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倒した敵は俺の力になる 〜魔物だらけのダンジョンを攻略しながら、ドロップ品を配信で売って一気に億万長者へ〜  作者: 上部乱
巽の塔ー風山漸

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第75話 成層圏の上の樹冠


四方に散らばっていった二十万体の木霊から、ほどなくして報せが届いた。


敵の出現。


こいつらには人間の五感がない。だから俺と繋がっていても、こいつらが具体的に何に出くわしたのかまでは、はっきりとわからない。

だが木霊はなにせ光合成生物だ。光を感じる能力は、決して低くない。


明暗の変化への反応を通じて――どこの光が遮られたか、どこの影が動いたか、どこの空が、何か巨大なものに塞がれたか――俺はあちらで起きていることを、おぼろげに感じ取ることができた。


俺は目を閉じて意識を集中させ、四方八方から流れ込んでくる細かい情報を整理していった。


「北の方角に、極端にデカい敵が三体います」

俺は目を開けて、仲間に告げた。


「極端にデカい敵が三体、ね……」

ユウキが眉をひそめた。

「もしかして……他の三体の呪術師ってこと?」


「行ってみればわかりますよ」


俺たち一行はすぐに飛び立ち、北へと進んだ。


風が稜線の向こう側から吹き込んできた。俺は少し進路を修正し、頭の中の「明暗の変化」が示す方向に従って飛んだ。

他の面々もぴったりと後ろについてきていて、誰もが臨戦態勢を保っていた。


そして案の定――


俺たちが一つの稜線を越えた瞬間、視界がぱあっと開けて、広大な高原の上に、ゆっくりと動く三つの「山」が現れた。


どれも、さっき俺たちが倒したやつとそっくりだった。灰褐色の体に、びっしり茂った緑の葉。動きの遅さときたら、こいつらの上では時間が違う尺度で流れているんじゃないか、というほどだ。


ただ、今回は三体。


「なんでよ!」

サチの声には、「冗談がきつすぎる」みたいな放心が混じっていた。


「もう一回、あれをやるの?」

ワカナはこめかみを揉んだ。

「この階層、お金かかりすぎでしょ」


「マスミ」

ユウキも一緒にそちらを見やり、眉を強く寄せた。

「可燃物の備蓄、足りないよ。買い足すにしても、お店を変えないとね。さっきのホームセンター、あそこの在庫はもう私たちが買い尽くしてるはず」


『三体!!!』

『主たちどうすんの』

『ホームセンター「またのお越しを」』

『あんなに灯油買い込んだの誰だよ』

『ワカナ、おまえが一番の大口客だろwwww』


「いや、今回は燃やさなくて大丈夫です」

俺は言った。


「じゃあ、どうするの?」

サチが振り返った。


「見ててください」


俺は意識を集中させ、漸の台の各所に散らばっている二十万体の木霊たちに指令を送った――戻れ、集合しろ、俺のところへ来い。


高原の視界の中、遠くの稜線のあたりで、緑色の波がうっすらと現れはじめた。

木霊たちが四方八方から戻ってきて、潮のように、俺たちの足元のこの高地に集まってくる。


二十万体の小さな、土を一塊抱えたまんまるな影が、見る間に山頭一面を埋め尽くした。あまりに密度が高くて、足元の地面ですら見えなくなった。


「ふん――」

俺はいちばん近い呪術師を見据えた。

「まずは右足から、いっとくか」


俺は明確に指令を発した――木霊たちを全員、一体目の呪術師の右足へと這い登らせる。


「みんなで、あの足を奪い取れ!」


二十万体の木霊。本来なら山ひとつぶんに散らばっているべき数が、いまそのうちの一本の足に、まるごと集中している。


こちらの密度は、向こうを大きく上回っていた。ほぼ五対一の状況になっていた。


十分あまりが過ぎた。


巨大な呪術師の片方の脚が、外側から崩れはじめた――俺の木霊たちが、相手の土を一塊また一塊と奪い取って、それを自分の懐に抱え込んでいく。

土塊を奪われた敵側の木霊は足場を失い、こちらの木霊たちに絡みつかれ、絞め殺される、という形で一体一体処理されていった。


その脚は根元から上に向かって、一寸また一寸と、廃土に変わって地面へと崩れ落ちていった。


その全工程に、天地を揺るがすような派手な場面はなかった。ひっそりと、自然界の植物どうしの目に見えない競争が、肉眼でわかる速度に早送りされている――そんな感じだった。


「いいぞ! そのまま、上へ!」


俺の木霊たちは、植物に這い広がる根腐れ病のように、数メートルずつ、上へ上へと這い登っていった。


まずは相手の土を奪う。

緑の根腐れ病だ!


そして敵側の木霊が抵抗しようとしたとき――こいつらは自分の最悪の特性を発揮した――植物への寄生本能だ。


俺の木霊たちは、自分の同種に絡みつき、絞め殺しはじめた。植物だけあって動き自体は本当にゆっくりとしか進まないのだが、その絞殺の過程は、緩慢で、なおかつ不可逆だった。


そして何より重要だったのは――呪術師のあの防御的な呪い、アレルギー、毒、惑わし――が、自分たちの同種にはまったく効かない、ということだ。


俺たちを全滅寸前まで追い込んだあの呪いの場が、今回の戦いではまったく機能しなかった。


『木霊どうしになると呪い無効www』

『毒をもって毒を制すの極み』

『あの呪術師、もう抵抗できないじゃん』

『この絵面、めちゃくちゃ不気味だな……静かに山ひとつ崩れてる』

『木霊軍団こっわ』

『「緑の根腐れ病」、ネーミングが本当にぴったり!』


一時間も経たないうちに、俺の木霊軍団は、その山頭をまるごと引きはがし終えていた。


「おお! 燃やすより速いじゃん、これ!」

ワカナが隣で目を輝かせて感嘆していた。


「しかも、二十万の軍団から四十万の軍団に増えちゃってる!」

サチが嬉しそうに飛び跳ねた。


「四十万どころじゃないですよ……」

俺は知恵の書の上で動く数字を見やった。

「端数も合わせると、もう五十万を超えてますね」


俺は話しながら、引きはがしていった敵側の木霊たちを、順次、自分の従者へと変換していった。

同時に、次の指令を下した――全軍そのまま、もう一体の呪術師に攻めかかれ。


「それ、向こうが防御に戦力集中してくるかも、って心配じゃないんだ?」

ユウキが訊いた。眼差しに、わずかな慎重さが混じっていた。


「絶対しないっていう確信があるんですよ」

俺は言った。

「結局のところ、こいつらは思考のない植物の集まりなんで。戦術もない、コミュニケーションもない、リーダーもない。『太陽を追いかける』っていう本能の駆動を失った瞬間、自衛すらできない連中ですから」


二つ目の山頭の解体は、一つ目より速かった――兵力が増えていたからだ。


三つ目は、さらに速かった。


漸の台の北側の高原ぜんたい、もとはゆっくりと動いていたあの三つの「山」が、三時間と経たないうちに、俺の木霊軍団によって内側からまるごと引き抜かれていった。


呪術師三体をすべて落としたとき、俺の手元の軍勢は、すでに百万を超えていた。


俺のレベルもまた、跳ね上がっていた。


俺は知恵の書を開き、ステータス欄を見据えた。瞳孔が、ぐっと縮んだ。


新田真澄 Level 18

EXP 606,560 / 13,107,200


HP 1020 / 1020

MP 370 / 370


反応 30

筋力 28

霊感 32

運 30

自由分配 20


「レベル十八……」

俺はぽつりとつぶやいた。


「わたしも」

サチが自分の書を覗き込み、ちょっと信じられない、という声を出した。


「追いついたんだ……私も十八」

ユウキも続いて確認した。


「私も十八」

ワカナが鏡に触れた。あのローズゴールドのチェーンが、陽光の中で、きらりと光った。

「Lv1から今のLv18まで、なんかさあ、私、昨日の私とはもう別人だわ」


『LEVEL 18!!!!』

『主たちのレベル、ほんとに常識外れすぎ』

『ワカナ「朝、Lv1。午後、Lv18」』

『この経験値の単位、どんな概念なの』

『呪術師三体倒して三段階アップ』

『真澄の軍隊、もう100万超え』


「セバスティアンが言ってたじゃないですか。ここはあちこちに巨大な生物がいるって」

ユウキは遠くの連なる稜線を見やった。

「あれは、別に俺たちをからかってたわけじゃ、なかったんですね」


「この感じだと、漸の台にはまだ、こういう呪術師がもっといそうですね」

俺は言った。


「狩り尽くしちゃう? 経験値、めちゃくちゃ美味しいよ!」

サチが嬉しそうにぴょんと跳ねた。


「俺としても、そうしたいんだけどさ――」

俺の視線は、夕暮れの色に染まりはじめた遠くの空へと向かった。

「ちょっと違う種類のが、現れたんだよ……」


そう口にしたとき、俺は呆然と立ち尽くしていた。


「この階層のボス?」

ワカナも俺の視線を追いかけた。


「絶対そう」


遠くの空、夕暮れの一角。


呪術師三体ぶんはあろうかという、巨大な何かが現れていた。


しかも、そこに現れていたのは「山」ではなかった。

なんと、一本の樹だった。


巨大で、青々として、雲を貫いて聳え立つ一本の樹。地平線の向こうから、ゆっくりと立ち上がってくる――いや、立ち上がっているのではない。もとからそこにあったものが、夕陽の角度によって、あらわになっただけだった。


幹は信じがたいほど太く、樹冠は空の一角をまるごと覆ってしまうほど広い。遠いから、見た目には一本の樹の形をしているのだが、見れば見るほど、何かがおかしい――そのスケールが、もう「樹」という言葉では捉えきれないほど、大きすぎるのだ。


樹冠は高空にあって、葉はうっすら白みがかっている。葉緑素がそれほど多くなくても光合成ができるみたいな様子だった。


「あの樹の葉ってさあ、完全に一方向だけを向いてない?」

ワカナは目の前の状況に、どうにも違和感を覚えていた。


俺は目を凝らしてみた。彼女の言うとおりだ。この樹の葉は、ただ一方向だけを向いている。そしてそれは、太陽に向いている方向ではなかった。風に吹かれる方向だった。


「あの高さ、樹の天辺はもう、大気が垂直方向に動く範囲を、はみ出てるんじゃないかな」

俺は信じがたい思いで口にした。


「つまり、あの高さで、樹の天辺が成層圏にまで達してる、ってこと!」

ユウキは口に出してから、自分でも驚いたみたいだった。

「このスケール、やばすぎ。もしここの環境が地球とそんなに違わないなら、この樹の高さって、十キロを超えてることになるんだよ!」


俺たち四人は、引き抜かれて何もなくなった高原の上に立ち、黙ってその遠景を眺めていた。


風があの樹の方向から吹いてきた。重たくて、古い森に属する匂いを連れていた。


チャットでは――


『あれなに????』

『うわっ、あのサイズ』

『一本の樹?? 樹なの?』

『これがボス、ってこと?』

『主たち、はやく戻ってきて!!!』

『あれ、山よりデカい』

『もはや、空を支えてる感じすらある!』


俺は意識を集中させ、百万体の木霊たちに、指令を伝えた――


「全員、集合、こっちに来い」


風が、俺の上着の裾をはたはたと打ち鳴らす。


「あっちに、進軍する」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


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