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違い

 大樹のスマホには、1人の男が映っていた。


「次のお前の対戦相手」

「曽良《そら》?」

「そう」

「映像あったの?」

「やっと見つけた」


 エイヤはスマホを受け取った。

 画面の中では、曽良が試合をしていた。

 大きく右を振る。

 相手が下がる。

 さらに前へ出て、左右のパンチを振り回す。


「どう?」

「なんか……」

「ん?」

「喧嘩みたい」


 大樹が笑った。


「まあ、分からなくもない」


 曽良が再び大きな右を振った。

 パンチは外れたが、そのまま前へ出る。


「綺麗なパンチじゃないね」

「打撃が好きなんだろうな」


 映像が終わる。


「打撃中心の選手だね」

「この映像だけなら、そう見えるな」


 エイヤはもう一度再生した。

 曽良のパンチを見る。


「初心者っぽい」

「相手もお前のことそう思ってるかもな」

「確かに」


 次の日。

 エイヤはけい太のボクシングジムを訪れていた。


「これ見て」

「何?」

「次の対戦相手」


 けい太がスマホを見る。

 曽良が大きくパンチを振る。


「ふーん」

「どう?」

「どうって?」

「パンチ」


 けい太がもう一度映像を見る。


「上手くはない」

「だよね」

「でも」


 けい太が動画を止めた。


「こういう素人のパンチが危ないんだよ」

「え?」

「綺麗なパンチなら、ある程度どこから来るか分かるだろ」

「うん」

「こういうのは変なところから飛んでくるから」

「危険っちゃ危険かぁ」

「別にパンチに付き合わなくてもいいじゃん」


 エイヤが画面を見る。

 けい太が笑った。


「お前は蹴りとか使えるもん全部使えよ」

「うん」

「パンチ教えてる俺が言うのもなんだけど」


 二人が笑った。


「ほら、やるぞ」

「はい」


 エイヤが構える。


「ジャブ」


 パン。


「ジャブ」


 パン!


 何度も繰り返す。

 練習が終わる頃。


「そういえば」

「何?」

「試合、俺も応援に行くから」

「本当?」

「うん」

「ありがとう」

「負けんなよ」

「勝つよ」


 けい太が笑った。


 それからもエイヤは練習を続けた。

 何度も曽良の映像を見た。

 シャドーでは曽良を思い浮かべた。

 大きく振る右。

 前へ出ながらのパンチ。


 そして。

 試合前日の計量会場。


「張切エイヤ選手」

「はい!」


 エイヤが体重計に乗る。

 計量を終え、降りる。

 少し離れたところに、対戦相手がいた。

 曽良だった。

 画面で何度も見た相手。

 実際に目の前で見るのは初めてだった。

 曽良もエイヤを見る。

 二人が向かい合った。

 だが。

 前の試合ほど不安はなかった。

 身長も。

 体重も。

 自分とほとんど変わらない。


「よろしくお願いします」


 曽良が頭を下げる。


「よろしくお願いします」


 エイヤも頭を下げた。

 顔を上げる。


 前回。

 地場を目の前にした時は、身体の大きさだけで不安になった。

 何をされるのかも分からなかった。

 今回は違う。

 相手がどんなパンチを打つのか。

 何を狙ってくるのか。

 少しだけ分かっている。

 エイヤは曽良をまっすぐ見た。

 怖くなかった。


 明日。

 千夏も来る。

 水刀も。

 けい太も。

 エイヤは少し笑った。

 エイヤは試合がしたくてたまらなかった。

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