お金
朝。
「おはよう」
エイヤがリビングへ入る。
母親は朝食の準備をしながら振り返った。
「おはよう」
何気なく母親の方を見る。
髪に白いものが混じっている。
「母さん」
「何?」
「白髪増えた?」
「増えたよー、歳だからね」
母親が笑った。
エイヤはカレンダーを見る。
来月の今頃は、母親の誕生日だった。
「髪切らないの?」
「給料入ったら、休みの日に美容院行ってくる」
「ふーん」
エイヤは母親の髪をもう一度見た。
「早く食べなさい。大学遅れるよ」
「うん」
大学の授業が終わると、エイヤはKUROWADA FIGHT GYMへ向かった。
「おう、エイヤ」
黒和田が手招きする。
「ちょっとこっち来い、話がある」
昨日、大樹から聞いた言葉を思い出した。
大事な話。
エイヤは黒和田について別室へ入った。
「座って」
「はい」
エイヤが椅子に座る。
黒和田も向かいに座った。
「エイヤ」
「はい」
「うちで働かないか?」
「え?」
「トレーナーとして」
「俺がですか?」
「ああ」
黒和田が笑った。
「トレーナーって言っても、アルバイトだけどな」
「バイトですか?」
「初心者の会員さんに軽くレッスンしたり、ミット持ったり」
「教えるんですか?」
「そうだ。掃除とか片付けもある」
「もちろん最初は田所か三熊についてもらう。難しいことは教えなくていい」
「大学あるんで、入れる時だけでもいいですか?」
「ああ。うちとしては助かる。給料もちゃんと出すぞ」
「給料……」
エイヤは少し考えた。
大学の学費もかかる。
いつまでも母親に全部任せるわけにはいかない。
それに。
ずっと無料でジムにお世話になるのも、なんとなく気になっていた。
「やります」
「お?決めるの早いな」
「お金欲しいんで」
黒和田がエイヤを見る。
「そうか」
黒和田が立ち上がった。
エイヤも立ち上がる。
「がっはっはっは!」
黒和田がエイヤの肩を叩いた。
「分からないことがあったら聞いてくれ! よろしくな」
「はい! よろしくお願いします!」
エイヤは頭を下げた。
数日後。
トレーナーとして働く最初の日。
エイヤはいつもより少し早く家を出た。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
新しい仕事。
少し緊張していた。
「よし」
KUROWADA FIGHT GYMの扉を開ける。
「おはようございま――」
エイヤの声が止まった。
いつもの雰囲気と違う。
ジムの奥。
椅子に大樹が座っていた。
その隣に黒和田。
そして。
三熊。
「…………」
三熊は俯いていた。
大樹がスマホを握っていた。
「エイヤ」
「何?」
「これ見て」
エイヤが近づく。
スマホの画面を見る。
フリマサイトだった。
出品されている商品。
「これ……」
エイヤが画面に顔を近づける。
見覚えがあった。
ジムからなくなっていた、大きいサイズのヘッドギア。
そして、
総合格闘技のDVD。
大樹から借りて、エイヤがジムに持ってきたものだった。
「なんで……」
同じ出品者が出している。
エイヤが三熊を見る。
「…………」
三熊は何も言わなかった。
「三熊さん」
大樹が三熊にスマホを見せる。
「これ、どういうことですか?」




