かっこいい男
数日後。
エイヤはジムでサンドバッグを叩いていた。
パン。
パン。
バン!
「こんにちは」
入口から声がした。
エイヤが振り返る。
「あ、千夏さん」
「こんにちは」
「こんにちは」
千夏は荷物を置いた。
「この前はありがとうございました」
「いえ」
「楽しかったです」
「勝ってよかったですよね」
「本当に。1ラウンドはちょっと怖かったけど」
「俺も負けるかと思いました」
千夏が笑った。
「そういえば」
「はい?」
「この前、迎えに来てた人は彼氏さんですか?」
「いえ、お兄ちゃんです」
「お兄さんだったんですか」
「はい」
「めちゃくちゃイケメンですね」
「本当ですか?」
エイヤはサンドバッグの方を向いた。
「送迎してくれて優しいですね」
「はい、実はこのジムを教えてくれたのも兄なんですよ」
「そうなんですか?」
「はい」
千夏がストレッチを始める。
「私、家にいる時間が多くて」
「……」
「そんな時に兄が、何か身体を動かした方がいいんじゃないかって」
「それで格闘技?」
「兄が格闘技好きなんです」
「なるほど」
「最初は嫌だったんですけどね」
「嫌だったんですか?」
「怖そうじゃないですか」
「まあ、分かります」
「でも来てみたら楽しくて」
千夏が笑った。
「三熊さんとか田所さんも優しかったし」
「そうですね」
「だから結構続いてたんです」
「半年休んでたのに、あれだけ動けるのすごいですよ」
「ありがとうございます」
千夏が立ち上がる。
「今日もお願いします」
「はい」
エイヤはミットを手に取った。
しばらく練習したあと。
千夏が水を飲みながら言った。
「そういえば、エイヤさんの試合って来月でしたよね?」
「はい」
「絶対行きますからね」
「本当ですか?」
「行くって約束したじゃないですか」
「あ、そうだ」
エイヤは2枚のチケットを千夏に渡した。
「よかったらお兄さんと来てください」
「わー嬉しい! ありがとうございます」
千夏が笑う。
「楽しみにしてます」
「絶対勝ちます!」
エイヤはミットを構えた。
「続きやりましょう」
「はい」
千夏が帰ったあと。
エイヤはサンドバッグを相手にパンチの練習を続けていた。
「エイヤ」
黒和田が声をかける。
「はい?」
「最近やけに気合い入ってんな」
「そうですか?」
「そうだよ」
大樹も横から言った。
「気合い入れすぎて怪我すんなよ」
「うん」
「試合前が一番怪我しやすいからな」
「了解」
エイヤは再びサンドバッグの前に立った。
「もうちょっとやって帰る」
大樹がエイヤを見る。
「あんまり無理すんなよ」
パン。
パン。
バン!
千夏が試合を見に来る。
エイヤはそれを思い出した。
負けたくなかった。
「かっこいいところ見せたいな……」
「エイヤ!」
大樹がスマホを持って近づいてきた。
エイヤが画面を見る。
「これって……」




