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倒した敵は俺の力になる 〜魔物だらけのダンジョンを攻略しながら、ドロップ品を配信で売って一気に億万長者へ〜  作者: 上部乱
巽の塔ー風山漸

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第81話 炎の海の中で幕を閉じる

 

ここからは、なかなか面白い展開になった。

さっきまで俺は、この神木をどうやって完全に消滅させたものか、と頭を悩ませていた――

 

そこへきて、こいつが倒れた拍子に、火山もマグマも、ぜんぶ叩き出してくれた、ときている。

 

「これなら、燃やしちゃうの、楽勝じゃない?」

サチが、遠くで方々に噴き上がっているマグマを指差した。あのオレンジの光が、暗い地平線につらなって、一筋に繋がっている。

 

「うーん、どうかなあ」

ユウキは、まだ少し悩ましげだった。

「こっちの木霊たちも、火はちょっとまずいんだよね」

 

「操作する側で気をつければ、大丈夫ですよ」

俺は言った。

「土の傀儡なら火に耐えられますし、点火するときに、頭の上の木霊だけ避けてやればいいんです」

 

俺は意識を集中させて、土の傀儡たちに新しい指令を出した。

そうして俺たちは、また土塊カプセルの中で待機しつつ、外で土の傀儡たちが熱心にマグマの裂け目まで走っていく様子を、画面越しに眺めていた――

何度も何度も、両手にマグマを抱え、神木の幹の上へと、注いで注いでまわっている。

 

その光景は、なかなか幻想的だった。

数百メートルもある多腕の土の傀儡が、オレンジ色のマグマの川から燃える液体をすくい上げ、蟻が砂糖を運ぶみたいに、ひと匙ずつ、すでに倒れて地面に横たわった、二十キロにも及ぶ幹の上に、積み上げていく。

 

マグマが幹に触れた瞬間、すぐに引火した。

火種が点いた箇所から、両側に向かって炎が広がっていく。その速度は速かった――

構造が破壊され、内部の繊維が露出した木材だ。さらにマグマ自体の高温も加わり、火はろくに導火線も必要とせず、勝手に育っていった。

 

同時に俺は、別の土の傀儡たちには、神木の樹皮や幹を力ずくで剥がさせた――

できる限り、こいつのあらゆる組織を炎にさらすために。

 

倒れたあの巨大な神木は、一筋、また一筋と火線で繋がれていき、二十キロにわたって延焼する、巨大な炎の蛇のようになっていった。

 

「この火、いったい何日燃え続けるんだろうね?」

サチが好奇心まじりに言った。目は画面の中の、どんどん明るさを増していく火の筋に釘付けだった。

 

「絶対、長いことかかると思うよ……」

俺は首を振った。情けなさが顔いっぱいに出ていた。

 

『マグマ+樹=制御不能の炎』

『マスミ、ほんとに頭の回転速いな』

『この絵、壮観すぎ』

『二十キロの炎の龍』

『でもさ、この生態系がほんと不憫……』

 

空は、神木が倒れたときに巻き上がった砂塵によって、夜のように真っ暗に覆われていた。

これは漸の台、本当に氷河期に突入してしまうかもしれない。

 

空からは陽光が届かない。本来なら、俺たちは何も見えないはずなのだが――土の傀儡たちが起こした大火が、神木の上で果てしなく燃えていて、その光は目を刺すほどではないが、確かに闇に覆われたこの大地を照らし出していた。

 

その光景には、なんとも言いがたい不気味さがあった。

炎はオレンジ色をしていて、地平線から、俺たちの足元のこの高地まで、ずっと連なっていた。

 

大地ぜんたいが、その火の龍に赤く染め上げられていたが、空を見上げると、塵で構成された、濁った黒一色だった――まるで世界が上下に切り分けられたみたいだった。さらに言えば、燃え盛る地獄が、生者の世界をいまにも引き継ごうとしている、そんな雰囲気があった。

 

俺は心配していた。いったいどこまで燃やせば、このくそデカい樹は、ようやく「死んだ」と判定されるのか――

そこへ、ようやく敵撃破の通知が浮かび上がってきた。

 

【群樹連理の神木 撃破】

【EXP +120,000,000】

【特殊アイテム獲得:迷宮の影 第五層】

【特殊アイテム獲得:ダンジョンの道標灯】

【ドロップ獲得:神木の清浄の心】

【ドロップ獲得:神木の悪濁の心】

 

「勝った!」

サチが真っ先に叫んだ。

俺はあのEXPの数字を、二度見した。

 

一億二千万。

 

俺たち四人のレベルが、いっせいに跳ねていった――

経験値の数字が、何かの自動加速装置にでもかけられたみたいに、もとのレベル18から、一段、また一段、さらに一段、と上がっていく。

 

俺は自分のステータス欄を開いた。

 

新田真澄 Level 21

EXP 29,462,720 / 104,857,600

 

HP 1170 / 1170

MP 430 / 430

 

反応 33

筋力 31

霊感 35

運 33

自由分配 26

 

三段階アップ。

そして、次のレベルに必要な経験値は、もう億の単位に乗っていた……

 

「わたしも、レベル21になってる」

サチが俺の知恵の書を覗き込んだ。

 

「私も」

ユウキがうなずいた。

 

「私も21」

ワカナが書を閉じた。

「次のレベルに一億ってさ、数字を見てるだけで、なんか現実感ないよね」

 

『三段階アップ!!』

『EXP一億二千万!!』

『記録更新でしょこれ』

『主たち、もう世界最強じゃん』

『次のレベル上げるのに、こういうボス何匹倒せばいいんだよw』

 

生態系をひとつぶっ壊した代わりに、四人それぞれ三段階アップ。

どう考えても、投入したものと得られたものの釣り合いが取れていない。

 

俺は遠くで、まだ燃え続けている二十キロの巨樹を見つめた。胸の奥の、あの重たい感じが、また戻ってきた。

 

経験値はたっぷりもらった。それでも、上がったレベルは、せいぜいこれだけ?

――引き換えに、この大地は、ほぼ俺たちの手で潰したと言っていい状態だ。

 

「この神木って――倒して手に入る特殊アイテム以外にもさあ――」

ユウキが、ふと口を開いた。眼差しに、ちょっとした好奇心がにじんでいる。

 

彼女が何を訊きたいのかは、わかっていた。

 

「化身、もらいましたよ」

俺は知恵の書を開いた。

 

「化身――群樹連理の神木」

 

俺は誕生日プレゼントをもらった子どもみたいに、その場で、この神木の化身に変身しようとした。

 

俺の体に、すぐに変化が起こった。

 

四肢と胴体に木質化した皮膚が広がり、髪からは細かな枝葉が芽吹きはじめ、髪の付け根から外側へと伸びて、半透明の、葉脈の文様を持つ緑の葉が、ふわっと開いた。

 

俺は感じることができた。自分とこの迷宮の、ある根系のような何かが、繋がっているのを――足元のさらに下、見えない何かが、土壌の深いところまで伸びているような感覚があった。

 

視界の周囲には、ぱらぱらと魔法のオプションが浮かび上がってきた――

激怒、狂暴、魅惑、操縦、アレルギー、毒気……

 

俺はそれらのオプションを、ひと通り見て、ひと通り読んだ。

 

この神木の化身は、防御力がずば抜けて高く、状態異常系の魔法もたんまり詰まっている。

一目見れば、これは敵をじりじりと削り殺すための形だとわかる――俺のこれまでの化身とは、まったく違う戦闘スタイルだ。

 

さすが、「漸」という字を背負っているだけのことはあった。

 

「マスミ、ちょっと、森の神様みたいだね」

サチが俺の周りをくるりと一周しながら、目を輝かせた。

 

「ユウキ、こいつをかっこいいと思うんだったら、素直に見ればいいじゃん」

ワカナが横からユウキをからかった。

「べ、別に何も見てないよ!」

ユウキはぱっと顔を赤くした。

 

「ユウキ、さっきマスミのこと――」

「見てないってば!」

 

『化身めっちゃかっこいい!!』

『マスミ、樹精霊化したwwwwww』

『ユウキの目線、こっちにもバレてるからね』

『ワカナ、ほんとユウキいじりが好き』

『樹精霊マスミ、爆誕!』

 

俺は化身を解除して、もとの姿に戻った。木目の皮膚と枝葉がだんだん消えていって、自分の体に戻っていく。

 

「さて、戻ろうか」

俺たちは観の門への転送の準備をした。

 

発つ前、俺はもう一度、まだ燃えている二十キロの巨樹に目をやった――こいつはあと数日は燃え続けるだろう。塵は数か月にわたって空を漂うだろう。火山も噴火を続けるだろう。この大地の生態系が回復するには、何百年もかかるかもしれない。

 

そして俺たちは、もう、ここから去る。

何の責任も負わずに、すぐ帰ってしまう、っていうのか?

 

俺は、あの素朴な性格のゴブリンたちのことを思い浮かべた。

彼らはまだ観の門の中にいるだろう。きっと、たくさんの質問を投げかけてくるはずだ。

 

「どう謝ったらいいんだよ……」

俺はぼそりと呟いた。

 

彼らの故郷を、あんな大災害に巻き込んでしまったのだ――

俺は本気で考えはじめていた。あのゴブリンたち一人ひとりに、土下座でもしたほうがいいんじゃないか、と。


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