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倒した敵は俺の力になる 〜魔物だらけのダンジョンを攻略しながら、ドロップ品を配信で売って一気に億万長者へ〜  作者: 上部乱
巽の塔—風火家人

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第98話 水槽の戦い


巨大なゴキブリ。


人より背の高いゴキブリ。


高速で動き回って人に飛びかかってくるゴキブリ。


これより精神が崩壊しそうな光景は思いつかない。


水槽の縁に立っている俺は、背筋がぞくっと冷たくなった。空気には酸っぱい臭いが漂っている。ゴキブリの分泌物特有の匂いと、傷ついたシーフード族から流れ出る生臭い体液が混ざり合っていた。


「これ――こ、このゴキブリ、いつの間にこんなに大きくて、こんなに数が増えたんだ!」


後ろでビーツが悲鳴を上げた。


「嘘だろ……俺より背が高いのが何匹もいるじゃないか!」


ニンジンが息を呑む。


「うっ、ダイアガストロポッドより怖いって、どういうことよ……」


ヤマイモの葉っぱが震えていた。


俺も言葉が出てこなかった。


ただ前方の戦場を駆け回るあの見慣れた姿を見つめていた。


ユウキの剣が強い赤い光を放っている。


これは準備万全の勇気――敵のことを知れば知るほど、そして自分の準備が整うほど、この剣の戦闘力が強くなる。


俺たちと別れてからこの時間で、ユウキはもう何度かゴキブリと戦ってきたみたいだ。


ゴキブリの数はものすごく多い。


シーフード族は必死にゴキブリの猛攻に抵抗していた。でも彼らはゴキブリの食料だ。


一人が倒れれば、ゴキブリは群がってきて大口で食らいつく。そのシーフードがまだ生きているかどうかも気にせず、貪るように食べる。


咀嚼用の口器を開けて、シーフード族の悲鳴の中、一口また一口と引き裂いていく。


「うわ――ああああ!」


小柄なハマグリの戦士が押し倒され、貝殻の盾が遠くまで飛ばされた。すぐに三匹のゴキブリが体に登って、鋭い口器が容赦なく肉に食い込む。


「いやだ!やめて――」


ハマグリの悲痛な叫び声が水槽全体に響き渡った。


ユウキは戦場を駆け回っていた。


シーフードが倒れて、ゴキブリの群れが囲もうとするたびに、彼女は素早くそこへ飛び込んでいく。勇気の剣が赤い光を放つ。


剣身から放たれる剣気は四メートルもの長さがあった。彼女の身長の倍以上だ。


「どけ!」


ユウキが剣を振り下ろすと、剣気が掃いただけでゴキブリは真っ二つに切り裂かれた。


切られたゴキブリの上半身が吹き飛び、水槽の陶器の壁にぶつかって鈍い音を立てる。黒緑色の体液があちこちに飛び散った。


「下がって!怪我した人は後ろへ!」


ユウキが剣を振りながら叫ぶ。後ろで束ねたポニーテールが風になびいていた。


その一つ一つの動きには迷いがない。消えることのない炎みたいだ。


何人ものシーフードを救っていた。


でもそれ以上のシーフード人が、ゴキブリに食べられて骨だけになっていた。


「ユウキ……」


俺は小さくつぶやいた。


俺の後ろの根菜たちは、みんな顔を真っ赤にして怒っていた。俺の号令を待っている。


「よそ者よ、命令してくれ!」


ジャガイモがナイフを握りしめた。


「もう待ってられない!」


「俺たちがどんなに怖くても、こんな光景を見て見ぬふりはできないだろう!」


ダイコンの声は震えていたけど、強い決意がこもっていた。


「そうだよ!」


ゴボウもフォークを掲げた。


「シーフード族の兄弟たちのために!」


俺は深く息を吸った。


みんなの決意のこもった目を見て、俺の中にも勇気が湧いてきた。


「根菜ダイアガストロポッド騎士団――全員注目!」


俺もはっきり分かっていた。もう待てない!


「目標は全てのゴキブリです!みなさんのシーフード族の仲間を救ってください!」


「了解――!」


俺は承風鈴を取り出して、ヴァユの風の香讃を歌い始めた。


鈴がチリンチリンと澄んだ音を響かせ、俺の歌声と完璧に絡み合う。水槽全体に軽やかな風の流れが響き渡った。


「突撃――!」


反応能力の強化に、承風鈴の絶え間ない増幅が加わる。


ダイアガストロポッドとその背に乗った根菜の騎士たちが、それぞれ戦場を高速で駆け抜ける流星と化した。


シュッ――シュッ――シュッ――!


七、八本の残像が水槽の縁から飛び出して、ゴキブリの群れに突っ込んでいった。


戦場のゴキブリは、見た目がチャバネゴキブリにちょっと似ていた。体は比較的細身だけど、数がものすごく多い。


しかも戦場で直接繁殖できるんだ。


俺は目の前で見た。ニンジンが乗ったダイアガストロポッドに頭を食いちぎられた雌のゴキブリが、最後の瞬間に卵嚢を産み落とした。


その卵嚢から、数秒のうちに十匹以上の小さなゴキブリが孵化した。


小さなゴキブリたちが素早くニンジンの体に這い登り、あちこちを噛みつく。


「ぎゃああああ!」


ニンジンが悲鳴を上げてカタツムリから転がり落ちた。


「ニンジンさん――!」


俺は叫んだ。


ニンジンは必死に転がって、体に付いた小さなゴキブリを潰そうとした。でも起き上がって振り返ると、彼のダイアガストロポッドの乗り物はもう小ゴキブリに骨も残らず食べ尽くされていた。


「うそ……だろ……」


ニンジンの声が震えていた。


それから数秒後、ダイアガストロポッドの殻から這い出してきたのは、なんと成熟した個体の群れだった!


ニンジンはあっという間に絶望に陥った。彼の目には死の覚悟が浮かんでいた。


「ごめん……みんな……」


つぶやくように言って、フォークが力なく垂れ下がった。


でも、俺の従者をこんなに無残に消えさせるわけにはいかない!


「下がって――!」


俺の手から切風翎が放たれた。一瞬で数十回も往復し、目の前のゴキブリを全て貫いた。


切風翎が空中に無数の銀色の弧を描く。一本一本の軌跡が正確にゴキブリの体を貫いた。黒緑色の血液が空中に飛び散り、カタツムリの殻から這い出てきたばかりのゴキブリの群れは全て倒れ伏した。


「助けてくれた……我が主様と呼ばせてください……」


ニンジンが我に返って、目を真っ赤にしていた。


「我が主様は言いすぎですよ――」


俺はこういう上下関係のはっきりした呼び方は、ちょっと受け入れがたかった。


「いや!全然そんなことない、僕――いや、僕の仲間たち全員、絶対あなたの部下になりたがると思う!」


「はあ――まあ好きにしてください、今そんなこと議論してる時間ないので」


そばにいた他の根菜たちはこの様子を見て、みんな胸を叩いて声を揃えて叫んだ。


「はい、我が主様!」


「平気なら早く立ち上がってください!」


俺はため息をついた。


「ゴキブリへの抵抗を続けて!」


俺は気づいた。さっき殺したゴキブリたちは、小ゴキブリを産まなかった。


雄だったのかもしれない。それかまだ生まれたばかりで、交尾していなかったのかもしれない。


どっちにしても――これでゴキブリは戦場で生まれることができても、無限に増えるわけじゃないって分かった。


知恵の書がそれを追って、ゴキブリの情報を表示した。


ボーンチューゴキブリ Lv 8

EXP 1800

HP 480 MP 120

反応:24

筋力:18

霊感:6

運気:4


ドロップ:

N ボーンチューゴキブリの刺脚 49%

R ???? 25%

S ???? 15%

U ???? 9%

E ???? 2%


「よし――」


口角が上がった。


これでこいつらの情報が手に入った。


数が多くて、しかも再生して数を補充できる敵を相手にするなら、こっちも数で対抗する方法がある。知恵の書の従者機能があれば、倒れた敵は全て俺の力になる。


俺はさっき貫いた一群のゴキブリを従者に変えた。


黒緑色の体に薄い緑の光が一瞬で広がり、死んでいた触角がまた震え出した。でも今度は彼らの目線の向きが変わっていた――同類に向けられている。


「行け!」


俺は指示を出した。


こいつらを俺の前に突撃させて、他のゴキブリを足止めしてもらう。その間に切風翎を投げて何匹か殺した。


「我が主様、これは……これはすごい光景ですね……」


ジャガイモがナイフを振りながら息を切らせていた。


「ゴキブリ同士の戦いだ!」


「うえ……言わないで、吐きそう……」


そばでラディッシュが口を押さえている。


「今は吐いてる場合じゃないわよ!」


ダイコンが叫んだ。


「後ろを見て!」


一匹のゴキブリが横から飛びかかってきた。ラディッシュは反応が間に合わない。今にもぶつかりそうになって――


「きゃっ!」


彼女の下のダイアガストロポッドが最後の瞬間に急旋回し、軽やかに攻撃を避けた。同時にラディッシュは、その勢いで腰から小刀を抜いてゴキブリの目に突き刺した。


「で……できた!」


ラディッシュ自身も驚いていた。


「お見事!」


ニンジンが大笑いしながら横を走り抜けて、フォークを振り回す。また一匹のゴキブリの頭が串刺しになった。


俺の手元に集まるゴキブリがどんどん増えていく。


そして次の段階に入った――俺のゴキブリが敵のゴキブリと互角の押し合いを始めた。


俺は引き続き新しいゴキブリ従者を作り続ける。


この頃にはもう、シーフード族は危険から抜け出していた。


怪我をしたハマグリの戦士は仲間に後方へ引っ張られ、カニの部隊は前方で防衛線を再構築して、俺のゴキブリ従者と肩を並べて戦っていた。


「な、何だあれは……」


一匹のカニがゴキブリ同士で戦う光景を見て、ハサミを掲げたまま唖然としていた。


「気にすんな!味方ならそれでいい!」


別のカニが叫ぶ。


「斬りまくれ!」


俺の根菜ダイアガストロポッド騎士団は、俺の周りをぐるりと囲んで護衛していた。


「我が主様、さっきは本当に危なかった……」


ニンジンがまたダイアガストロポッドの背に乗り直した。


「助けてくれてありがとうございます」


「無事で良かったです」


俺は微笑んだ。


「気をつけてくださいね!」


「次は絶対に我が主様に心配かけません!」


ニンジンがフォークを握りしめた。


ユウキはまだ最前線で奮戦していた。勇気の剣の長い剣光を使って、ゴキブリを大きく薙ぎ払っている。


そしてユウキの後ろから扇のように広がっていくのは、俺のゴキブリ大軍だった。


ユウキはもう何か変だと気づいていたみたいだ。ゴキブリの群れの中に斬り抜けて道を作り、振り返った。


俺たちの目が合った。


彼女の赤い剣気が一瞬止まった。目を大きく見開いて、口がわずかに開いた。


「真澄――!」


その声には驚きと喜びがこもっていた。


俺も彼女に手を振り返した。多くを話している時間はなかった。


「後で話そう!まずこいつらを片付けて!」


俺は叫んだ。


「了解!」


ユウキが久しぶりの笑顔を見せて、すぐに振り返って剣を振るい続けた。


赤い剣気が再び薙ぎ払う。その背後から広がる俺のゴキブリ大軍と合わせて――一本一本の残像が戦場で交差し、ゴキブリの体が次々と倒れていく。


ほどなく、水槽の戦いは終わった。


戦場には黒緑色の血液と酸っぱい臭いが立ち込めていたけど、シーフード族の仲間たちは安全だった。


そして俺の手元には、ぞっとするようなゴキブリの大軍が増えていた。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


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