答え合わせ
翌日。
大学へ行くと、水刀が声をかけてきた。
「エイヤー!」
「水刀!」
「大丈夫か?身体は?」
「うん……昨日はごめん」
「いいよ、てか、あれはしょうがないよ。相手デカすぎだろ」
「うん……」
エイヤは少し笑った。
「そういえば昨日、あの金髪いたじゃん」
「けい太?」
「そう。会場で会った」
「話したの?」
「いや、気まずいから隠れた」
「なんでだよ」
エイヤが笑った。
「格闘技って結構面白いな」
「そう?」
「お前の試合以外も見てたけど、全然何やってるか分かんなかった」
「俺も分かんないよ」
「お前、試合出たじゃん」
「出てたっけ?一瞬すぎて気づかなかった」
二人は笑った。
授業が終わると、エイヤはKUROWADA FIGHT GYMへ向かった。
「会長!」
「おう」
「昨日のお礼を言おうと思って」
「お礼?こっちのセリフだよ!」
黒和田の反応にエイヤが驚く。
「まさか本当に試合を引き受けてくれるなんてな」
奥にいた大樹も笑っていた。
「脚どう?」
「まだ痛い」
「顔も腫れてんな」
「うん」
黒和田がエイヤの左脚を見る。
「練習は怪我が治ってからだ」
「はい」
「無理して悪化させても意味ないからな」
「治るまでトレーニングしない方がいいですか?」
「怪我してても、できることはある」
黒和田がスマホを取り出した。
「昨日の試合だ」
「試合?」
画面にはエイヤと地場が映っている。
エイヤは少し嫌な顔をした。
「見たくないかも……」
「見ろ」
「はい……」
大樹と並んでスマホを見る。
画面の中に、青コーナーに立つ自分がいた。
地場とリング中央へ出る。
レフェリーが二人に説明を始めた。
「この時、何考えてた?」
エイヤは思い出す。
「レフェリーが何言ってるか、全然頭に入ってこなくて」
「ルール説明は事前に聞いてただろ?」
「はい」
「だから、ここで覚えなくてもいいんだよ」
「…………そっか」
レフェリーが二人をコーナーへ戻す。
ゴングが鳴った。
地場が構え、ステップを踏んでいる。
エイヤも構える。
しかし、動かない。
「試合始まって、なんで動かなかった?」
「タックルで来ると思ってたのに来なかった」
「ああ」
「ずっとタックルを防ぐ練習してたから」
エイヤは画面を見る。
「なのに全然来なくて、どうしたらいいか分かんなくなった」
地場が少しずつ前へ出る。
エイヤが下がる。
また地場が前へ出る。
また下がる。
「俺、こんな下がってたの?」
「下がってるな」
「全然覚えてない」
「セコンドの声は聞こえてた?」
「全然、聞こえてない」
バシッ!
地場のローキックがエイヤの左脚に当たった。
「痛っ」
「動画見て痛がるなよ」
「がっはっはっは!」
黒和田が笑う。
画面の中のエイヤが組まれる。
そして倒される。
うつ伏せになる。
レフェリーが止めた。
動画が終わった。
エイヤは画面を見続けていた。
「めっちゃ短い」
「そうだな」
「もっと長かった気がした」
「試合中はそんなもんだ」
大樹が聞く。
「なんで負けたと思う?」
エイヤは考える。
「…………」
黒和田が口を開く。
「地場が何をしてくるかばっかり考えて、自分が何をするか考えてなかった」
「…………」
「相手は練習通りに動いてくれるわけじゃない」
「はい」
「戦い方のレパートリーが、まだ少なすぎたんだ」
黒和田はもう一度、最初から動画を再生した。
昨日は何が起きたのか分からなかった。
今日は一つずつ確認していく。
分からなかったものが、少しずつ分かっていく。
「なんか」
「ん?」
「ちょっと楽になった」
大樹がエイヤを見る。
「何が?」
「昨日、何で負けたのか分かんなかったから」
「ああ」
「もう一回やっても、また同じことになる気がしてた」
「…………」
「でも、何がダメだったか分かれば」
「だろ? こうやって後から試合を振り返るんだ」
エイヤはスマホの画面を見る。
「会長」
「なんだ?」
「この動画送ってもらっていいですか?」
黒和田が笑う。
「もちろん!」
エイヤは、自分が負けた試合をもう一度最初から再生した。




