第63話 ダブルデート
転送門を通って、人通りの少ない路地に瞬間移動した。
私の能力はもう半ば公になっているが、街をぶらつくだけで騒ぎを起こしたいわけではなかった。
『駅で待ち合わせ』
サチに短くメッセージを送って、スマホをしまい、ゆっくり駅の方へ歩き始めた。
見慣れた街並み、見慣れた人の波、見慣れた車の音とコンビニの放送。
昨日の熱帯ジャングルと人気のないサンクトペテルブルクの倉庫と比べると、あまりにも普通すぎて、しばらく現実に戻れない感覚があった。
駅の前で立ち止まり、周りを見渡してサチを探した。
そこでワカナが目に入った。
駅の入口の脇に立って、スマホを手に持っていた。私を見た瞬間、顔がぱっと明るくなって、元気よく手を振ってきた。
「マスミ!」
心の中で一拍置いたが、何事もなかったように手を挙げて返した。
「奇遇だね、ここに来てたんだ。誰かを待ってるの?」
ワカナは冗談でも聞いたような顔で、嬉しそうに私の肩をぽんと叩き、目を細めて笑った。
「もう、マスミっていつからそんな白々しい話し方するようになったの。」
「私が?白々しい?」生まれて初めてそう言われた。
「駅前に集合って言ったのはあなたじゃない?」私が戸惑っているのを見て、ワカナも怪訝そうに聞いた。
「わざととぼけてるの?」
「サチがあなたに言ったんでしょう。」
できるだけ自然な表情を作ろうとした。
「そうよ、一緒に街をぶらついて買い物しようって連絡してきたから。」
心の中で叫んだ。
サチ、彼女っていう立場が何なのかわかってる?
その抜けた子に電話しようとスマホを出しかけたとき、噂をすれば——
彼女は路地の向こうから私たちの名前を大きな声で呼びながら、飲み物を手に持って、いたって気楽な様子でやってきた。
「マスミ!ワカナ!もう来てたんだ!早いね。」
私は小走りでサチのそばに行き、少し引き寄せて、声を低めて聞いた。
「なんでワカナまで呼んだの?」
「あ、街に行くって言ったから、どうせワカナとも約束してたし、一緒にしようかなって。」
「わかってる?」
はっきり言わなければと思った。
「私はあなたの彼氏として誘ったんだよ。
これはデートだよ。デート。」
「あ、それなら一緒でもいいじゃない!」
サチの表情が、本当に要点を掴んでいないのか、わざと掴んでいないふりをしているのか、判断のつかない顔だった。
彼氏とのデートに友達を連れてくる女の子に会ったのは、生まれて初めてだった。
「ごめんなさい……」
ワカナの声が横から聞こえた。
少し申し訳なさそうな声で。
「二人が今日デートだとは知らなかった。
邪魔だったかな?」
「そんなことない——」
何か言おうとしたとき、サチが先に口を開いた。
「邪魔なんかじゃないよ、ワカナもこのデートの一員なんだから!」
「え——」
どう続けていいかまったくわからなかった。
「でもデートって……男女一人ずつ……」
「誰が決めたの!好き合ってる人たちが一緒にいればデートでしょ!」
サチの声が一音上がった。
通りかかる人たちがちらちらとこちらを見た。
何も知らない通行人からは、割り込んできた第三者にでも見えるだろう。
好き合ってる人たち。
無意識にワカナをちらりと見た。
気がつくと、あの堂々とした姐御らしい空気がすっかり消えていて、指先を自分でもじもじと絡ませていた。
改めて見ると——ワカナは今日かなり気を遣った格好をしていた。
いつものさっぱりした感じじゃなく、好きな人に会いに行くような、ちゃんと選んだ雰囲気の服だった。
逆にサチはとてもざっくりとしていた。
飲み物まで持ってきて、コンビニに出かける格好そのままだった。
何か言おうとしたとき。
「ワカナ、好きだよ、付き合ってほしい!」
サチがワカナの手を取り、顔を上げて、何のためらいもなくあっさりと言った。
私はその場で固まった。
まさか。
昨日あれだけの修羅場をくぐってきて、今日は振られるのか。
しかもよりによって幼馴染に横取りされるのか。
自分の気配がはっきりと暗くなったのを感じて、頭を下げ、身を引こうと踵を返した。
気を利かせて場を外してやろうと思って。
そこでサチが私の手を掴んだ。
「どこ行くの?」
「え……二人が付き合ったんだから、私は気を利かせたほうがいいかなと……」
自分の声がぶつ切れになっていた。
「気を利かせてどうするの、まだデートするんだよ!」
「これは……」
「三人で、私の彼氏と彼女が一緒にデートするの!」
じっと見つめた。
この子、なんて欲張りなんだ。
堂々と二股を踏んでいる。
しかもおおっぴらに。
別れようとしているわけじゃないとわかって、少し肩の力が抜けた。
でも言わずにはいられなかった。
「さっきからずっとサチが一人で突き進んでるけど、ワカナはまだ付き合うって言ってないよ。」
「言うって!」サチがワカナを振り返った。
ワカナはサチをしっかり見て、それから私を見て、数秒黙ってから、何か決めたような顔でサチに頷いた。
「ほら!」
サチが私の手を片方、ワカナの手をもう片方に繋いで、顔を上げ、女王のような表情で私たち二人を見た。
「じゃあデートしよう、三人で。」
正直なところ、これは本当に妙な感じだった。
私と幼馴染が恋のライバルになった——
いや、ライバルとも言えない。
サチを取り合っているわけじゃなくて、二人とも彼女と付き合っているのだから。
この関係をどう定義すればいいのか頭で整理できなかったので、考えるのをやめて、ついていくことにした。
サチが私たちを服屋に連れていった。
あの子はハンガーラックの間をするすると動き回り、服を手に取って体に当てて、戻して、また別の一枚を取り上げた。
ワカナがそばについて、ときどき一言挟んで、二人はずいぶん楽しそうに話していた。
私は後ろをついて、袋を持った。
ワカナが淡い色のジャケットを取り上げてサチに当ててみて、二歩退いて眺め、
「これいい。」と言った。
サチがすぐに私の方を向いた。
「マスミはどう思う?」
「似合ってる。」
「ちゃんと見てないでしょ!」
「見てるよ。」
ワカナが口元を隠して少し笑った。
その笑い方がいつものワカナと少しだけ違っていた。本人も気づいていないような、かすかな照れがあった。
映画館では、サチが当然のように私たちの真ん中に座った。
左が私で右がワカナ。
最初から最後まで画面に夢中で、緊張する場面になるたびに隣の人をつかんで、私もワカナも何度かつかまれた。
上映が終わって出てきたとき、ワカナはめずらしくすぐに内容の話をしなかった。
数歩前を歩いて、何か考え込んでいる様子だった。
隣に並んで、小声で聞いた。
「どうしたの?」
「別に、」ワカナは言った。
「物事って、こういうふうに動くこともあるんだなって思っただけ。」
追いかけなかったが、何のことを言っているかはだいたいわかった。
スイーツを食べているとき、サチがスプーンをワカナの口元に差し出した。
ワカナが一瞬固まってから、顔を伏せてそれを食べた。耳がそっと赤くなっていた。
私は横でそれを見ていたが、何も言わずに自分の飲み物を一口飲んだ。
夕暮れ時、三人でまた駅へ戻った。
空が街道全体をオレンジ色に焼いて、人の波が私たちの周りを流れていた。
駅のアナウンスが途切れ途切れに聞こえてくる。
一日のデートがこうして終わったが、心の中にずっとすっきりしない何かが引っかかっていて、一日を通してそれが何なのかはっきり言葉にできなかった。
サチが先に口を開いた。
「今日のデート楽しかったんだけど、ただ……」
「ただ何?」私は辛抱強く聞いた。
この子、ダブルデートまでさせてもらっておいて、まだ何があるんだ。
「ただ、あなたは私の彼氏で、ワカナは私の彼女で、一緒に私とデートして、なんか私だけが得してる感じがする。」
少し間を置いた。
「二人が互いに好きになってくれたら、もっといいんだけどな。」
あの目で、いたずらっぽく私とワカナを見た。
その言葉にまったく準備ができていなかった。まだ状況を飲み込めないうちに——
温かい手が私の手を握った。
ワカナだった。
振り向くと、夕日のオレンジ色の光の中で彼女の顔が真っ赤に染まっていて、目がまっすぐ私を見ていた。
これまで一度も見たことのない表情だった。
「マスミ——」
深く息を吸った。
「好きです。付き合ってください。」
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