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おかしい

10月17日。

 試合前日。

 エイヤたちは会場に到着した。


「でか……」


 エイヤが建物を見上げる。

 今まで試合をした会場とは、まるで違った。


「ここでやるんですか?」

「そうだ」


 黒和田が答える。


「明日の試合、かなり注目されてるみたいだからな」

「そうなんですか?」

「メインの一つ前に試合が組まれてるからな」


 エイヤがもう一度会場を見る。


「チケットも完売したらしい」

「マジっすか……」


 中へ入る。


 関係者。

 選手。

 スタッフ。

 カメラを持った人たち。

 今までとは違う空気だった。


「三熊さんに会うの気まずいっすね」

「向こうもだろう」

「あいつを見たら殴っちゃいそうです」

「がっはっはっは!」


 黒和田が笑う。


「明日まで我慢しろ」

「はい」


 エイヤも笑った。


「でも、どんな感じで来るんですかね」

「三熊か?」

「はい」

「分からんな」


 計量が始まった。

 次々と選手が体重計に乗っていく。

 名前が呼ばれる。

 エイヤの番が来た。

 体重計に乗る。


「100.4キロ!」


 スタッフの声が響く。

 エイヤが体重計を降りる。


「よし」


 黒和田がうなずいた。

 エイヤは辺りを見渡した。


「あれ? 三熊さんは?」

「まだ来てないな」


 しばらく待った。

 他の選手の計量が終わっていく。

 それでも。

 三熊は来なかった。


「遅いですね」

「ああ」


 会場が少しざわつき始める。


「三熊慎吾選手!」


 名前が呼ばれる。

 返事はない。

 もう一度呼ばれる。


「三熊慎吾選手!」


「…………」


 誰も出てこなかった。

 スタッフたちも慌ただしく連絡を取り合っていた。


 結局。

 三熊は計量会場に姿を現さなかった。


「何してんだよ、あいつ……」


 大樹が呆れたように言った。


「なんかあったんじゃない?」


 エイヤが聞く。


「でも来てもらわんと困る」


 黒和田が答えた。

 少しして、黒和田のスマホが鳴った。


「主催からだ」


 電話を切り、黒和田がエイヤを見る。


「試合は予定通りやるってよ」

「計量に来てないのにですか?」

「明日の朝に計量させるそうだ。アマチュアの特別マッチだし、スポンサーも入ってる。今さら中止にする方が面倒らしい」

「じゃあ、三熊さんと試合できるんですね」

「ああ」

「よかった」


 その日の夜。

 ホテル。


 ピコン。


 エイヤのスマホに通知が届いた。


『三熊チャンネル 新しい動画が公開されました』


 エイヤが動画を開く。

 三熊が笑顔でカメラに向かっていた。


『みなさん、試合前の計量お疲れ様でした!』

『実は私、計量には行ってません!』

『私、ヘビー級ですので計量しなくてもいいんですよ』

『だって、おかしくない?』

『100キロ以上ありますよ?』

『計量する必要あるんですか?』


 エイヤが黙って画面を見る。


『まあ、そんなことより』


 三熊がカメラに顔を近づける。


『明日、張切エイヤが逆エビされてるところを楽しみにしておいてください』

『おい、張切!』

『お前の負ける姿を晒してやるよ!』


 動画が終わった。

 エイヤはしばらく画面を見ていた。

 そして。

 スマホの電源を切った。

 ベッドに置く。


「寝よ」


 布団をかぶった。

 明日やっと試合ができる。

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