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嘘つき

「三熊チャンネルで話されてることなんですけど」

「ちょっと、なんのことか分からないです」

「三熊チャンネル、ご存じないですか?」

「知らないです」

「そうですか。張切さんと親しい女性だと動画では——」

「いや、そのチャンネルのことも知らないし、何も言えないです」


 エイヤは電話を切った。


「なんだった?」


 黒和田が聞く。


「なんか、ジムに通ってた女の人のこと聞かれました」

「女?」

「三熊チャンネルで話されてるとか」

「三熊チャンネル?」


 田所が振り返った。

 黒和田が眉をひそめる。


「三熊のやつ、そういうの始めたのか?」

「調べてみます」


 エイヤがスマホを取り出した。


『三熊チャンネル』


 検索する。


「あった」

「本当にやってんの?」


 田所がエイヤの横から画面を見る。

 動画が何本も並んでいた。

 格闘技の試合について話す動画。

 選手について話す動画。

 ジムについて話す動画。


「あいつ、こんなことやってたんだ」

「知らなかったな」


 エイヤが画面をスクロールする。


「…………」


 指が止まった。


「え?」

「どうした?」


 田所が画面を見る。

 そこには、エイヤの試合写真が使われていた。

 大きな文字が書かれている。


『今話題の逆エビファイターの彼女がヤバすぎる』


 エイヤは画面を見つめた。


「なんだよこれ」


 エイヤが動画を開く。


「え?」


 再生回数を見る。


「すご……」


 エイヤの試合動画よりも数字が大きかった。


「俺の試合より回ってますね」

「マジかよ」


 田所が横から画面を覗く。

 動画を再生する。

 三熊がカメラの前に座っていた。


『どうも、三熊です』

『今、格闘技界で話題になってますよね』


 画面にエイヤの試合写真が映る。


『逆エビ固めで勝った選手』

『今回は、この選手が通っているジムについて話したいと思います』


 黒和田の顔が険しくなる。


『僕も以前、あのジムに通っていました』

『だから分かるんですけど』


 三熊が少し間を空ける。


『あのジム、ひどいんですよ』


「は?」


 田所が画面を見る。


『特に女性の会員に対して、かなりキツいことを言うんです』

『今回話題になってる張切選手と仲のいい女性もいるんですけど』


 エイヤの表情が変わる。


『その子も、いろいろ言われ続けて病んじゃって』

『入院までして、しばらくジムに来れなくなってたんですよ』


 エイヤが画面を見つめる。


『自分もあのジムに通ってましたけど』

『あんだけ言われ続けたら、そりゃ行きたくなくなりますよ』


 三熊がカメラを見る。


『ふざけんなって話ですよ』


 黒和田は黙っていた。


『それだけじゃなくてですね』

『試合に出る予定だった選手が出れなくなったら』

『今度は大学生捕まえて、いきなり試合させて』

『ふざけんなですよ』

『格闘技始めたばっかりの子ですよ?』

『それを3週間で試合に出すって』

『大会を成立させるためですよ?』

『普通じゃないでしょ』


 田所が黒和田を見る。


『しかも、その大学生を今度はジムで働かせて』

『低賃金で働かせてるんですよ』


 エイヤも黙っていた。


『本当ふざけんなですよ』


 三熊の声が少しずつ大きくなる。


『会員には厳しい』

『選手には無茶させる』

『若い子は安く使う』

『なのに』


 三熊がカメラに顔を近づける。


『自分だけいい生活してるんですよ』


 三熊が机を叩く。


『ふざけんじゃねーよ!』

『ということで、今回は格闘技業界の闇についてお話ししました』


 動画が終わった。


「…………」


 エイヤがスマホを見る。

 動画の下には、コメントが何千件もついていた。

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