表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倒した敵は俺の力になる 〜魔物だらけのダンジョンを攻略しながら、ドロップ品を配信で売って一気に億万長者へ〜  作者: 上部乱
巽の塔ー風山漸

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
69/159

第69話 この山の中に身を置いて


無傷というのは違う。

だが今、あの呪術師の胸には、確かに傷が残っていなかった。


土と石が、さっき俺がぶち抜いた穴を埋め尽くしていた。表面には新しい葉まで生えていて、まるで何事もなかったかのようだった。


俺はその場所を数秒間じっと見つめた。頭の中の計算が、いつまで経っても合わない。


万を超える霊感、半径十数キロ以内のすべての水。それを全部、あの一発に圧縮した。


それだけ撃ち込んで、あいつは無傷同然だっていうのか?


『治った!!!』

『あれだけで戻るのかよ』

『さっきの一撃、空気撃ってたのと同じじゃん』

『おーい、必殺技ミスった人いるぞー』

『傷口が巻き戻しみたいに塞がった』


「マスミ」

ユウキが口を開いた。眉根を寄せている。

「あれが傷を治す方法、砂と土で埋めて戻してたよね。あいつ、生き物だと思う?」


俺は少し考えた。

「確かに、生きてるって感じはしないですね」

俺はもう一度、あの巨大な呪術師に目をやった。


「そう考えると、あれはトレントじゃないのかも。ゴーレムみたいなやつ……命はなくて、何かの仕組みで動いてる存在、っていうほうがしっくりくる」


「無生物の敵なら」

そばでフェアリーが、ゆっくりと口を開いた。


彼女の視線は、ゆっくり動く巨体から離れない。

「動力の核か、それに類する刻印などの弱点を探す必要があるわね。外殻を壊すだけじゃ、たぶん意味がない」

それでようやく腑に落ちた。


さっきの巨大なミストキャノンは、効果がなかったわけじゃない。俺がそもそも急所に当てていなかった、というだけのことだ。


ゴブリンを刀で斬ったつもりが、上着しか裂けなかったようなものだ。ダメージは入っているが、本当に肝心なところには届いていない。


俺はあの呪術師に、ほとんど有効な打撃を与えられていなかった。


ただ――

俺は空中で一拍止まり、知恵の書を開いて、ステータス欄を確認した。


「みんな、聞いて。さっき俺たち、たぶん何かを倒してる」


「えっ、なんでわかるの?」

サチが振り返った。


「経験値がちょっとだけ増えてるんだ。多くはない。二十くらい。ピクシーを一匹倒したくらいの量」


「あれの体に止まってる、何かの生き物じゃない?」

ユウキはその方向に目を細めた。

「寄生してる何か、みたいな」


「それはわからないです」と俺は答える。

「でも、この迷宮に入ってからずっと、敵以外の生物を誤って殺して経験値が入ったことなんて、一度もない。」


「それに、なんとなく感じるんですよ。

さっきのミストキャノンで死んだのは、この迷宮の敵対生物に分類されてるやつなんだろうって。

それが何なのかは、まだわかりませんけど」


高空の風が、ごうごうと吹き抜けていく。

俺たちの声を四方八方へと散らしていった。


顔を見合わせる。

次にどう動くか、誰も口に出せなかった。


あの呪術師は、俺にあれだけ撃ち込まれたというのに、こちらに何かする気配が一向にない。


視線すらこちらに向けない。

ただ、極端にゆっくりとした動きを続けているだけだ。一歩進むのに、一日かけているんじゃないかというくらいの遅さで。


膝はまだ曲がったまま、足は地面から抜けきっていない。

俺はもう一度じっと観察した。


足が向かっているのは南。

だが上半身はかすかに東を向いている。

ちょうど、太陽が昇る方向。

あの光に向かって、ゆっくりと何かの儀式を行っているかのようだった。


「あー、もう、わからないことが多すぎる!」

俺は遠回りなどやめて、まっすぐ呪術師の方へ飛んでいった。


「マスミ、そんなに近づいて大丈夫? 

ちょっと無謀じゃないかな」

ユウキの声が後ろから追いかけてきた。


「平気ですって。あの呪術師、俺たちのこと完全に眼中ないですから!」

近づいて、近づいて、さらに近づいて――

体に生えた葉に手が届くくらい、葉脈の一本一本まで見えるくらいまで来た。


そして俺は、そのまま、そいつの体の上に降り立った。

足をついた瞬間、思わず動きが止まった。


踏みしめているのは、しっかりとした土だった。


周囲には、びっしりと木が立っている。

幹は太く、背が高く、枝葉が広がって、空の光をほとんど上で遮っていた。

地面には落ち葉が層をなしていて、踏むとふかふかと弾むような感触がある。


さっきまで遠くから呪術師の全体像を見ていなかったら――今ここで目を閉じて立たされたら、俺は完全に、自分が深い山の中にいるとしか思わないだろう。


「あれ、言われなきゃ、ここって本物の山みたいだね」

サチも飛んできて、隣に降り立った。


ぐるりと辺りを見渡し、その口調は実にのんびりしていて、新しい観光地に来た旅行客みたいだった。


「山っぽいけど、なんかちょっと違うんだよなあ」

ワカナも俺の隣に降りる。眉をひそめて、木と木の隙間に視線を走らせていた。


「静か……静かすぎる」

ユウキが追いついてきた。

声は軽く落としていたが、姿勢はすでに張りつめていて、手が剣の柄に近づいていた。


その言葉に、俺も耳を澄ませた。


彼女の言うとおりだ。とにかく静かで、静かすぎて、どこかおかしい。

深い山の中だから、ときおり風の音はする。でも、それ以外には何もない。


「鳥の声がしないですね」

俺は言った。


「虫もいない。他の小動物の気配もない」

俺たち四人は手分けして、この「山林」を一周してみることにした。


木はとにかく多い。

びっしり生えていて、どの方向に進んでも木、木、また木。

けれど、木以外には何もない。


低木もない。雑草もない。苔もない。

岩の隙間に生える、あの細々とした植物すらなかった。


ワカナが、突然大きな声をあげた。

「わかった! どこが変なのか!」


俺は振り向く。

「どこが変なんだ?」


「この山にある木、全部同じ種類なんだよ!」

彼女の声には、最後のピースをはめ込んだときみたいな、急いた調子が混じっていた。


「雑木が一本もない。雑草も一本もない――この山、この一種類の木しか生えてないの!」


しゃべるうちに、息が少し上がっていた。

俺が何か返そうとしたとき、ユウキが先に口を開いた。


「そう考えると、この山には動物もいないし、他の植物もない。つまりこの山には、たった一種類の生き物しかいないってこと」

そう言い終えてから、彼女はふいに、くしゅん、とくしゃみをした。


「で、さっきミストキャノンを撃ったあとに増えた、あの二十の経験値ってのは――」

俺は周りの木々を見渡した。


「たぶん、こいつらから来てるんだ」

そう口にしたことで、あの呪術師についての理解がまた一段、進んだ。


この「山」全体、この「森」全体が、あの呪術師の一部だったのだ。


そいつの体には、たった一種類の生き物だけで構成された森が、まるごと生えていた。

これらの木は、びっしりとそいつの体に生えている。というより、これらの木自体が、そいつの一部だった。


俺が放ったミストキャノンが、そいつの胸を吹き飛ばし、その場所に生えていた木をまとめて消し飛ばした。それで、二十の経験値が入ったというわけだ。


「じゃあ、この木が、わたしたちの敵ってこと?」

サチがそう言いながら、こほっと小さく咳をした。


「間違いないですね」と俺は答える。


『ちょっと待って待って山ぜんぶがあいつの一部!?』

『あの木が敵!!!』

『おまえら今、敵の上に立ってるぞ』

『この真相、ヤバすぎる』

『でもなんで「呪術師」で「巨人」じゃないの……』

『セバスティアンが言ってた「大きさだけの問題じゃない」って、これのことか!!!』


そう言葉を交わしているうちに、俺はだんだん、何かがおかしいことに気づきはじめた。


体が――今日はやけに早く疲れる。

思考も、いつもほどクリアじゃない。


昨晩よく眠れなかったせいだろう、と最初は思っていた。


けれど、こうして木立の中に立っていると、そのもやもやした不快感がどんどん強くなってくる。空気の中に、何かがじっとりと体の上にのしかかってくるような感覚があった。


そこでようやく、俺は気づいた。

降り立ってからずっと、一言も口を開いていない仲間がいることに。


「フェアリー、なんで何も言わないんだ?」

顔を傾けて彼女を見る。

同時に、自分の体がまた一段、重くなったのを感じた。


「ご主人さま……ごめんなさい、わたし、今、まったく集中ができなくて……」

そう言い終えるなり、彼女はくたっと俺の肩に頭を預けて、そのまま気を失った。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


面白いと思っていただけたら、

よろしければ ブックマークや評価、感想 をいただけると嬉しいです。


あなたの応援が、

これからの執筆の励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ