秘密
しばらくして、雑居ビルの2階についた。
中から、ミットを叩く乾いた音が聞こえてくる。
何人もの男女が練習していた。
サンドバッグを打つ者。ミットを持つ者。床で組み合っている者。
エイヤはゆっくり中へ入る。
思っていたより、小柄な人が多い。
その奥で、175cmほどの男がスパーリングをしていた。
男が立ち上がり、こちらを向いた。
「…………」
エイヤの表情が止まった。
見間違えるはずがない。
「……兄貴?」
男も固まった。
張切大樹。
3歳上の兄だった。
「……エイヤ?」
エイヤが近づく。
「何してんの?」
「見りゃ分かるじゃん」
「分かるけど、いつからやってんの?」
「2年くらい前」
「母さんは知ってる?」
「言ってない」
「なんで?」
「なんとなく」
大樹はグローブを外した。
そしてエイヤの足元を見る。
「ていうか、お前なんでスリッパなんだよ」
「なんとなく」
大樹が笑った。
エイヤは兄の腕を見る。
筋肉質な前腕に、白い塗料がところどころ残っている。
「仕事帰り?」
「うん」
大樹は再びグローブをはめる。
「仕事終わってから来てんの?」
「来れる日は来てる」
「そんなに格闘技好きだったの?」
「……まあね」
大樹はグローブのマジックテープを締めた。
「母さん一人で俺たち育てて、生活が苦しかったじゃん」
「うん」
「有名になれば稼げるだろ」
「お前ら、本当に兄弟だったんだな」
横から黒和田が入ってきた。
黒和田は二人を見比べる。
「全然サイズ違うじゃねえか」
175cmほどの大樹。
185cm、100kgほどのエイヤ。
「兄弟で、なんでこんなサイズ違うんだよ」
「知りませんよ」
黒和田はエイヤを見上げた。
「お前、本当に100kgあるんだよな?」
「ありますよ」
「ちょっと来い」
黒和田がジムの中央へ歩いていく。
そこでは一人の男が練習を終え、水を飲んでいた。
エイヤより頭ひとつ以上小さい。
「田所」
「はい?」
「ちょっとこいつと組んでみろ」
田所が飲んでいた水を置いた。
「いいんですか?」
「いいよ」
エイヤはスーツの上着を脱いだ。
破れたズボンの尻を見た大樹が眉をひそめる。
「……お前、本当に何があったんだよ」




