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5:生まれてから今日この時までおきぞくさま

さて、教室に向かう道のりで少しは頭が冷えたところで

浮上してしまう再加熱燃料がございますね。


まともな、最低限の、貴族の対応も出来やしなかった!!

領民の金で飲んだり食べたりしておいて!

いい年して!あの態度!!!!!


いわずもがなこの体のご両親のお話である。


殿下の前であの態度でどうやってお貴族様してきたのかと思ったら

そもそもまともにお貴族様していなかった!

そしてそれを全て未だに闇魔法のせいにされていた!!!

そんなことある!?


前公爵よ。何をとち狂ってあんなのに爵位与えちゃってる上にそのまま放置してたの!?

え?前公爵も馬鹿親なの!!??

ヘルプ送ったら怒りに来てくれる程度にはまともに孫が可愛いおじいちゃんなのかなと思ってたけどじじぃも爵位放棄で田舎に逃げてただけっていうお話?

そもそも闇魔法が理由だろうが何だろうがあの状態で何年経ってると思ってんの!?

あの当主で領地運営とかあれとかそれとかまともに出来てるわけなくない!?

国の監査とか入らないの!?

何故こんな状態に?脳内が疑問符で埋め尽くされてフル稼働である。


それにこれ完全に娘に洗脳されてたとかミリも関係無くない!?

もともとろくに出来なかったもんを洗脳されてもやっぱりやってなかったってだけじゃない?

だから洗脳解けても出来る様になるわけなくて、出来ないのをまだ闇魔法のせいにしてんの!?

娘に出来ない言い訳押し付けてるだけってことか。そんなトンデモクズが公爵名乗っていいの!?

出来ない言い訳を娘に押し付けたところで出来てないものは出来ていないのに

それで領地運営や公爵としてのあれこれがこんなに何年も破綻なく成立するものなのか・・・

いくらなんでもそんな何でもかんでも伝家の宝刀みたいに『乙女ゲーだから』ですまされないよ!?


あまりにも最低オブ最低な事実にヴァイオレットに同情するが、

同情するのはあくまでも元のヴァイオレットであり

自分の体を乗っ取って元気いっぱいはしゃいでいる彼女ではない。念の為。


全く理解不能だが

よくある転生ものの世界の強制力のオシゴトだと考えるしかないのか?

どんなに無能でも悪役令嬢の親がいい年してただの公爵令息では悪役令嬢が権力振りかざせないって事なの?

ヒロインの弟を死なせる魔女狩りイベントをさせる権力が必要だったの?

苦境の先にハッピーエンドの方が盛り上がるんだろうけど!

いろいろ闇を放り込む為の無茶とご都合主義が過ぎない!?

湧き上がる制作陣への怒りついでにあの顔だけ婚約者の「洗脳いい加減にしろよ」と「お前礼儀知ってたんだな」発言への怒りも再沸騰してしまって

脳内のカオスは教室について授業も始まり、上の空で過ぎていって放課後になるまで引きずってしまったのだ。


溢れる疑問の答えは一切無い

しかしこれがもし『乙女ゲー』だから。なのだとしたら

このあまりにも無茶苦茶がまかり通るこの世界の摂理と強制力に、勝たなければ生き残れないのだ。

授業の教材を片付けながら、こんな授業内容だとか国の過去だとか全てを元のゲームや物語が考えていたわけないんだけど誰が補完してるのか・・・

カミサマというやつなのか、と意識を脳内疑問に囚われたままで帰り仕度を終える。



そんなこんなで目の前におわしますは朝我が家の玄関でも遭遇しました殿下様でございますね。

意味が分からない。



「帰ろうか。我が婚約者殿」


なんなのこいつも言語が理解出来ない生き物なの?

この世界本当にあんまりにもあんまりじゃない???


「恐れ多くも殿下におかれましては、臣下の者の言葉をお聞き届けいただく気持ちは一切無いという事でお間違い無いでしょうか?」


慇懃にカーテシーの姿勢を取り、そのままの姿勢で問いかける。

完璧な作り笑いを浮かべるその麗しいお顔が最高に憎らし・・・


「私としても、無駄な時間と手前をかける気は無いんだが、今朝の様子を見てしまうとあのご家族の元ではまともな王子妃教育どころかまともな淑女教育がなされるとはとてもじゃないが思えなくてね。不良債権を押し付けられても困るし、不良債権になる前に引き取らせて貰って王城で教育した方がマシなんじゃないかと思い至ったわけだ。」


最高に憎らしいのは中身だった〇ソヤロウ。

無駄に賢そうぶって長文喋りやがって、今朝はお前が洗脳でさせてんだろとか言っておいて謝罪も無く掌返しか許すまじ。

そんな不良債権製造機のご家族に王命で婚約ねじ込んで来やがったのはお前の親だ、この上から目線ク〇ガキ許すまじ!

もう脳内の口調とか気にしてられる状況じゃない。


「殿下におかれましては婚約は慈善事業はありませんので、不良債権はさっさと破棄していただければよろしいだけかと愚考しますわ」


わざとらしくカーテシーの姿勢を取り続けているがいい加減プルプルしてきそうだ。

お前の為のアルカリックスマイルももう売り切れ寸前だよ。


「不良債権だなどと言っていないだろう。」


本当に、時間の、無駄。


「では言い換えますわ。お前は不良債権予備軍だなどと婚約者に正面切っておっしゃる程、婚約者が気に入らないのならわたくしにではなく陛下に、早急に、破棄のお話をされるべきですわね。わたくしどもが不良債権予備軍を王家に押し付けようとしているわけでは無く、王命による、婚約ですので。ご用件がそれでしたらわたくし失礼したいのですが?それとも不良債権予備軍を訓練してやっているおつもりですの?」


王子妃教育は公爵家じゃなくておまえのかーちゃん担当だ!真面目にやったら下剤飲ませてくるかーちゃんに不良債権いりませんと泣きついてきやがれ!と後半を心の中で追加しつつ、いい加減痙攣起こしそうな筋肉を叱咤してカーテシーの姿勢を解く。


「どうしてそのように意地の悪い捉え方をするのだ。そういう意味では無い。私はお前を救おうと…」


「そのご慈悲は礼儀も弁えない婚約者にでは無く、他の、国を支える民へ・・・」


「ユリシーズさまぁ~!」


話を遮るその語尾にハートが見える声に、今日この時ばかりはナイスと脳内で拍手喝采する。

頑張って!心の底から応援してる!!

あとしれっとアリアを止めてるけど居たんだね公爵令息よ・・・


「アリアまだ学園に慣れなくてぇユリシーズさまと一緒に帰りたくて!来ちゃったぁ」


すごい元気と気力が必要そうな声と話し方ときゅるん顔だな・・・自分の顔でなけりゃひたすら感心出来るのにな・・・


さってと逃亡一択である。


「あらまぁ、殿下。殿下の助けを求める方がいらっしゃった様ですわ。ぜひ救いの手を差し伸べて差上げてください。わたくしは家の馬車が待っておりますので、失礼いたしますわね」


さようなら~いらない慈悲を与えようとするオウジサマ~!

あなたが救出して連れて行こうとした先はいやみや暴言どころか飲食物に下剤を混ぜて来る精神どころか健康も長期滞在しようものなら命も危ぶまれる場所なんですよ~絶対に~お~こと~わり~ですぅ~!

がんばってヒロインみたいにかわいこぶって脳内で言ってみるがなんか違う。


先程とは打って変わって軽い気分を全面に押し出して軽い足取りで出口へと向かう。

通り過ぎるみなさまがたからのご挨拶へも笑顔で答えてしまう。

ごきげんよう、ごきげんよう、みなさまごきげんよう。

今だけはろくでもない公爵家の面々の存在を遠くへ追いやって面倒事を回避出来た喜びにひたらせて欲しい。

1回ちょろっとやり過ごしただけで浮かれるなと言わないで欲しい。

基本豆腐メンタルなのだ。

小さい事に喜びを見出していかないとこの先を生きていけないのだ。

ちいさいことからこつこつと!


「・・・・・・。」


分かってた。

楽観的過ぎた。

はしゃぐんじゃねーよって事ですね。了解です。



公爵家の馬車など

存在しなかったのだ。


いつもなら馬車が寄せて待っているはずの場所の見晴らしの良さに

あら場所を間違えたかしらと他の馬車へと視線を向けるも見慣れた紋章付きの馬車などありはしなかった。




・・・どいつだ!?


今朝の腹いせをしたかった両親か兄か

城に連れて行く気だった王子か・・・

前者だったら公爵家の体面ってもんを考えろよ単細胞生物どもめ、だし

後者だったら本人に許可取る前に何してくれてんだ、ってところ。


とりあえずそこは後で確認するにしても困ったもんだ。

前世だったら歩いて・・・いや歩いて1時間以上かかるわ。前世だってえらい迷惑だわ。


それは置いておいてこのまま歩いて帰ろうものなら光の速度で噂の的だ。

とはいえここで手をこまねいているうちにヒロインと殿下に追いつかれでもしたら目も当てられない。

どうするべきか・・・


「あらそこにいらっしゃるのはヴァイオレット様では!?」


声をかけてきた相手はこの国を拠点に他国にも支店を持つ商会の娘であるマローネ嬢である。

さすが商人のお家の娘さんだからなのかとっても人好きのする笑顔とコミュ力でお世話になっている。

ありがたや。


「マローネ様!ごきげんよう。今お帰りですの?」


淑女スマイルで答えつつもなんとかマローネ様の馬車に乗れないものかと思考を巡らせる。


「えぇ!ヴァイオレット様は?公爵家の馬車は見当たらない様ですが、どなたかとお待ち合わせですか?」


「いえ、特に待ち合わせでは無いのですが・・・」


濁して必殺あらまぁポーズで頬に手を当てて首を傾ける。


「ではぜひうちに来ませんか!?以前見てみたいとおっしゃっていただいてた品が入っていて・・・!帰りはうちの馬車で送らせていただきますので、ぜひ。」


察しが!察しが良くて早い!凄すぎるマローネ様!だいすきマローネ様!


「あら!ぜひお伺いしたいわ。ありがとうございます。」


人目もあるのではしゃぎ過ぎず淑女スマイルで、と意識しながらそれでも嬉しさを全面にお答えしてマローネ様の指し示す方向へと共に移動し始める。


その背後に物凄く耳馴染みがあり過ぎる自分の声・・・もとい今は人様の声が届いた。

間一髪!?マローネ様が神だった。

この世界にも救いはあった!


脳内でマローネ様の像に向かって祈りを捧げながらマローネ様のおうちのフットマンの手を借りてマローネ様と共に馬車に乗り込むのだった。


さようなら学園・・・今日という日が長過ぎる・・・

そしてまだ今日は終わっていないのだ。

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