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3週間後

 ゴングが鳴った。


 地場が構える。

 エイヤも拳を上げた。


 3週間、この日のために練習してきた。


 相手との距離を取る。

 相手が来たらカウンターで合わせる。

 倒されないよう対処する。


「…………」


 地場を見る。


 来ない。


「…………?」


 地場は構えたまま、じっとエイヤを見ている。

 どうしたらいいのか分からない。


「…………」


 まだ来ない。

 地場との距離が少しずつ近くなる。


「え?」


 エイヤは地場の足元を見る。


「…………」


 タックルは?

 地場が一歩近づく。

 エイヤが少し下がる。


「…………」


 来ない。

 もう一歩。


「なんで来ないの?」


 イメージと違う。

 エイヤの頭の中には、タックルを切ることばかりあった。

 地場がゆっくり近づいてくる。


「…………」


 パンチを出していいのか。

 今打ったら、そのままタックルに来るかもしれない。


「…………」


 迷っているうちに――

 地場の右脚が動いた。


 バシッ!


「っ!!」


 エイヤの左脚に激痛が走った。

 思わず足を見る。


「エイヤ! 止まるな! 動け!」


 大樹が叫ぶ。


「エイヤ!」


 黒和田の声も飛ぶ。


「…………」


 エイヤには聞こえていなかった。


 痛い。

 こんなに痛いのか。

 エイヤが顔を上げる。

 地場はもう目の前にいた。


「……!」


 エイヤが右を振る。

 地場が頭をずらす。


「え?」


 拳が空を切った。

 次の瞬間。

 地場がエイヤの身体に抱きついた。


「!」


 タックルじゃない。


「うわっ――」


 足を引っ掛けられた。

 身体が傾く。


 ドン!


 背中がリングに落ちた。


「…………!」


 目の前に照明が見えた。

 地場がエイヤの上に乗る。


「え?」


 エイヤの腹の上に地場がまたがった。


「エイヤ! 動け!」


 地場が右拳を上げる。


 バン!


「っ!」


 顔に入った。

 もう一発。


 バン!


「うっ!」


 エイヤは両腕で顔を守る。

 その上から拳が落ちてくる。

 バン!

 バン!


「エイヤ!」

「…………!」


 どうすればいい。

 田所との練習では、倒されたらそこで終わっていた。


「…………」


 重い。


 地場の拳がまた飛んでくる。

 エイヤは身体をひねった。

 そのまま、うつ伏せになる。

 両腕で頭を守った。


「…………!」


 地場が上から拳を落とす。

 ドス!

 ドス!

 レフェリーが二人を見ている。


「動いて!」

「…………!」


 エイヤは頭を守ったまま動けない。

 次の瞬間。

 レフェリーが二人の間に飛び込んだ。


「ストップ! ストップ!」


 地場の拳が止まった。

 レフェリーが地場をエイヤから離す。


 カンカンカン!


 試合終了を告げるゴングが鳴った。


「…………」


 エイヤは、うつ伏せのまま動かなかった。

 ゆっくり顔を上げる。


「…………」


 少し離れたところで、地場が右手を上げていた。

 セコンドがリングに入り、地場と抱き合っている。

 笑っている。

 喜んでいる。


「…………」


 エイヤはその光景を見ていた。

 プロレスなら、まだ終わりじゃない。

 まだ何もできていない。

 お客さんを楽しませないといけない。


「…………」


 なのに。

 試合は、もう終わっていた。

 何が起きたのか。

 まだ、よく分からなかった。


「両選手、中央へ!」


 レフェリーに呼ばれ、エイヤは立ち上がった。

 地場の隣に並ぶ。


『勝者――地場源太ー!』


 拍手が起こる。

 レフェリーが地場の腕を上げた。


「…………」


 地場がエイヤの方を向く。

 近づいてきた。


「ナイスファイト!」

「…………」


 何もできなかった。

 黒和田がエイヤの頭にタオルをかけた。


「…………」


 リングを降りるエイヤに、拍手が送られる。

 試合が終わったら、笑顔で声援に応えるつもりだった。


 でも。

 エイヤは会場を出るまで、タオルを外すことができなかった。

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