4:もうほぼ初対面と言っても過言ではない
そうして始まった学園生活だが、初っ端はさておき早もうすぐ1ヶ月。
思いの外平和なスタートが切れたと思う。
入学式は当然の様に新入学生代表として登壇する殿下を『お前名前以外の言葉喋れたんだな』と眺め何事も無く終わり、その後のクラス分けも殿下は仕方が無いとしても原作では同じクラスだったアリアが下から数える成績のクラスだったし。
教室に突撃してくる休憩時間にはさっと教室から避難している。
クラスメイトには避けられるかもと思ったが親から公爵家と縁を繋げて来いと言われたのかビクビクしながらも話しかけてくれた子らがいて、話してみたら良い人だったとそのまま仲良くしてくれている。
最初がマイナスだと普通でもすごく良く感じますよね。知ってる。
殿下は、接触しなければどうということは無い。
無い、はずでしたよね!?
「婚約者殿との交流が足りていないと思い至ったのでね。迎えにあがった。」
目の前で作り笑いを披露しているこいつは一体誰だ。
学園入学時点から迎えに来るなら100歩譲ってももうすぐ1ヶ月経とうという時に油断するからだと言わんばかりのこの事前通達無しの突撃。
悪意しか感じないが?
令嬢仮面、仮面・・・と脳内で繰り返しながら笑みを作る。
ここには殿下が来たのならばご挨拶をと、両親と長男様まで並んでいるのだ。
お前の今の一言でこちらは後でこの連中にお前の分際で殿下をないがしろにしているのかと詰められるんだぞ。
分かっててやってるだろ名前以外も流暢に喋りやがって・・・
下手に喜んでる風を作っても調子に乗りやがってとつついてくるだろうし、あまりに無碍にしても化け物の身分でとつついてくるだろう。まさか殿下の前で失態を犯す様な真似はしないだろうが後で確実に面倒が起こる。
やんわり、へりくだって・・・
「勿体ないお言葉ですわ。殿下のお忙しい時間を削っていただくだなんて申し訳ございません。わたくしは学園でお会い出来ればそれだけで・・・」
「せっかく迎えに来てくださったのになんて事を言うんだ!失礼な奴だな!これだからお前は。王家に入っても我が公爵家の恥じになる道しか無いのに辞退もせずにしがみつきやがって。」
言い終える前に横からこの家の長男様が被せて罵ってくるのに驚愕で体がこわばる。
まさか殿下の前で、と思った自分が楽観的だったのか!?
殿下の前でそんな発言をする事こそがこの家の恥以外の何ものでも無いだろうに。貴族ならではの外面ってものを学んでいないのか?いい年して。
曲がりなりにも次期当主予定で領主課で学んで来年卒業じゃないの!?
「その通りだこの害虫めが。」
公爵閣下!!??
え!?この人達本当に貴族として今まで生きて来たの!?
馬鹿じゃないの!?いや馬鹿だよね!?それとも洗脳の後遺症なの!?6年経っても!?
驚きに両親を2度見したいところをぐっと堪えて笑顔の仮面をキープする。
「貴方方は・・・」
「殿下!学園に遅れてしまいます!本日のところはご一緒させてくださいませ。」
明らかに眉を顰める殿下の言葉を失礼を承知で遮って馬車へと促す。
「お前・・・!」
長男様の声がするが、殿下が付いて来ている事を確認して声を無視して馬車へと向かう。
これ以上恥を上塗りしないで欲しい。
なんとか殿下の馬車へと逃げ込んでほっと一息つく。
テンパり過ぎて普通に殿下にエスコートさせて馬車に乗ってしまった・・・
それはそれとして
どうして、こうなった。
あの方々は生粋のお貴族様だ。お貴族様のはずだ。お貴族様・・・ですよね?
少なくとも本日この日まで爵位返上したという話は聞いてはいない。
しかし、先程の態度を見るにまともに貴族社会でやってきた人間とはとてもじゃないが思えない・・・
「公爵家の洗脳が未だ解けていないという噂は本当だったのか。いい加減にしたらどうだ?」
脳内で頭を抱えたところに更にで殿下による爆弾投下が行われた。
いや、内容も爆弾だが私と会話する口があったのか!!!???
というかあれが演技?私が自分で家族に攻撃させてるって!?
「どこの世界に洗脳してまで自分を罵らせる公爵令嬢様がいらっしゃるのか存じませんが、それはわたくしではありませんわね。家族の洗脳解除はありがたくも陛下の手配してくださった宮廷魔法師様にもお墨付きいただいて、洗脳防御の為の魔法道具まで下賜していただいておりますのに。お疑いなら陛下に進言なされたらいかがです?わざわざ前触れも無く我が家にいらっしゃったのは洗脳状況を確認されたかったからですの?粗探しまでして婚約破棄されたいならわざわざいやいや出向かれるまでもなくお父様にお願いなさればよろしいわ。家族を洗脳して自分を罵らせるろくでもない公爵令嬢とは婚約を破棄されたいと。」
爆弾発言への怒りを令嬢仮面で多い隠すも、0円スマイルまで作る気は起きない。
朝っぱらからどっと疲れるあれこれで不敬だと咎められるなら、もうそれでいいんじゃないかという投げやりな気分で反論を聞く気も無く一気に言い切る。
「いや、先程も言った通り、婚約者殿との交流の時間を持つべきかと」
「陛下がそうせよと?であれば、そんな気も起きない様な令嬢なのだとお伝えになるか学園で時間を取っていますとお答えいただければそれで良いのでは?」
向かいで足を組んだ無表情の殿下の言葉に、反射的に聞き返してしまうと馬車の中に微妙な空気と共に沈黙が訪れる。
殿下が考え事でもする様に僅かに視線を下げ、口元に手をやる。
「婚約者殿は、私との時間を取るのが嫌だという事だろうか?」
え。下手にこっちのでいにされても困るんですけど。
令嬢笑顔でこてりと首を傾けて見せる。
「とんでもないことでございます。王妃様のお眼鏡に適わないわたくしの為に殿下のお時間を頂戴するのは申し訳が立たないというだけです。」
結局は時間を取る気は無いですってことですけどね!
「婚約者殿に取らずに何に取れと?」
ど・の・口が・宣った?
「任されていらっしゃるお仕事や学園では生徒会のお仕事もあると伺いました。それに・・・恥ずかしながら殿下と2人でお会いするのは、緊張してしまいますので。」
殿下の言葉に訝し気な声色が混じるのを感じて、奥ゆかしい淑女ぶって恥ずかし気に控えめな笑みと共に付け足してみる。
「かしこまらずとも、婚約者なのだから・・・」
は????
苦笑を浮かべる殿下に本当に先程から何を宣い続けているんだこいつの心をまた笑顔の下に押し込める。
「ですが、殿下とはほぼ初対面と言っても過言ではございませんし。」
「いやそれは過言だろう。」
やんわり言った言葉に即入るツッコミに驚きで動きが止まった。
あ。ツッコミとか出来るんですね?殿下。
「あら、ですがわたくし国王陛下にお名前をお教えしていただいた際に「ユリシーズだ。」とおっしゃった声をお聞きして以降、先程6年振りにお声を聞いたかと思うのですが?」
ここは頬に手をあてて小首を傾げ必殺「あらぁ困ったわぁ」である。
「だが、お茶会で顔は合わせていただろう。」
この6年手紙もプレゼントも無く王家主催のお茶会でも舞踏会でもエスコートどころか顔も合わせなかったのを王妃とのお茶会に時折同席するレベルで、しかも同席しても始まりと終わりの挨拶どころか一言も発言せずそれどころか正面で顔を合わせるのも初対面の紹介以降今が初だというレベルで初対面とは呼べない関係を築けているだろうと?
どちらかと言えば完全にガチでマイナス極振りだわ。
「王妃様とのお茶会に時折座ってらした記憶はございますね」
「挨拶もしなかったのはそちらだろう。」
こちらの言葉にとうとう隠すのをおやめになったのか、イラッとした様子の早めの口調で返答がある。
「殿下。殿下はわたくしよりも貴族のマナーについてご存知でいらっしゃいますよね?その殿下が王家の方からのお声がけも無いのに先に発言をして礼を失するべきだったとおっしゃってます?」
頬に添えていた手を離し姿勢を正し直す、そして極上令嬢仮面を作成の上でお伺いをたてた。
難癖か?難癖なのか?あぁん?
こちとらこの6年季節毎のご挨拶の手紙とプレゼントとどうせされないエスコートの有無の確認を毎回取り、そっちの誕生日パーティーには個別挨拶すらさせて貰えないのにプレゼント持参で欠かさず参加してんだぞ?
こっちはなぁ!誕生日パーティーどころか家族にすら誕生日も祝われてないのに!!
「その様な礼を弁える気があったのか」
さも、今、初めて気付いたとでも、言わんばかりの!その発言と表情!
脳内でぶちっと盛大な音が響きわたった。
「なるほど。わたくしが、その程度の礼儀も弁えない者だと思っていらっしゃったから、自分も礼を尽くす必要は無いと思っていらっしゃったのですね?であれば今後もその様にしてくださればよろしいではないですか。
今更この様なお話はお互いに何の利にもなりませんわ。誰に何を言われて本日いらしたのか分かりませんが、今後は全て遠慮させていただきます。
今後は殿下のお考えの通りに季節のご挨拶も贈り物も全て見直させていただきますので、そんな礼儀も弁えない令嬢に殿下もお気遣いも歩み寄りもなさる必要ございませんわ。先程お話させていただいた通りお父様に『礼も弁えず、家族を闇魔法で洗脳する様なろくでもない人間は婚約者として不適格である』と進言してくださいませ。」
一気にまくしたてている間に馬車が止まる気配がしたが、最後まで言い切った。
僅かに目を開く殿下の表情が視界に入るが言い返してくるわけでも無さそうな様子にすぐに視線を外す。
業者がドアをノックするかいなかというタイミングで自分でドアを開き、飛び降りる様にして勝手に外へと出ると、そのまま教室へと向かった。
「・・・さっさと殿下とアリアの浮気報告をあげて、早急に婚約破棄にならないかな」
あんな男のせいで、うちの両親と弟の命が奪われるなんて、絶対に許さない。




