表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倒した敵は俺の力になる 〜魔物だらけのダンジョンを攻略しながら、ドロップ品を配信で売って一気に億万長者へ〜  作者: 上部乱
巽の塔ー風澤中孚

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/65

第43話 あんな剣の使い方があるか!


「次は、私の番です」

ユウキは膝の砂を払い、立ち上がると、柄を握って「勇気の剣」を鞘から引き抜いた。


剣が鞘走る音は静かだったが、周囲の海民亜人たちは無意識に半歩後ずさった。


彼女がフィールドへ向かう背中を見送りながら、私はずっと聞きたかったが聞けずにいたことを思い出した。


――彼女、剣術なんて習ったことあるのか?


現代の警察官なら、せいぜい警棒術か、趣味で剣道を嗜む程度だろう。


だが目の前にあるのは両刃の長剣だ。

中世の騎士が使うような代物で、剣道の動きとは根本的に体系が違う。


……まあいい。

威力の高いバットだと思えばいいんだ。


「ユウキさん、頑張ってー!」

サチがフィールドに向かって叫ぶ。


叫び終えると、彼女はこちらを振り返った。「マスミ、なんで応援しないんですか?」


あんな小さな体のどこからこれほど響く声が出るのか、少し驚いてしまった。


「敵情を分析してるんだよ」私ははぐらかすように言った。


「絶対ぼーっとしてるだけですよね」


はは、図星だ。


ユウキから聞いた、あの剣の特性を思い出す――。

『万全の準備の勇気、敵を知れば知るほど強くなる』。


問題は、私たちがマファガイスを十分に「知っている」か、だ。


カモフラージュの体色、砂地に潜む手口、逆光を利用した罠――それらはすべて、痛い目を見てからようやく判明したことだ。


今、彼の手元には引き抜いた毒針が一本。

尻尾は欠損しているが、この戦いにおいてまだどれだけの札を隠し持っているか、誰にも確信は持てない。


ユウキが持つ「勇気の剣」に目を向ける。

剣身は淡く発光しているが、その輝きは静かで一定だ。


もっと眩しく光る瞬間を、私は知っている。

つまり、マファガイスに対する理解度はまだ満点ではないということだ。


『ユウキ出陣!!』

『ついにユウキの番だ!!』

『勇気の剣!』

『神器の加護があればいけるだろ?』

『緊張してきた……このマファガイス、マジで厄介すぎる』


向かい合うマファガイスはうつむき、片手で自分の断尾を握ったまま、数秒間沈黙した。


フィールドの周囲が再び静まり返る。


これまでの野次馬根性とは違う、息を呑むような静寂だ。岩礁の上で騒いでいた連中までもが口を閉じ、フィールド中央を凝視している。


マファガイスは断尾を掲げ、もう片方の手で切り口の毒針を引き抜き、指先に挟んだ。


そして、彼は顔を上げると、その残肢を口に放り込み、数回噛み砕いて飲み込んだ。


場内は凍りついた。


「うわっ……」

思わず声が出た。

「あいつ、自分を夏侯惇かこうとんか何かだと思ってんのか!」


「カコウトンって誰ですか?」

サチが首を傾げる。


「三国志の武将だ。矢が目に刺さった時、目玉を引き抜いて食べたんだよ」


「あ……」サチの顔色が少し変わった。

「キモい。聞かなきゃよかったです」


ユウキは半歩下がり、感心したのか嫌悪感なのか判別しがたい表情を浮かべた。

「本当に飲み込んだ……あの人、胃腸が強そうですね」


「息がある限り――」マファガイスは歯を食いしばり、視線をユウキからフェアリーへと移した。


彼は毒針を握りしめる。

「己の血肉を、この海で腐らせるわけにはいかん」


勇気の剣が、ほんの少しだけ輝きを増した。


「それで、本当に俺とやるつもりか?」

マファガイスが毒針を向けてユウキに問う。


ユウキは答えなかった。

ただ、鋭い刺突をもって回答とした。


剣先がマファガイスの胸元へ一直線に突き進む。

無駄のない、鮮やかな動き――その構えは剣道の一本を思わせるが、持っているのは竹刀ではなく、夕陽の中で光を放つ両刃の長剣だ。


マファガイスは半身をずらしてそれを避け、同時に毒針を横に薙ぎ払った。


ユウキは剣でそれを受け流すが、突きが逸れたことで一撃は空を切った。


マファガイスは一歩下がり、再び隙を伺う。

彼女はそれを追って腰を捻り、マファガイスの右側から斜めに斬り下ろした。


袈裟斬りだ。

どう見ても日本刀の剣法だった。


マファガイスが身を屈めると、剣は彼の頭上を通り過ぎ、小さく光る何かが飛散した。


まさか、鱗か?


ユウキの剣勢が尽きる瞬間を突き、彼は歩法を乱さず彼女の左側へ回り込み、毒針を腰へと突き出した。


ユウキは退かなかった。逆に一歩踏み込み、強引に身体を密着させる。


彼女には防弾チョッキがある!


マファガイスの刺突に十分な力が乗らなければ、注射器のような毒針が貫通することはないはずだ。

彼女はあえて装備のある部位で受け、その狙い通り一撃を防ぎきった。


そして、肩で思い切りぶちかましを見舞う。

マファガイスはよろめき、数歩後退した。


『ユウキ、あの剣の使い道わかってないだろw』

『でも結構戦えてるじゃん!』

『今のショルダータックルは何だよww』

『マファガイスが吹っ飛んだ!!』

『いけーユウキ!!』


「貴様、その剣の使い手ではないな」

マファガイスは嘲笑することなく、立ち直って息を整えた。

「だが、その力と速度は……予想を超えている」


「お褒めに預かり光栄です」

ユウキは再び剣を構え直した。

「私も、この剣はバットより使いやすいと思っていましたから」


場外でそれを聞き、私は心の中で言おうとしたツッコミを飲み込んだ。


サチが隣で小さく吹き出したが、すぐに口を抑えて何もなかったふりをした。


岩礁にもたれるワカナは、ユウキが巻いた包帯で手首を保護しながら、目を細めてフィールドを見ていた。


口元がわずかに緩んでいる。

「ユウキはやっぱり、頼りになるね」


そう言うと、彼女は再び岩礁に頭を預け、疲れの中にも満足げな表情で戦いを見守った。


フィールド上の二人が再び交錯する。


今度はマファガイスが隙を待つのではなく、自ら距離を詰めた。

二人が触れ合うほどの超近接戦闘へと持ち込む。


剣には振るうための空間が必要だ。

密着すれば、その脅威は半減することを彼は知っていた。


近距離では、毒針の方が防御しにくい。

短く、速く、そしてあらゆる角度から襲ってくる。


ユウキは三歩、立て続けに後退を余儀なくされた。

砂地に踵が沈み、岩礁沿いの凹凸に足を取られそうになりながらも、必死に身をこなす。


「押されてる……」サチが「幸運の指輪」を握りしめ、声を絞り出す。


「……チャンスを伺ってるのかもしれない」私は確信のないまま呟いた。


四歩目、背後のスペースが消えた。

マファガイスが右手を掲げ、毒針を彼女の胸へと一直線に突き出す。


防御以外に選択肢はない。

ユウキは剣を横にし、その一撃を弾こうとした――。


その時、彼女は見た。

マファガイスの尻尾が、ガードの隙間を縫うように横から回り込んでくるのを。


場外の私の心臓が、どくんと大きく跳ねた。

あの尻尾は、欠損していたはずだ。


しかし、その先端にある毒針が、

いつの間にか再生していた。


再生能力。

こいつには再生がある。


「フェアリーのあの一撃が……」私は絶望に近い感覚を覚えた。


「無駄だったの?」ワカナが身を起こし、眉をひそめる。

「無駄だったとは言えない」

私は不安を振り払うように首を振った。

「だが、効果は俺たちが思っていたほど長くはなかったみたいだ」


マファガイスの口角が吊り上がった。

獲物がかかったことを確信した釣り人のように。


正面と側面、二路から迫る毒針。

ユウキの剣技では、その両方を同時に防ぐことは不可能だ。


『毒針が再生してやがる!!!』

『再生速度がおかしいだろ!』

『チートかよ!! 後ろにヒーラーでも隠してんのか!?』


絶体絶命と思われたその瞬間、ユウキが持つ「勇気の剣」が変貌した。


剣身の輝きが、熱を帯びた紅から、深淵のような「青」へと変わった。


夜空で最も遠く輝く星を盗み出し、剣に嵌め込んだかのような、幽玄な青だ。


それは誇示することなく、ただ静かに形勢逆転の狼煙を上げた。


隣でサチが息を呑むのがわかった。

ワカナは完全に身を乗り出している。

私は瞬きさえ忘れて凝視した。


ユウキの身体が動いた。


その動きは、誰の予想も裏切るものだった。

彼女は重心を不自然なほど左前方へと沈めた。

ほとんど地面を這うような低さだ。


まるで身体の半分が消えたかのような錯覚を相手に与え、二路の毒針を同時に上方へとやり過ごした。

一本は背中をかすめ、もう一本は耳元の空気を切り裂く。


そして、剣を一閃。


通常の構えからは到底放てない角度から、斜め下から掬い上げるように――それでいて確実に、毒針を握るマファガイスの右手首を捉えた。


これ……。


「あんな剣の使い方があるか!」

私は思わず叫んでいた。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


面白いと思っていただけたら、

よろしければ ブックマークや評価、感想 をいただけると嬉しいです。


あなたの応援が、

これからの執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ