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おめでとう

試合を見てなんだか体を動かしたくなっていた。

 帰り道、けい太に言われた通りシャドーボクシングをしてみる。


「シュッ、シュッ」


 パンチを出す。

 避ける。

 横に動く。

 しばらくすると、動きが止まった。


「…………」


 デパートの前で、エイヤが足を止めた。

 少し迷って中へ入る。


 服。

 財布。

 カバン。


 しばらく店の中を歩く。

 ある売り場で、足を止めた。

 商品をひとつ手に取る。


「これでいいか」


 エイヤはそれを持ってレジへ向かった。


「ただいま」


「おかえり」


 母親がキッチンにいた。


「母さん」


「何?」


「これ」


 エイヤが紙袋を渡す。


「なにこれ?」


「開けて」


「…………?」


 母親が袋を開ける。


「あ……」


 中からエプロンを取り出した。


「これ、私に?」

「うん」

「どうしたの?」


 エイヤは少し目をそらした。


「お誕生日おめでとう」


 母親がエプロンを見る。

 エイヤを見る。


「ありがとう」

「うん」

「エイヤが買ってくれたの?」

「バイトの給料で」

「…………」


 母親が少し笑った。


「嬉しい!」


「よかった」


「大事に使うね」


「使って」


 母親はエプロンを着た。


「どう? 似合う?」


「うん」


 その夜。

 エイヤはベッドに寝転がっていた。


「…………」


 けい太の試合を思い出す。


 ジャブ。

 距離。

 フェイント。

 相手のパンチを避ける動き。

 そして、帰り道にやったシャドーボクシング。

 エイヤはベッドから起き上がった。


「シュッ、シュッ」


 パンチを出す。

 避ける。

 動く。


 しばらくすると、スマホが鳴った。


「ん?」


 画面を見る。

 黒和田だった。


「もしもし」


『エイヤ!』


「はい?」


『次の試合が決まったぞ』

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