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教えて

大学に退学届を出してから、数日がたった。


 けい太の試合を見たあの日から。

 エイヤは、ボクシングが少し気になっていた。


 エイヤはスマホを取り出す。

 けい太とのトーク画面を開く。


『今度ボクシング教えて』


 送信。


 少しして返信が来た。


『いいよ』


 続けてメッセージが来る。


『一回見学に来いよ』

『いつ? 今日でもいい?』

『いいよ』

『ありがとう!』


 OKのスタンプが来た。


 エイヤは、けい太の通うボクシングジムへ向かった。

 以前、けい太と再会した場所。

 あの時は外から見ただけだった。


「こんにちは」


 ドアを開ける。


「お!」


 けい太がいた。


「本当に来たんだ」

「来いって言ったじゃん」

「まあね」


 エイヤはジムの中を見回した。

 リング。

 サンドバッグ。

 鏡の前でシャドーボクシングをしている人。

 縄跳びをしている人。


「うちのジムと全然違うな」

「そりゃボクシングジムだからな」

「蹴ってる人いないし」

「いたら怒られるわ」


 けい太が笑った。


「ちょっと待ってて」

「うん」


 けい太が奥のトレーナーに声をかけた。


「大丈夫だって」

「俺も練習していいの?」

「総合やってることも伝えた」

「ありがとう」

「しばらく俺が見てやるよ」

「お願いします」

「じゃあ、このグローブつけて」


 エイヤがグローブをつけた。


「とりあえず構えて」

「うん」


 エイヤが拳を上げる。

 けい太がエイヤを見る。


「右ストレート」


 エイヤが右を出す。

 けい太がエイヤの左手を叩いた。


「打ってる反対の手はガードする」


 エイヤがもう一度構える。


「こう?」

「そう」

「難しいな」


 けい太がミットを構えた。


「まずジャブ」

「はい」


 パシッ。


「打ったらすぐ戻す」


 パシッ。


「顔空けんな」

「はい」


 パシッ。


「足止まってる」

「はい」

「はい、もう一回」


 パシッ。


「もう一回」


 パシッ。


「もう一回」

「結構厳しいね」

「帰る?」

「いや」


 けい太が笑った。

 エイヤも構え直す。

 何度もジャブを出す。


 打つ。

 戻す。

 動く。

 また打つ。


 パシッ。


 その日から。

 エイヤは時間を見つけて、ボクシングジムにも通うようになった。


 KUROWADA FIGHT GYM。


 エイヤがサンドバッグを叩いていた。


「エイヤ!」


 黒和田だった。


「最近、パンチがサマになってきたな」

「最近、ボクシングジムにも通ってるんで」

「ボクシング始めたんか」

「はい」

「出稽古まで始めるとはな」

「出稽古?」

「他のジムで練習することだよ」


 黒和田が笑った。


「いろんな奴に教わるのはいいことだ」

「総合にも役立ちますかね」

「総合だからな。パンチも上達せんとな」

「そうっすね」

「がっはっはっは!」


 黒和田が笑った。


「まあ、しっかり勉強してこい」

「はい!」


 それから数日後。

 エイヤはいつものようにジムで働いていた。


「エイヤ、これ片付けといて!」

「はい!」


 ミットを棚へ戻す。

 使い終わったグローブを片付ける。

 マットにモップをかける。


 少し前まで。

 ここで練習するだけだった。

 今は働いて。

 自分の練習をして。

 ボクシングジムにも通っている。


「忙しいな……」


 モップを動かす。

 その時。

 ジムの扉が開いた。


「すみません」

「はい?」


 エイヤが振り返った。

 若い女性が立っていた。

 女性は少しだけジムの中を見回した。

 そしてエイヤを見る。


「三熊さんいらっしゃいますか?」

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