今日だけは
「あの野郎、めちゃくちゃだ」
田所がスマホを見ながら言った。
黒和田が椅子にもたれる。
「うちはきつい中、経営してるっていうのに……」
エイヤは黙ってコメント欄を見ていた。
『ジムたためよ』
『黒和田っていう人?』
『彼女がかわいそう』
エイヤはスマホを伏せた。
ピンポーン。
「…………」
全員が入口を見る。
一瞬、ジムの中に緊張が走った。
「僕、出ます」
田所が立ち上がる。
「気をつけろよ」
黒和田が言った。
田所がゆっくり扉へ近づく。
「はい」
「お寿司持ってきました」
「え?」
田所が振り返る。
「あっ」
黒和田が思い出した。
「そういえば、エイヤを祝うために注文したんだった」
「寿司ですか?」
田所が扉を開ける。
外国人の配達員が立っていた。
「ありがとうございます」
寿司を受け取る。
扉を閉める。
「びっくりした……」
田所が息を吐いた。
「電話線、抜いとくか」
黒和田が電話線を抜いた。
しばらくして。
ピンポーン。
再び田所が入口を見る。
慎重に扉を開ける。
「おー、大樹君」
「お疲れ様です」
大樹が仕事を終えてやってきた。
手にはコンビニの袋を持っている。
「酒とつまみ買ってきました」
「おう」
「なんかあった?」
誰もすぐには答えなかった。
「後で話すよ」
田所がテーブルに寿司を置く。
「さぁ! とりあえず食べよう」
「今日はお祝いだからな」
黒和田が言った。
エイヤが寿司を見る。
4人がテーブルを囲んだ。
エイヤはお茶を持つ。
ほかの3人はビールだった。
黒和田が口を開いた。
「エイヤの初勝利を祝って乾杯!」
「乾杯!」
「いただきます!」
みんなが箸を取った。
エイヤが寿司を一つ口に入れる。
うまい。
でも。
心の底から、笑えなかった。




