表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倒した敵は俺の力になる 〜魔物だらけのダンジョンを攻略しながら、ドロップ品を配信で売って一気に億万長者へ〜  作者: 上部乱
巽の塔ー風山漸

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/81

第74話 二十万苗頭軍


ダンジョンの道標灯がない以上、当然次の階層へは進めない。


そしてそれが意味しているのは――俺たちがさっき倒したあの呪術師は、この階層の本当の主ですらなかった、ということだ。


「あれだけ苦労した相手が、ボスじゃなかったとはねえ……」

ワカナがため息をつきながら、火炎放射器を肩から下ろした。あの代物は、見た目どおり、相当ずっしりしていた。


「サチちゃん、これまで見た予言の中に、今日に関係しそうなのって、ある?」

ユウキが振り返って訊いた。


サチは首を振った。

「うーん、わたしの予言って、そこまで便利じゃないんだよね。今夜、わたしたち、豚の丸焼きが食べられるってことしか見えてないの」


「……その予言、めちゃくちゃ具体的なんだけど」

ユウキが言った。


「ふふっ、そうみたいだよね。あのゴブリンたち、本当に山豚の丸焼きを貢ぎに来るんだ」

ワカナが笑った。


「ってことは、この階層では、俺たちは大ごとにはならないってことですよね」

俺はちょっと安心した。


『サチの予言「今夜、豚の丸焼きが食える」』

『予言システムの精度が絶妙すぎる』

『ゴブリンが貢ぎに来るwww』

『この予言能力、いったい何の役に立つんだろうwwwww』

『今夜の晩メシ、豪華!』


「ワカナ、ちょっと聞きたいんだけど」

俺は話題を戻した。

「乙姫からもらった真理の鏡って、こういう場面で使えそうな能力、なにかある?」


ワカナはちょっと考えて、鏡をぶら下げているローズゴールドのチェーンを指でなぞった。


「あの能力たちが、この場面で役立つとは思わないんだよね」

彼女は言った。

「でも、試してみたい方法が、ひとつあるんだ」


「どんな方法?」


「うまくいくかわからないから、まず試してみる」


ワカナは操られている多脚土塊を一体、こちらへ引っ張ってきた――

さっきの、彼女がボクサー風に仕立て上げたあの個体だ。あの土塊たちの中では、かなり目立つ存在だった。


こいつはずっと「殴る気満々」みたいな構えを保っていて、いま呼ばれてやってきたときの動きにも、その鋭さがにじんでいた。


ワカナはその前にしゃがみ、土塊のてっぺんに生えた小さな苗にそっと触れて、目を閉じ、意識を集中させた。


俺は隣で数秒見守った。

邪魔をしないように。


「どう? なにか、見つけ方を教えてくれた?」

俺は声を落として尋ねた。


ワカナは目を閉じたまま、首を振った。


「訊いてるんじゃなくて、こっちが指令を出してるの」


そう言い終えるか終えないかのうちに、操られた土塊はもう、ぎこちない足を踏み出して、よろよろと山の下のほうへ駆け出していた。


「面白そう。どんな指令出したの?」

サチが、駆け去っていく土塊の後ろ姿を、興味津々で眺めた。


「ダンジョンの道標灯を探してきて、って」

ワカナは目を開けて、苗から手を引っ込めた。その表情には、いま自分の予想がひとつ実証された、という満足感がにじんでいた。


「でもさ……」

俺はそいつが走っていった方向を見た。

「漸の台、こんなに広いのに、あの一体だけで見つかるかな?」


「だから、もっと出すんだって」

ワカナは当然のように言った。


「うん、じゃあ、もう少し作るか」


俺はもっと木霊の樹根を取り出そうとした。


「ちょっとちょっとちょっと!」

ワカナが慌てて、俺の手を押さえた。

「そんな贅沢しないの。これね、売れるんだよ。しかもけっこう高く売れる」


俺は手を引っ込めた。

「じゃあ、誰を使って探させるんだ?」


「あんた、倒した敵を従者として召喚できるんでしょ?」

ワカナはさっき焼け落ちた山の斜面を指差した。

「私たちがさっき焼き殺した木霊、ざっと見て……二十万体は下らないと思うけど」


俺は一瞬、固まった。


二十万。


ワカナにそう言われて、急に意識がはっきりした――

俺の手駒は、いまや二十万の兵力を擁している、と言っていい。


『二十万!!!!!!』

『主の部下、また増えたw』

『木霊軍団』

『ワカナ、頭の回転えぐい』

『この数字、大学生のバイトが持ってていいやつじゃない』


俺は知恵の書を開いて、従者召喚のページを探し当てた――これは神器が俺に与えた能力で、倒した敵を従者として召喚できる、というものだ。


中孚堂では使わなかった。

ボカ・デ・クペでも使わなかった。


そもそも敵を殺してはいなかったし、アンドリアス・サピエンスとピクシーがいれば、たいていの場面はもう間に合っていた。


だが、今回――俺は山ひとつぶんの木霊を、まるごと焼き払った。


俺は意識を集中させ、木霊たちを召喚した。


最初は、地面のあちこちにぽつりぽつりと現れた、いくつかの緑の光。出はじめの小さな火種みたいだった。


それから、その緑の光が、面となってつながっていきはじめた。


焼け落ちた山の斜面が、ゆっくりと青々とした緑に覆われていく――速度はだんだん上がっていって、一寸また一寸と、緑が押し広がっていった。


黒く焦げた土の中から、木霊たちが一体、また一体と姿を現した。

どの個体も、地中に根を張り、焦土から小さな土の塊を抱きあげ、それを自分の体としてまとっていく。


なにせ数があまりに多いせいだろう。

一体あたりの取り分は、悲しくなるくらい少なかった――


俺の二十万の大軍は、そのほとんどが、握りこぶしぐらいの大きさで、まんまるしている。

てっぺんには頼りない小さな苗がぴょこんと立っていて、まるで誰かが家庭菜園のプランターから掘り出した苗が、なぜか歩き方を覚えてしまった、みたいな見た目だった。


斜面ぜんたいが青々とした緑に覆われていて、まるで草原のようだった。遠目には、そこがついさっきまで真っ黒な焦土だったとは、ちょっと信じられないくらいだった。


チャットの女性陣がはしゃぎだした。


『うわぁ――――――』

『緑の海』

『かわいい!!』

『ちっちゃい木霊!!!』

『ミニ盆栽20万体召喚した』

『この絵、癒される!!』

『土を抱えてる姿、もはや反則レベルで尊い』


その小さく愛らしい姿で、あちこちを駆け回っていた。

地面でくるくる回っている子もいれば、隣の子の頭の上によじ登ろうとしている子もいる――焦土から生まれてきたばかりで、自分の現状をまだ把握しきれていないせいか、全体としては、にぎやかではあるが、秩序のかけらもない混沌の様相を呈していた。


その光景を眺めていると、俺の胸の中にも、なんだかぽかぽかして可愛らしいものがこみ上げてきた。


ほんの数分前まで、こいつらは俺たちを散々苦しめた呪いの源だった。

それが今は、俺の部下になっている――しかも、なんとも無害そうな部下に。


俺は意識を集中させ、指令を一斉に全員へと届けた。


そして、ひとつの念が走り抜けた瞬間――青々とした苗の海が、その場でぴたりと、停止した。


二十万体の木霊すべてが静止していて、まんまるな小さな体を、揃って俺と同じ方向へ向けている。


その光景の壮観さに、俺自身も一瞬、見入ってしまった。


二十万の小さな命、二十万の混じり気のない緑色の影が、全員、静かに俺の言葉を待っている。


チャットも一秒、ふっと止まった。それから――


『全員ピタッて止まった!!』

『そろい方が鳥肌レベル』

『二十万体が同時に主を見つめてる』

『ご主人さま威風堂々』

『マスミ、いま自分のこと、百万の兵を率いる大将軍みたいに感じてるんじゃない?ww』


俺は本当に、これだけの命を指揮できるのか……

この感覚、現実味がなさすぎる!


考え込むのは、やめておこう。

俺は深く息を吸って、指令を伝えた。


「行け!ダンジョンの道標灯を見つけ出せ――」


そこで一拍置いて、二つ目の指令も加えた。

「この漸の台の、真の主を探し出せ!」


俺たちの目の前に広がっていた、青々とした苗の海が、その瞬間、いっせいに散らばっていった。


俺たちが立っている場所を中心に、波紋のように四方八方へと広がっていく。

一体一体が、揃った速さ、揃った方向感覚を持って、それぞれ違う角度に分かれ、漸の台のあらゆる隅へと駆けていった。


その光景には、なんとも言いがたい壮観さがあった。


風が山の上から吹き下ろしてくる。焦げた匂いを運びながら、それでも、生まれたばかりの緑の葉のような、もう少し新鮮な香りも、わずかに混じっていた。


俺は二十万体の小さな、忠実な姿が遠くへ散らばっていくのを眺めながら、胸の中に、どっしりと落ち着いたものが湧いてくるのを感じた。


「マスミ……」

サチが俺の隣で、そっと口を開いた。

「あなた、今、もう大将軍だね」


「その肩書きは要らないって」

「緑葉軍団大統領?」

「それも要らない」

「苗頭軍総帥?」

「お前、面白がってるだろ」

「うん」

彼女はとても嬉しそうに笑った。


『サチが完全に乗っかってるwwww』

『主、断るのちょっと遅かった、もうそう呼ばれてるw』

『二十万の青き苗の主』

『頭から苗が生えてる兵士www』

『苗頭軍総帥マスミ!!』

『この肩書き、採用!』


ワカナは、散らばっていく青々とした波を眺めながら腕を組んでいた。その目つきが、だんだん真剣になっていく。


「あの子たちが見つけ出してくれれば、目標がはっきりするよね」

彼女は言った。

「でもさ、なんか不安なんだよなあ」


「どうした?」


「この呪術師ですら、これだけ手こずったのに、それがこの階層の雑魚って……じゃあ、本物のボスって、どんなのよ?」


「ワカナの言ってること、わかるよ。俺もすごく心配」

俺は彼女の視線を追って、遠くへ続く山の稜線を見やった。


風はまだ吹いていて、火も完全には消えていない。遠くで、煙がまだ立ちのぼっている。


俺たちが送り出した二十万体の小さな木霊たちが、いま一体一体と、漸の台のあらゆる隅へと駆け込んでいるところだった。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


面白いと思っていただけたら、

よろしければ ブックマークや評価、感想 をいただけると嬉しいです。


あなたの応援が、

これからの執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ