすエイヤ。
ミットを打つ。
身体を温める。
大樹がミットを持っていた。
「調子どう?」
「いいよ」
「緊張してる?」
「ちょっと」
黒和田が近づいてくる。
「エイヤ」
「はい」
「そろそろだぞ」
「はい!」
グローブを確認する。
深く息を吸った。
会場から大きな歓声が聞こえる。
前の試合が終わった。
スタッフが控室に入ってきた。
「張切選手、お願いします!」
「はい!」
立ち上がる。
通路へ向かう。
暗い通路の先に光が見える。
場内アナウンスが響いた。
『青コーナーより——』
エイヤが前を見る。
『張切エイヤ選手の入場です!』
「うおおおおおおおおお!!」
「エイヤー!」
「頑張れー!」
エイヤが驚いて客席を見る。
今まで聞いたことのないような声援だった。
息を大きく吸って吐き出す。
リングへ向かう。
リングに上がる。
客席を見渡した。
「エイヤー!」
「絶対勝てよー!」
続いて。
『赤コーナーより——』
会場の空気が変わる。
『ビッグバン三熊選手の入場です!』
「ブーーーーー!!」
ものすごいブーイングだった。
三熊がブツブツ何か言いながら入場してくる。
ブーイングを浴びながら、両手を広げた。
むしろ楽しんでいるように見えた。
三熊がリングへ上がる。
エイヤを見る。
さっきまで笑っていた顔が変わった。
エイヤも三熊を見る。
二人がリング中央へ呼ばれる。
向かい合う。
客席から、
「エイヤー!」
「三熊ー!」
声が飛ぶ。
三熊が小さく笑った。
エイヤは目を逸らさなかった。
会場の熱は、最高潮に達していた。




